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アル厨

キッカケは些細なことであったように思う。

上海から帰国した僕はこれまで担っていた一通りの業務をオフショア化したことにより持て余していた。
そうした中、アサインされるメンバーが次から次へと倒れては離脱を繰り返す炎上プロジェクトへの参画が決まり、参画後もあれよあれよとヒトが入れ替わり、遂には僕に業務を引き継いでいたメンバーも、引継ぎ期間中にも関わらず仕事をこちらに押し付けて数週間も出社しない日が続いていた。

クライアントからの風当たりも強くなり、オフィスから駅までの徒歩20分の道中は常に考えを巡らせていた。
クライアントとは言え、ビジネスパートナーにあの物言いをされていては、コトの成り立ちや本来のモノの有り方すら歪んでしまう。

そんなある特にキツく当たられた日の帰り道。
たまたまオフィス最寄りのコンビニに立ち寄った時にスーパードライの500ml缶が目に留まり、思わず手を掛けていた。

外国人の店長が流暢な日本語で声を掛けて来る。
「お!仕事終わりのビールですね?イイですねぇー」
「全然良くねーし、飲んでなきゃやってられないっすよ(笑)」

20分の道のりに500mlは適度な量だった。
思考を働かせるにもネガティブになり過ぎず、何故あの時もっと毅然と強気に振る舞えなかったのだろうかと、前向きに次のアクションへの工夫を凝らしたくもなって来る。一歩業務を離れればそれくらいで良いように思えた。
口に含んだままでいる時の舌触り、舌の上で転がすという表現が何となくシックリ来る。

駅に着く頃には500mlの缶を空けそうになっていた。
手前のコンビニ前のゴミ箱へ空き缶を投げ捨てる。
だがここで、寧ろ買い足す必要はないだろうかと葛藤が僕を襲うのだった。

皆大好きお酒をテーマに不定期エッセイを書き下ろしていきます。

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