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フランス語の音が初めて「見えた」日

フランス語は「書かれたとおりに読まない」とよく言われる言葉ですよね。

例えば、動詞の語尾の活用ですとか、複数形の-sですとか、「書くんだけれども実際には読まない」というもの(「黙字」)が結構あります。

また、同じ発音にも色んな書き方のパターンがあったりします(vingt 20、vinワイン、vain無駄な、vaincs勝つ 等)。

この意味では、フランス語のスペルは意味を区別する「漢字」のような役割をしていると言えるかと思います。

個人的には、この「書くのに読まない」というフランス語のスペルを「何だかカッコいい!」と思っているのですが、読むことと書くことに集中しすぎた結果、リスニングに極度の苦手意識を抱えてしまいました。

そこである日、今から5年くらい前のことですが、ふと、自分で勝手に新たな「スペル」を作ることを思いつきました。

主に以下のような点を考慮して作ってみました。

🍀1つの音に対して1つのスペルだけを使う。
an/en/am/em 👉 â   im/in/ain/aim 👉 ê  on/om 👉 ô 

🍀1つのスペルに1つの音だけを当てる。例えば、「サ行」と「カ行」を示す「c」と「qu」は使わず、「s」と「k」にする、など。
 saison 👉sèzô       Qu'est-ce que c'est? 👉K'é-s k-sé? 

🍀曖昧母音の「e」は、自分が発音を再現できる場合は極力省略する
politique 👉 pòlitik   une👉 yn

🍀語尾は、発音されるときだけ書く
des membres👉 dé mâbr  des amis 👉dez'ami

🍀よく使われる表現は、意味の塊に意識が向くようにするため、極力単語同士をくっつける
au début de l'année 👉 odébyd l'ané  beaucoup de mois 👉bokud mwa

要は辞書に書いてある発音記号を何とかよく使われるアルファベットで表そうとした試みです。

これで一度ニュース記事を書き直してみました。

Au lendemain du lancement de la transition après deux semaines de blocage de Donald Trump, Joe Biden a présenté les premiers membres de son cabinet. Ceux chargés de la politique étrangère de sa future administration, une nouvelle diplomatie américaine qui semble vouloir rompre avec l’isolationnisme des années Trump. 【RFIより引用】
O lâdmê dy lâsmâ dla trâzisyô aprè deu smèn d'blòkaj d'Donald Trump, Joe Biden a-prézâté lé premjé mâmbr d'sô kabinè.  Seu charjé d'la pòlitik étrâjèr d'sa fytyr administrasyô, yn nuvèl diplòmasi amérikèn ki sâbl vulwar rôpr avèk l'izolasyonism dez'ané Trump. 

二つ目に掲げた自作スペルは、正直、見た目が美しくありません。

ただ、このように書き方を変えてみて、以下のことに気づけました。

(1)フランス語の単数・複数は、語尾ではなく、冠詞で見分けるということ。スペルを書き直すことで語尾がごっそり消えてしまったので、自然と冠詞に意識が向くようになった。

(2)-am, -em, -an, -enなど、スペルが違うために何となく頭の中でそれぞれ別々のイメージを抱いていたスペルが統一されたことにより、一層「音」の一致がはっきりとわかるようになった。逆に、cent(sâ)とcinq (sê)のように、見た目は似ている単語の「音の違い」もはっきりと認識できるようになった。

(3)「音」のフランス語は「文字」のフランス語より結構短い

 これらは、頭の中では分かっていたつもりですが、はっきりと目で認識できるようになると、「知識」ではなく「感覚」で理解できるようになりました。

 そして驚いたのが、この自作スペルを作った日の夜に、恐る恐るフランス語のニュースを聞いてみたところ、今まで意味の分からない音の羅列にしか聞こえなかった音声から、単語が浮かび上がってきたことです。

 これは本当に目から鱗でした!

 まさに、音が「見えた」瞬間でした。

 今でもフランス語のリスニング能力は4技能(読、書、聴、話)の中で一番低いのですが、それでも「目で見る単語」と「耳で聴く単語」のイメージのギャップをできる限り減らすことができるよう、頑張っています。

 この自作スペルは結局長続きしなかったのですが、僕の意識を変えるのに大きく役立ちました。

 🍀長くなってしまいましたが、ここまでお読みくださいまして誠にありがとうございました!皆様、どうぞ良い週末をお過ごしください。

【写真:edmondlafoto (Pixabay)】

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