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一人旅に出たら小料理屋に行こう〜富山・高岡を旅して

一人旅に出たら、晩ごはん、どうしていますか?宿で食べる?食べログで人気のお店に行く?それともオシャレなカフェ?

たまには小料理屋はいかがですか?食べログには出ていない。ネットでもあまり紹介されていない。地元の常連さんが集まるような、カウンターだけの小さなお店。飲屋街のちょっと怪しげな一角でひっそりとやっているようなお店。そこには、あなただけのちょっと素敵な出会いが待っているはず。今回の記事は、富山・高岡で訪れた小料理屋のお話です。

素敵な出会いは、ちょっと足を踏み入れずらい路地のその先に待っている(写真は、金沢の小料理屋街)

富山県・高岡は、商人の町。昼間、かつての問屋町にある土蔵づくりの家屋を訪ねた。

富山・高岡の土蔵造りの家屋

それから駅へ向かう、日はまだ明るい夕刻。おなかがすいた。ぶらぶら歩いていると、小料理屋やスナックが並ぶ小径に迷い込んだ。カラオケを熱唱する声が聞こえてくる。どれか店に入ってみようかな。でも、スナックという気分ではないのでパス。どの店も、メニューとか「うちはこういう店ですよ」といった類の紹介は店頭でしていない。どこに入ろうか、ちょっとしたくじ引きである。ハズレだったら一杯だけ飲んで出ればいいか。すると、ふと一軒の店から、客の声が聞こえる。かなりできあがった男の人の声。なぜかその店に惹かれて扉を開ける。

がらがらがら

6席だけの小さな店。奥に小さな座敷が一つあるが、物がいろいろ置かれている。カウンターで、すでにできあがっているおじさんが一人。カウンターの奥には、この店を営むご夫婦。なんとも言えない雰囲気の中で、私の夕餉が始まる。

「飲み物は、何にする?」北陸に来たからには、やはり日本酒がいい。「日本酒、常温でください」頼んだのは、玄というお酒。

若鶴酒造……聞いたことない酒蔵。富山のお酒は、立山しか知らない。飲むと、辛口で美味しい。料理は何にしようか。

「白えびありますか?」と聞くと、「うちみたいな店では白えびはないよ」と、女将さん。富山の名物は白えびしか思い浮かばなくて、白えびが食べたかったが、白えびはないようだ。店の棚に貼られているお品書きを見る。焼きそば、湯豆腐、冷やっこ、焼魚……。焼魚は富山の魚だろうか?「今日は鯖だけど、ノルウェー産」との声。やめておこう。

私が白えびにこだわっているのを察してか、お店のご夫婦がどこの店なら白えびを食べさせてくれるか、あそこの店、ここの店といろいろ思案してくれる。いつのまにか、隣に座っていたおじさんは、酔っ払いながら店を出ていった。

「どこから来たの?」「東京です」「私は、関西出身で高岡に来て◯年」なんて、たわいもない話をしていると、一人のおじさんが入ってきた。この店の常連さんのようだ。

「ねえ、この人、白えびが食べたいと言っているけど、どの店で食べられるかしら?」と、女将さんが常連さんに聞く。「いまは、白えびの季節じゃないよ」と、常連さん。白えびは夏場が旬のようだ。いまは10月。

朝からあまりお腹に物を入れてなかったので酔いが早い。気づくと常連さんはいなくなっていた。

しばらくして、ガラガラと扉が開く音。さっきの常連さんが小さなビニール袋を手に戻ってきた。冷凍した白えび。聞けば、この常連さん、高岡で料理店を開いて数十年。いまは息子さんに店を譲り隠居の身とのこと。息子さんが営むお店に行って、白えびを一袋拝借してきたという。

常連さん、カウンターに入り、ボールで白えびを解凍する。「衣になるものある?」と女将さんに聞く。「小麦粉はないけど、唐揚げ粉なら」と女将さん。解凍した白えびをまぶして、油を張った小さなフライパンで揚げる。揚がった白えびに塩を振り、出してくれた。

白えびの唐揚げ

白えびの唐揚げはサクサクしておいしい。何より、いまさっき会ったばかりの旅人のために、白えびを調達して唐揚げを作ってくれたことが嬉しい。これだから旅は楽しい。さらに、「これも飲みな」と出してくれたのが、「勝駒 大吟醸」という日本酒。あまり出回らない希少なお酒なのだという。よく来るこのお店に差し入れたもの。

勝駒は小さな酒蔵で少量つくっているそうだ。一杯飲む。二杯目を注いでくれる。さらに三杯目。正直いうと、最初に飲んだ玄の方が美味しかったけど、希少なお酒を飲ませてくれた、その気持ちがなにより有難い。白えびも勝駒も、優しさの味がした。

常連さんにお礼を言い、さらにいろいろな話をする。富山湾では、いろいろな魚が獲れるという。秋刀魚や鮪が獲れるのは、意外だった。

この方、高岡から京都に出て修業して、高岡に戻ってお店を開いたという。お店を持つにあたり、9000万ほどお金がかかったそうだ。「お金返せないかもって、怖くならなかったんですか」と尋ねると、「そんなこと考えなかったよ、自分の料理と接客の腕を信じてやるだけだったよ」と答えが返ってきた。

それからしばらく、お店を営むご夫婦やこの常連さん、あとから入ってきたお客さんたちといろいろな話をした。ちなみに締めに食べたこのお店の湯豆腐は、出汁が絶品でいままで食べたどの湯豆腐よりも美味しかった。

店のご夫婦も、白えびと勝駒をご馳走してくれた方も、他の常連さんも、高岡の方は優しい。巡りたいところを尋ねると親身になって答えてくれる。そういえば、お昼に立ち寄った、揚げ物が人気のお肉屋さん。東京から来たと行ったら、「遠いところからよく来たね」と、揚げ物を一個サービスしてくれたっけ。旅すると、こういうささやかなことが後で心に残るんだ。一人旅は気ままだけど、寂しくはない。次の旅ではどの小料理屋を訪ねてみようかな。
おわり

高岡のお肉屋さんのメンチカツ。揚げたてをその場でいただきました


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