櫛部静二

城西大学男子駅伝部監督の櫛部静二です。箱根駅伝、世界の舞台で活躍できる選手の育成を目指…

櫛部静二

城西大学男子駅伝部監督の櫛部静二です。箱根駅伝、世界の舞台で活躍できる選手の育成を目指しています。 普段、考えていることやトレーニングの考え方や練習の様子、日々取り組んでいることを話します。 少々マニアックな話もあるかもしれません。

最近の記事

出雲駅伝の戦力と目標

夏合宿も終わり、いよいよ駅伝シーズンが始まります。夏の間はトレーニング期間として、時間をかけてベースとなる持久力や筋力の強化に励んできました。普段、城西大学では低酸素トレーニングを中心に強化していますが、この時期は日本で古くから行われているトレーニングにも取り組みます。クロスカントリーだけでなく、アンツーカのグラウンドでも走りますし、様々な形で自然の地形を活かしながら能力の向上を目指してきました。トレーニングは常に科学的な視点を持ち、裏付けのある合理的な方法を追求し続けなけれ

    • 個人的パリ五輪注目ポイント

      いよいよパリオリンピックが開幕しました。東京大会が終わって3年。いつもと違う周期で開催されるオリンピックですが、緊張感に変わりはないでしょう。陸上長距離の花形といえばやはり5000mです。男子では世界選手権2連覇中のヤコブ・インゲブリグドセン(ノルウェー)が優勝候補の筆頭ではないでしょうか。 ここ40年ほど、世界記録、世界大会のタイトルともアフリカ系の選手の名前が続きました。彼らの多くはアフリカの高地でも特に長距離選手の強化に適したスウィートスポットと呼ばれる標高2000m

      • 長距離選手のスピードを極めたい

        まもなく陸上日本一を決める日本選手権、U20日本選手権が開催されます。 年明けからここまで理想的なスケジュールで1500m、5000mを中心とした強化ができました。それぞれのレベルでスピード強化が進み、多くの選手がどちらかの種目でベストを出していますし、レースでの結果はまだの選手も、能力向上が定量的に示されています。 昨年度は箱根駅伝予選会こそありませんでしたが、全日本大学駅伝関東選考会がありました。6月に10000mで緊張感のあるレースがあると、そこに向けた強化をしない

        • デバイスを活用し、トレーニング変革を

          陸上長距離では様々な局面でタイムを指標にします。選手の能力は自己ベスト、シーズンベストで見ることが多いですし、レースの出場も標準記録を突破しているか、ターゲットナンバーに入っているかなど、タイムで決められることが多くあります。トレーニングの設定ペースもタイムです。しかし強化の段階ではタイム以外の指標も持つことで強度を細く設定できたり、より選手の特性に合わせた取り組みが可能になります。最近、乳酸を指標としたトレーニング方法で注目されている東京五輪男子1500m金メダリストのヤコ

        出雲駅伝の戦力と目標

          指導者は成功体験を与えるのが役目

          トラックシーズンが本格化しています。近年は駅伝人気が高まっていますが、グランプリシリーズなどの試合では空席が多く見られ、陸上競技全体の人気を高めなければならないと痛切に感じます。陸上競技は野球やサッカーと比べると「観るスポーツ」としての魅力はまだまだ乏しく、ビジネスとして確立していないため、選手らはたとえ日本一になってもそれほど多くの報酬を貰えるわけではありません。人気を獲得していくために陸上界全体として取り組まないといけないことは山のように残っています。 駅伝人気がある長

          指導者は成功体験を与えるのが役目

          新しい仲間を紹介します!

          まだ寒い日もありますが、少しずつ春の温かさを感じるようになりました。学生ハーフマラソン出場組以外は、スピードトレーニングの導入段階に入り、間もなく始まるトラックシーズンへ向けた準備が着々と進んでいます。さらには新入生も加わり、新しいチームづくりへの意欲、期待感が高まっています。 今回はその新たに仲間となった12名の選手をご紹介しましょう! 青木丈侑(東農大二高) 大川翔雅(滋賀学園高) 小澤優翔(上伊那農高) 大場崇義(上伊那農高) 葛城渚(奈良育英高) 小林竜輝(鹿島学園

          新しい仲間を紹介します!

          第100回箱根駅伝総括

          箱根駅伝の応援ありがとうございました。目標の総合3位に入ることができました。 3位という目標を立てたのは2022年10月の第99回大会予選会を通過した直後のことです。創部23年目を迎える年の100回大会は城西大学男子駅伝部にとって大きなターニングポイントになると考え、この目標を設定しました。それが達成できる戦力が整いつつあり、選手らの意識をさらに高いものへと変えていきたいと願ったこともきっかけです。 その目標達成のため、最初に目指したのは前回大会でのシード権獲得でしたが、

          第100回箱根駅伝総括

          日本長距離界の強化をどう進めるべきか

          日本陸連やナショナルチームの強化策をどのように各チームや選手に落とし込んでいくかが時折、話題になります。種目によって多少の違いはあるかもしれませんが、長距離に限って考えれば、世界大会に出る場合も「日本代表」としての合同練習は行われず、選手個人が指導者とともに組み立てた練習を行います。(各チームの指導方法の違いや怪我をした場合の責任所在などがあり合同は難しいためです) 実業団連合などで短期の強化合宿を行うことはありますが、それも一時的なものですので、強くなるための方法は個人(指

          日本長距離界の強化をどう進めるべきか

          「積極性」という評価への違和感

          トラックの国際大会やマラソンのテレビ中継を見ていて気になるフレーズがあります。それは「積極性」という言葉です。集団の先頭を走ったり、ときにそこから抜け出した選手にかけられるもので、基本的にはポジティブな意味合いで使われています。しかし私はそれを聞く度に違和感を持ってしまいます。 陸上長距離ではフィジカル面の視点だけで言えば、そのレースに合わせた特異的な要素をいかに準備できるかでレースの結果、勝敗が決まると私は考えています。その要素とは走運動に必要な先天的なあらゆる能力をベー

          「積極性」という評価への違和感

          独創的な指導を追い求めて

          ブダペスト世界選手権では女子やり投の北口榛花選手が金メダルを獲得し、田中希実選手は立て続けに5000mで日本記録を更新しています。すごいですね。2人に共通するのは従来の日本のやり方にとらわれず、独創的なチャレンジを続けているところだと私は考えています。 北口選手は単身でチェコにわたり、現地のコーチに指導を受けています。田中選手は父である田中健智コーチの指導を受けていますが、実業団から離れて退路を断ち、800mから10000mまで積極的に海外レースに出ています。型にとらわれな

          独創的な指導を追い求めて

          箱根駅伝予選会のない夏

          「今年は箱根予選会がなくていいですね。あるとないとではやはり違いますか?」 こうした質問を最近よく受けます。その際、私は即答でこう答えるようにしています。 「はい、違います!」 予選会を戦う場合、7月中旬から8月は駅伝シーズンへ向けたトレーニング期間として持久力強化を目指しますが、9月上旬、ちょうど今くらいの時期から強度を高めていくフェーズに入ります。そのため10月中旬にハーフマラソンで結果を残そうとすると、9月半ばまでに距離を重ねるトレーニングを終えなければなりません。事

          箱根駅伝予選会のない夏

          前期シーズンの2つの大会を終えて

          今季前半の重要な試合と位置付けていた2つの大会が終わりました。 関東インカレは2部の戦いでしたが、800m以上の中長距離種目全てで入賞者を出し1部昇格を果たせました。また全日本大学駅伝関東選考会はトップで本戦出場を決めました。選手たちの頑張りで手にしたこの好成績で、チームは大きな自信を手にしました。 陸上長距離ではタイムが実力を示す指標になりますが、私はそれ以上に勝負そのものを重要視しています。どんなにいいベストタイムを持っていても、勝負に勝てなければ意味がないからです。陸

          前期シーズンの2つの大会を終えて

          トレーニング立案のために知ってほしいこと

          春のシーズンも終わり、関東は梅雨入りです。季節の移ろいともに城西大学の新入生たちも少しずつ環境や練習に慣れてきたようで、新たな仲間とも打ち解け、仲良さそうに笑顔を見せています。 高校から大学への移行は生活環境や学業はもちろん、競技面でも大きく変わります。高校では多くの選手がメインとする5000mは大学でも花形種目ですが、引き続きそこを中心に考える選手も、さらにタイムを伸ばすために距離を走り、持久力を高める必要があります。もちろん10000mやハーフマラソンへチャレンジする選

          トレーニング立案のために知ってほしいこと

          陸上競技場を満席に!

          ずいぶんと日が経ちましたが野球のワールドベースボール・クラシック(WBC)は盛り上がりましたね。私も子供の頃に野球をやっていましたし、今や国民的なスターになった大谷翔平選手をアスリートとしてとても尊敬しているので、大会期間中は夢中で応援していました。 WBCを見ていて気になったのは大谷選手がインタビューで「これからの野球人気」を意識したコメントをしていたことです。日本国内で不動の人気があり、競技人口も多いのに、野球界も将来の姿に危機感を感じているということでしょう。またメジ

          陸上競技場を満席に!

          山口浩勢の東京五輪までの道のり、そしてこれから。

           城西大学OBの山口浩勢が2月12日の実業団ハーフをもって第一線から退きました。ラストレースで自己ベストを出したのは見事というしかありません。最後まで成長した姿を見せるあたりは、何ごともやり遂げる生真面目な彼らしいと思う一方で、もうそんな年齢なのかと、時の過ぎる早さを感じました。  2018年の暮れに彼から電話をもらいました。そこで「競技生活の集大成として東京オリンピックに出場したい、そのための指導をして欲しい」と相談されたのです。愛三工業に所属する選手ですので、所属先の承

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          モチベーションの維持って難しい?

           中学、高校、大学とそれぞれのカテゴリーで活躍しながら、その後、苦しんでいる選手を多く見てきました。特にジュニアで活躍した選手がその後、思うように競技力を伸ばせないと、周囲は「早熟」という言葉で表現しますが、それを見る度に切ない気持ちになります。競技に臨むスタンスや、目標は人それぞれですが、もし努力を続けていながら伸び悩むのであれば、それは残念なことです。  原因をフィジカルなのか、メンタルなのかの2つに絞ることはできませんが、スポーツ科学が進んでいる現在、マラソンで世界の

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