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私と夫で、こうも違うとは思わなかったね。



「カフェめぐり」は、私たち夫婦の定番デートだった。


田舎なので、徒歩圏内にはカフェがない。
車を走らせ、近隣市町や、時には県外までカフェを探して旅をした。

友達に「どんなデートしてる?」と聞かれ、「カフェ行くよ」と答えたら、「カフェ行って、何するん?」と言われておどろいた。

「カフェに行く」のが目的なので、それ以上はないのですが。
そこで、お店の雰囲気を味わい、コーヒーとささやかなスイーツを食べ、ぽつりぽつりと喋り、時には各々本を読んだりノートを書いたりする。
それだけだ。
そしてまた、次の「カフェ」に向かう。


アクティブは友達は、「それの何が楽しいの?」という感じだった。
スキーやシュノーケルなど、体験が好きな友達からすれば、カフェデートはさぞつまらんだろう。

もちろん私たちだって、コンサートやショッピングなど、活動ありきのデートもする。
でも、やっぱり「カフェめぐり」が一番好きだ。
そのくらいの温度感でちょうどよかった。
それが心地よかったのだ。



そんなデートも、子どもが生まれてからはできていない。

一度だけ、なんとか託児に預けてカフェに行ったこともあるが、あまりに久しぶりすぎて、デートのモードになるまでには、時間が足りなかった。


ある夜。
珍しく、夫と二人でのんびりおしゃべりをするタイミングが訪れた。

ふと、「カフェめぐりしたよね〜」と思い出にふけりつつ、携帯の古い写真を見返す。
そこには、わたしの向かいに座った夫と、その時食べたスイーツが写っていた。
夫は大体いつも、眠そうな顔だ。 



「それ、◯◯ってお店だよね」

ふいに、夫がつぶやいた。

あー、そうだった、かな?
もう10年以上前に訪れたカフェなので、名前が思い出せない。
調べてみると、当たっていた。 


「よく覚えてるね」

「たまたまちゃう?」


そう言い合って、写真の続きを見る。
しかし先ほどのそれは、たまたまではないとすぐわかった。
そのあと、また別のカフェで食べたスイーツの写真を見せると、「それは◯◯◯店」と即答。


ええー、なんで?
なんでそんなに店舗名を覚えてるの?
わたしはまったく覚えてないのに。


そのあとも、たびたび店舗名を即答する夫。
ちなみにそれらは、行った時期も場所もバラバラで、中には、県外に旅行したときに偶然入ったカフェもある。

事前に調べた場所ですら、記憶に残っていないわたしと違って、夫は訪れたほぼすべてのカフェの名前を覚えていたのだ。


「そういうの、大事にするタイプやったんやね」

「いや、そんなこともないけど」

夫は、自分のことなのに首を捻る。
わたしは正直、意外だった。
夫は思い出に無頓着で、デートしたときのことを話していても、「忘れた」と言うことが多かったからだ。



むう。
これではなんだか、店舗名を覚えていないわたしの方が、デートの思い出を軽んじているようじゃないの。

しかしよくよく話をしていくと。
どうやら私たちは、覚えている内容にズレがあることに気がついた。




夫は、店舗名や外観、店員の発言、位置情報などを中心に記憶していた。

対してわたしは、カフェで食べたスイーツがおいしかったこと、値段が高いと思ったこと、夫の機嫌が悪かったこと、店員さんが可愛かったこと。



つまり、夫は「事実」、わたしは「感情」を記憶していたのである。


昔、「男女の記憶の仕方」は違う、というのをどこかで読んだのを思い出した。


たとえば、男性は嫌な過去をすぐ忘れるけれど、女性はその時の憎しみをいつまでも根に持つとか。
あるいは、男性の記憶の仕方は「名前を出せて保存」なのに対し、女性は「上書き保存」だとか。


今の時代、男女がどうとかで決めつけるのもなんか違う気がするし、正しい知識かどうかもよく知らないんだけど。

少なくとも今回ばかりは、夫とわたしの「記憶の仕方の違い」をありありと実感した。

おもしろい。
同じデートでも、覚えていることがこんなに違うなんて。

ということは、デートや旅行の思い出を、ひとりで記憶の片隅に置いておくだけというのは、ちょっと勿体ないのではないだろうか。



だってわたしが、「初めてのデートで着てた夫の服、モサかったなあ」なんて、ほんとにひどいことを覚えているのに対して。
夫は「店員のおばあさんのキャラがおもしろかったよね」などと言うわけである。


そんなん覚えてへんわ。
こんなふうに、自分だけでは絶対思い出せないエピソードを、たくさん覚えている夫。
逆も然り。


つまり、思い出を二人で共有すれば、思い出せるエピソードも2倍というわけだ。
それって、めちゃくちゃ楽しいじゃん。
しかも、思い出を語り合うための時間もとれて、一石二鳥。
いや、体感的には三鳥くらいはある。



携帯にあった写真も役立った。
たいした写真はない。
カフェの外観とか、スイーツだけ。
それでも記憶を引っ張り出すには十分だ。 


そう言えば最近は、出かけても子どもの写真ばかり撮っている。
出かけ先も、ご飯も、夫も撮っていなかった。
この前の久しぶりのデートの写真だって、一枚もないし。ああ後悔。



これからは、どんどん出かけてデートするだけでなく、これまで二人で過ごしてきた思い出も大切にしよう。

夫と出会って、10年経つ。
10年分の思い出が詰まった携帯。
ふたりでゆっくり眺めながら、思い出を語り合ってみようじゃないの。

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