見出し画像

元気を出すため、蓄えた本を抱えて眠る。



びっくりするほど、家がまわっていない。


「まわっていない」とは、どういう状況か。
おもに、ご飯作り、洗濯、掃除あたりのルーティンが崩れていることだ。
あと、睡眠がうまくとれていないこと。

家族全員がそんな感じなので、誰もがこころの余裕を失い、皆そわそわと助けを求めている。
ほんとにわたしたちは、「助けて」と言うのが苦手な家族だ。



わたしはというと、相変わらず、書けない。

疲れて余裕のないときって、なんでこんなにつまらないものしか、生み出せないのか。

べつに、日頃から最高におもしろいものを書いているワケじゃない。
でも、しんどいとき書いたものは、じめじめしていて、くすんでいる。


書きたいことが、山ほどあるのに。
書いても書いても、満足いくものに仕上げられないまま、ふて寝する。

目をつむりながら、噛みしめる。
健全な考えをめぐらせるためには、体と心に、ある程度のパワーがなくてはダメなんだ、と。

考えを言葉に置き換える。
置き換えたものを、読み味わう。

いま、そのパワーが欠けている。
どこかで、パワーを補給せねば。


ガソリンスタンドみたいに、頭の上から、元気がそそげたらいいのにな。
そしたら絶対、買いに行く。
元気は、何円で売ってるんだろう。
定期便で、届くんでもいい。


でも、人間のからだとこころが、そんなしくみになっていない。
ということは、このしんどさも「人間らしさ」のひとつと思って、じっと耐えるしかないんだろう。


しんどいときは、しんどいのまま、生きていけ。
そんな声が、聞こえてくる。

しんどいは、ずっと続かない。
いつかはゆっくり持ち上がるはずだ。





元気がないまま、過ごしているのがイヤだったので、本をたくさん注文した。
ビビッとくるものがいくつか見つかり、衝動買いのごとく次々と取り寄せる。

まるで、元気を出すための蓄えのようだ。
読みかけの本を、いくつか紹介。

・岡本真帆『水上バス浅草行き』

塩谷舞さんのnoteを読んで、興味がわいた。

「短歌」って、なんだか難しそうだし、渋くて深くて、よく分かんなそう。
そう思って、避けてきたけど。
塩谷舞さんの記事の冒頭にあった、岡本真帆さんの短歌に惹かれて、すぐ取り寄せた。

岡本真帆さん、同い年。
わたしには、「短歌」の深みはまだ分からない。
でも、こんなに短い言葉だけで、情景が思い浮かび、ふふっと笑いをもたらしてくれる「短歌」って、おもしろい。

ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし

親友は誰かと訊かれ避けてゆく体 廃村の春になりたい

当社比で顔がいい日だ当社比で顔がいい日に限って豪雨


・穂村弘『短歌のガチャポン』


上記の本をきっかけに、いろんな「短歌」を浴びたいと思って、図書館で借りたのが、この一冊。


歌人・穂村弘さんの選んだ、さまざまな時代、作者の短歌がずらり。
こちらも、お気に入りがいくつかある。
深い意味は知らない、でも言葉の並びがたまらない。

本当はメロンが何かわからないけどパンなりにやったんだよね  

 砂崎柊

見えるでしょうこれが破壊というものですぽろぽろぽろぽろうるさい涙

干場しおり


・穂村弘『これから泳ぎにいきませんか』


穂村弘さん自体に興味がわいたので、穂村さんの書評集も買ってみた。

こちらはまだ読みかけだが、引き込まれる。
当たり前だが、本が読んでみたくなる。

紹介された本だけじゃなく、穂村弘さんの書く言葉や文に惹きつけられる。

私たちが詩や短歌や俳句をうまく読めなかったり、苦手に感じるのは何故だろう。学校や会社で普通に使われる散文は「社会」と繋がっている。それに対して、詩歌の言葉は「世界」と繋がっているのだ。

同書、p.40

写真にも共有の思い出にも残すことができなくて、いつかその人が死んだら、空に溶けて消えてしまうような「何か」。
でも、本当はこれらの感触こそが「生きてる」の主成分なんじゃないか。

同書、p.71



ほかにも、くどうれいんさんの『コーヒーにミルクを淹れるような愛』や、島田潤一郎さんの『長い読書』。
山内マリコさんの『あたしたちよくやってる』。
それから、子どもの詩がたくさん載った『ことばのしっぽ』。

注文していた本が、次々と家に届いた。
それらをがさっと抱え込み、まくらの横に積み重ねる。


まだ、しばらくは憂鬱な日が続きそうだ。
元気は、そんなに簡単に戻ってこない。
じわじわと時間をかけて、からだと心に、満たしていくしかないのだ。

どうしてもしんどいときは、本を読もう。
まくらのすぐそばに積み重なった、優しい本たちと目が合った。

眠れないときは、この本たちを抱えて眠る。


この記事が参加している募集

読書感想文

私のストレス解消法

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?