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【短編小説】女子高生が殺人現場にいるようですよ〜〜medium編〜〜

セミが鳴く夏休みに長い坂を自転車で登っていくことに嫌気が差す。
しかし汗だくなりながらも、真面目な性格のため課外をサボることなんてしない。
自分で自分を真面目と評する輩は大概真面目ではないのが俺の持論だが、この暑さで頭がおかしくなったようで、まさにブーメランである。

「誰だよ、今日やることにしたやつはよ」

もちろん担任の先生だとわかっている。
急に連絡が来て勉強に来いと言われれば行くしかないが、少しくらい悪態を吐くのも許されるだろう。
有名私立があるため、県で一番の進学校ではないが、公立ではトップの高校なので、こうやって予定外の予定が組まれるものだろう。
何せ高校生はまだ初めてなので高校の常識はないが、高校からは中学よりも勉強が大変になると聞かされていたので、こういうこともあるのだろうと勝手に納得した。
せっかく、めんどくさい運動部にも入部せず、毎日ぐうたらできると思ったのに、どうしてこの世は上手くできてないのか。
まあ、こういうのも青春かもしれん。
駐輪場に自転車を置いて、教室へと向かおうとする。
ただ、ここで疑問が起こった。
課外があるはずなのに誰も駐輪場にいない。
ガラガラの駐輪場は部活動しかいないことを表していた。
偶然にもグラウンドへ向かっている同じクラスのやつがいた。
ちょっと聞いたよう。

「おい、田中!」
「ん、どうした?」
「今日課外行かないのか?」
「はぁ? 今日はないだろ、駐輪場もそんだけ空いてるんだからな」

反論の余地もない正論が返ってきた。
しかしまた疑問だ、どうして俺には課外の話が来たのかだ。

「げぼく!」

大きな声を出す女子生徒が大変失礼な言葉を恥ずかしげもなく出していた。
そこで俺は背筋がヒヤッとした。
これは早く帰った方がいい。
しかしその声の主は俺の手首を掴むのだった。

「大変なの!」
「そうか大変だったな。職員室に先生たちがいるはずだ、そっちに行けば万事解決する」
「いいから、ホドハラが死んでるの!」
「なにぃ!?」

あまりにも衝撃的過ぎて、この女子生徒に引っ張られるままに、俺たちの部室へと辿り着いた。
中に入るとまるでドラマのように白い白線が人の形を作っているではないか。
ただ少々疑問がある。
白線の中に、程腹 順平、と書かれたチラシが置いてあった。
最近の警察は倹約家なのかもしれないなどと思うわけがない。
近づいてみると、血のような跡が付いているが、ご丁寧に床が汚れないように紙の上に付けられていた。
周りを見渡すと部屋の隅にケチャップが置いてあるのは気のせいではないだろう。

「なんてことなの、ホドハラがこんなことになるなんて、もっと彼のことを構ってあげたら……」

友達を喪ったことで流れる涙を抑えようとするこの少女なんと声を掛ければいいのか。
ふと、外から小うるさい歌を歌う男の声が聴こえてくる。
不思議とこの可哀想な被害者の声と似ている気がする。
声の主は勢いよくドアを開けて入ってきた。

「カリナちゃーん、僕に大事な話があるってーー」

この部屋で起きた事件の被害者本人が元気よく花束を持ってきている。
どうやらこの小芝居をしているカリナから呼び出しを受けたようだが、俺がいることは伝えられていなかったようだ。

「あれ、どうしてゲボクがいるんだ?」
「こいつに無理矢理引っ張られたんだよ。それとゲボクって言うんじゃねえ!」
「はいはい、分かったよ」

てきとうな返事をするので絶対に分かっていないだろう。
しかし、こいつの格好について目が上下する。

「なんだその格好は?」

無理矢理ちゃらくした茶髪に加えて似合わないスーツを着ている。
サイズが合ってないので、おそらくは父親から借りてきたんだろう。

「決まってるだろ、僕の抑えられない気持ちを表現するためにはこの服しかない。まだ学生の君には分からないだろうが、女の子は男のスーツ姿に興奮してしまうのさ」

髪をふぁさっと上げる仕草をする。
変な臭いもきたので香水でも付けているのだろう。
ここまで紳士が似合わない男も珍しい。

「ホドハラ、いい奴だったわ」

まだこの女は演技を続けているらしい。
しかし、ホドハラは彼女の声を聞いて近寄っていく。

「僕の名前を呼んだかい、愛しのマイえんじぇーーぼくぅぅ」

自分の殺人現場の跡を見せられて大声で叫んだ。
まあ、自分の名前が書かれた殺人現場があったらこれが正しい反応なんだろう。
いつのまにか探偵衣装に着替えているカリナは何故だか水晶を右手に持っており、左手を水晶の上にやっていた。
普通そこはパイプとかだろうと思ったが、あまりこいつの奇行に突っ込んでも意味がないのはわかりきっている。
彼女は水晶を覗き込んで、見えもしてないのに目を凝らしていた。

「これは紛れもない殺人ね。死因はおそらく恋のもつれ。ゲボク君、彼の恋人関係を探してきて!」
「いないから安心しろ。これまでも、これからも」
「ちょっと扱い酷過ぎませんかね!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐホドハラはほっといて、一冊の本がテーブルの上にあった。
綺麗な女性が載っているなと思い、そのタイトルを口にした。

「メディアム? このミステリーがすごい一位か。んー、ミステリー……ミステリー」

ミステリーという単語でこの状況と照らし合わせてみた。
どう考えてもこれに触発されたとしか思えなかった。

「はぁ、おいカリナ。この本はなんだ?」
「ふふふ、mediumよ。素晴らしい本だったわ。ミステリーに興味なかった私をハマらせるなんて恐るべし。あんたも書店で見たことくらいあるでしょ」
「知らねえよ。本屋なんて行かねえし」
「ハァア!?」

カリナは信じられないと口にしながら詰め寄ってくる。
思わず気迫に押されて黒板の方へと下がってしまった。
人差し指を立てて俺に首元へ突き出してくるので、思わず首が上がってしまい喉に手の感覚が感じた。

「このミステリーがすごい!一位よ! あんた、一位の作品を読まずして何を読むっていうのよ!」
「あぁー! 分かったって! 悪かった、しょうがねえだろ。本を読むの苦手なんだからよ!」

もう許してくれと懇願したことでやっと指を下ろしてくれた。
死ぬ目にあったことはないがこれが殺気なのだろう。
オンナ恐るべし。
カリナとは出会ってまだ三ヶ月程度の仲でしかないのに、もうすでに上下関係ができている。
それは彼女がこの部の創立者であり、部長となっているというのが主な理由だ。
いきなり両手両足を縛られて、この部屋で拇印を入部届けに出されたために俺はこの部で活動しないといけなくなったのだ。

「しょうがないよカリナちゃん。そんな文学なんて言葉の似合わないゲボクには、芸術なんてわからないものさ」
「うんうん、さすがホドハラね。あんたを事件の被害者にして正解だったわ。やっぱりミステリーが分かる人間じゃないとノリが悪いわー」

うるせえと思ったが、実際俺は本を全く読まずミステリーなんてアニメで名探偵コナンを観たくらいだ。
だがホドハラのようなアホに本を理解する頭があるとは思えなかった。

「ならお前がこれまで読んだミステリー教えてみろよ」
「ふっふっふ、名探偵コナンの漫画を床屋で読破したよ」
「なんだって!?」

膝から力が抜けて、敗北感から床に崩れ落ちた。
まさかアホのホドハラが漫画とはいえコナンを読んでいるなんて。
自慢げに胸を張って俺を見下すホドハラに何も言い返せなかった。

「小説って……!」

どこから出したのか分からないバッドでホドハラを振り抜いた。

「言ってるでしょうが!」
「ギャアアアアアアアア!」

窓を越えて遠く彼方へ飛んでいってしまった。
俺は窓の方まで行ってホドハラの飛んでいった先を見つめた。

「成仏してくれホドハラ」

手を合わせてホドハラが生きていることを拝んだ。
さてこの部屋の散らかった小道具はどうせ俺が片付けないといけないのだ。
俺は遊びは終わりと振り向こうとした時に後ろからドンッと来られた。

「な、なんーー」
「ゲボクさん」

耳元でカリナが囁いてくる。
近い距離でそのような声を出されると胸がドキドキしてきた。
どこか色っぽい声に普段は暴虐無尽なこいつをオンナとして意識してしまった。

「お、おい冗談はやめろって!」

上擦った声が思わず出てしまった。
俺のそんな調子を面白がってか背中を思いっきり叩かれた。

「なに興奮してるのよ! この変態、スケベ、甲斐性なし!」
「うるせえ!」

俺が振り解こうとする前にカリナはドアを開けて外へと半身を出す。

「あの本の言う通り男って本当にこういうシチュエーションって好きなのね。じゃああとは片付けよろしくー」

笑顔と親指を見せて彼女は笑い声を上げて出て行った。
怒る相手もいなくなったため、一人黙々と片付けを始めた。
そしてその時、mediumが目に映った。

「くそ、読みたくなったじゃねえか」

さっきの囁きがどう言った意味なのか気になってしまうのは男の性かもしれん。
手提げカバンの中に本を入れてチャックを閉める。
その時、ポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らす。
開いてみるとカリナからメッセージが入っていた。

今日呼んだのは、実は私よ。
先生が予定もなく呼ぶわけないじゃない。
明日も来ること、いいわね!
来なかったらこの写真をばら撒きます。

メッセージの後に送られてきたのは、俺が縛られた時に撮られた恥ずかしい写真だった。
亀甲縛りであられもない姿で、もしみんなに見られたら社会的に死を意味する。

「あの、クソ女!」

ムシャクシャとしたまま家に帰宅して、せっかくなので本を読んでみた。
そして彼女の言った意味が分かり、次の日は怒りの鬼ごっこが始まったのだった。

続く


今回紹介した作品は

medium

興味を持ちましたら、下記のページもぜひ読んでください。
https://note.com/josephine2100/n/n394fe3d64f1b

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