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物語は、勝手に走りだす。



ずっとやってみたかったことがある。
長編を、書き上げることだ。


昔から、物語を頭の中で想像するのが好きだった。
でも、それは頭の中でしかうまくいかない。

いざ、書き始めてみると、己の書きたいことに対する知識も語彙も表現力も足りず、冒頭で手が止まってしまった。
あるいは、書きたいシーンだけ書いて、満足して終わりか。

そうやって、何年も物語を完結させられずにいた。
寝る前に、意識が落ちるまで、空想に浸る時だけが、自分の物語を進める時間だった。


ところが、noteを書き出してようやく、少し物語を書く力がつき始めた。
少なくとも、前より話が進む。
それは、短い絵本のようなものから、二次創作までさまざまだったが、以前よりも確実に「書けそう」という感じが漂っていた。

うまく書きたいわけじゃない。
ただ、わたしが頭の中で考えたストーリーを、ちゃんと形にしたいだけだ。


物語作りの本を買って、読んでみたりもした。
プロットがどうとか、キャラクターがこうもか、書いてあることはおもしろい。
でも、とりあえずわたしは、頭の中にあるコレを、なんとかしよう。
そう思い続けて、数ヶ月。


今度こそ、書くぞ!

今までとは違って、冒頭から書き始め、必ずその続きを書いていくことにした。

これまでは、書きたいシーンやイメージが決まっている部分だけを先に書いてしまおうとしていた。
しかし、これをすると、結局は辻褄が合わなくなって、筆が止まる。

なんでこのキャラクターは、こんなセリフを言うんだろう。
この場所では、物語のはじめにどんなことが起こったのだろう。

結局、物語を最初から書いていくしか、結末に辿り着けないんだと分かった。



何度も、やめそうになりながら、とにかく書き続けた。
一気には書けないので、隙間時間にちょこちょこ進める。
するとだんだん、細かな設定を忘れていき、辻褄があわなくなる。
それでも、手直しなどもせず、前に戻らず、とにかく先へ、先へ。

そうやって書いていると、だんだん物語が、勝手に走りだすのがわかった。


キャラクターたちが、わたしの想像していなかったことを喋りだす。
思いもよらない展開になり、わたしも考えていなかった方に話が進む。
想定外の物語に、書き手の私自身がドキドキし始める。

__結末は、どうなるんだ!?
なんで自分の書いた小説に、こんな感情を抱いているんだろう。

自分でもその答えが見つからないまま、話の終わりも見えないまま、三日三晩、書き続けた。





そして、ようやく完結。
物語は、終わりをむかえた。

書いてみれば、なんとかキャラクターたちが物語を上手い具合に紡いでくれて、それなりに筋が通った。


携帯のメモに書いていたので、最後はスクロールしても読み込みが遅いほどの文字数。
いったん、パソコンに送って、読み直した。

あれだけ書いたのに、読んでみるとこれだけかあ、と思いながら、それでも話がちゃんと「終わっている」ことに喜びをかみしめた。







物語が勝手に走っていくとき、以前読んだ村上春樹さんの本の一部を思い出した。


『村上さんのところ』で、「結末はいつ考えているのですか?」という質問に対して、村上さんはこんなふうに答えていた。

書きながら考えます。最初から結論を決めちゃうと、書くのがつまらないです。
(中略)
いつもだいたい結論は、書いているうちに自然にすっと出てきます。その「すっと」という感じがいいんです。

『村上さんのところ』p.101


また、「ほぼ日」のインタビュー記事で、恩田陸さんも同じようなことを話しておられた。

じつは書いている私も、最初の3章を書いてるうちは「どうもこの人、よくわからないな」と思っていて。
(中略)
最後まで書いてみたらやっと「こんな人だったのね」とわかったところがありました。

「ほぼ日通信WEEKLY182号」より、




村上春樹さんや恩田陸さんのようなプロも、物語の展開や結末がすべて見えてから、書くんじゃないんだ。
構成をしっかり練ってから書き始めるんだ、と思い込んでいたわたしには、このお二人の書き方や考え方が衝撃だった。


彼らはプロだ、ホンモノだ。
だから、そんな人たちの言うことが分かるだなんておこがましい。
きっと、100分の1も分かっていない。

でも、書かなかったら1%だって分からなかった。
「この人たちは、自分の書いた物語なのに、何を言うてるんや?」で終わっていた。

だから、頭の中で妄想するだけで満足せず、投稿や完成度も気にせずに、とにかく書いてみてよかった。
いま、わたしは心底満足している。




これからまた、いちから手直しする。
どうなるかは、まだわからない。
大きく展開が変わるかもしれないし、推敲していておかしなところが多ければ、ほとんど書き直すのかもしれない。


それでも、長年の目標だった「物語を書き上げる」ができたことで、またひとつ小さな自信がついた。

わたしの夢を叶えてやれて、よかった。

noteに投稿することはないのだけれど。
「書く」でやりたかったことをひとつ、達成できたのがうれしかったので。
その気持ちをここに、のこしておく。

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