傘は、まるで魔法のように。
子どもって、どうして雨具が好きなんだろう。
長男はそんなことなかったけれど、次男は雨具が大好きだ。
部屋のあちこちから雨具を探してきて、「あった〜」と言いながら、持ってくる。
あったんじゃない、隠してとるんや。
君が触るから、しまってるんやで。
そんなツッコミも虚しく、次男はリビングで傘をふりまわし、長靴を履いて、喜んでいる。
◇◇◇
傘、長靴、レインコート。
雨具はなんでも好きなようだ。
玄関に置いてあるレインコートをわざわざ広げて持ってくる。
着たいのかな?
そうおもって被せてやると、「何してくれてんねん!」という形相で、引きちぎるかのように脱ぎ捨てる。ポイッ。
長靴も同様で、「履けない〜」とぐずるので、手伝ってやると、ものすごく不満そうな顔で脱いで、投げる。ポイッ。
なんやねん。
難しいな。
雨具と次男との付き合い方、よく分からん。
でもたぶん、彼には彼のやりたいことがあって、「こんなふうに雨具で遊びたい」という明確な思いがあるのだろう。
それがうまく言えないし、できない。
それどころか、お母さんはてんで違ったことをするので、次男は不満爆発だ。
わたしはもう、何かしてやるのが面倒になって、ソファーに座り、次男がリビングで傘を振り回すのを、黙って眺めることにする。
先っちょが折れたな、とおもいながら。
取り上げた方がいいのかもしれない。
でも、取り上げて、やめさせて、他のことで気を引くよりも、自由にさせてやるほうが、わたしの精神がラクなのだ。
すまんな、傘よ。
本来の君の仕事は雨除けなんだろうけども、すこしだけ、次男の相手になってやってくれ。
◇◇◇
ぶん回される傘を見ながら、おもいだした。
そういえばわたしも、傘で「秘密基地」を作ったことがあったっけ。
子どもの頃だ。
幼馴染とふたり、家中の傘をかき集めた。
住んでいたアパートが建つ敷地内の壁と壁のあいだの細い路地に、いくつもの傘を積み重ねて、屋根のようなものをつくった。
傘独特の弧のカタチがひっかかり、傘たちの下に空間ができる。
それが、「秘密基地」。
傘のおうちだ。
透明の傘の部分は、窓のようだった。
曇った空から降る雨が、透明な傘の窓にポツポツ落ちてくる。
それを、傘の下に潜って眺めていると、ふしぎといつもの雨も、違って見えた。
ポツポツ、パタパタという雨音を聞きながら、「秘密基地」でおやつを食べた。
傘は、魔法のような道具だとおもった。
◇◇◇
次男にとっても、傘は魔法のような道具なのかもしれない。
わたしたち大人にとっては、傘は雨や日差しを凌ぐ、便利な道具でしかないけれど。
1歳の次男は、そんなこと知らない。
ただ、長くて、大きくて、丸く開いて、軽い。色とりどりの鮮やかな模様が描かれている、この「傘」という道具そのものを、気に入っているのかもしれない。
ボタンを押せば、勢いよくひらくのもおもしろいし、弧の字のホネが並ぶ内側は、なんだかカッいいもんね。
便利さや、機能性とは違う傘の魅力に、次男は気づいているのかもしれない。
そう思うと、傘をぶん回す次男を見る目も、すこし変わる__
__いやウソだ、さすがに変わらない。
やめろ!
傘でテレビを殴るな!
あぶない、壊れる!
やめろ、やめろ!
わたしが傘を取り上げると、次男はひっくり返って泣いた。
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