箱根駅伝予選会のない夏
「今年は箱根予選会がなくていいですね。あるとないとではやはり違いますか?」
こうした質問を最近よく受けます。その際、私は即答でこう答えるようにしています。
「はい、違います!」
予選会を戦う場合、7月中旬から8月は駅伝シーズンへ向けたトレーニング期間として持久力強化を目指しますが、9月上旬、ちょうど今くらいの時期から強度を高めていくフェーズに入ります。そのため10月中旬にハーフマラソンで結果を残そうとすると、9月半ばまでに距離を重ねるトレーニングを終えなければなりません。事前にたてたトレーニング計画に基づき、故障させないように気をつけながら進めていきますが、それでも残された時間で「あれも、これも」と過不足の確認作業していると妙な緊張が生まれます。選手も迫り来る大一番への重圧を感じ始める頃で、日常的に緊張した表情を見せます。フィジカル、メンタルの両方に大きく負担がかかる時期なのです。そもそも夏の準備期間を経て、秋にミスなくハーフを走れる選手を12名揃えるのはどのレベルのチームであっても難易度の高い挑戦です。きっと実業団チームであっても簡単ではないでしょう。
今年はそうした重圧がなく、ゆとりがあります。つまり夏にじっくりと時間をかけて強化ができることが、箱根予選会のない最大のメリットなのです。
ただでさえ大学生は年間を通じて主要大会があります。そのためまとまった強化の時間が取りづらいと日頃から感じていますので、こうした時間は非常に重要です。同時に今の時期、選手は「タイムを狙う」という意識からも解放されています。その意識はトレーニングに取り組む上でのモチベーションになる一方、大きなストレスやプレッシャーにもなります。それがなく、心理的に余裕がある中でこなすトレーニングは無理なく負荷がかけられるので、故障回避につながりますし、結果的にその先の競技会での好パフォーマンスにつながる好循環を生むと考えています。
今現在は、スタミナを養うための走り込みを多くメニューに入れていますが、それだけに偏らず、クロカン走や坂ダッシュなど脚筋力を強化する取り組みも行なっています。これは来たるロードシーズンの対策をする中でも、スピード強化は継続しておきたいという私の指導理念によるものです。箱根予選会があるとなかなかこうした多様なメニューは組めません。この点を考えても改めて、「いろいろなメニューを組み込みながら余裕を持って練習計画が立てられるのは素晴らしい」とつくづく思います。そのためには次回以降も継続して箱根駅伝ではシードをとらなければと身が引き締まる思いです。
今年は出雲駅伝の出場権を手にしています。今の選手たちは全員が初めて挑むレースであり、かつ箱根予選会より早い10月9日に行われますので、「そこへの準備は必要ないのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし出雲は1区間が6kmから10キロ前後で、かつメンバーは6名と調整がしやすいレースです。先に述べた坂ダッシュや低酸素インターバルなど鍛錬期でもスピードを養うトレーニングを入れてバランスを考えた内容を計画しています。調整期にはレースペース、またはそれ以上の高強度トレーニングを入れて高速レースに対応できるよう準備していくつもりです。ぜひ楽しみにしていただき、そして選手たちを応援いただければ幸いです。
大学生はトラックやロードの試合は多くても、意外と駅伝を走る機会は少ないもの。出雲、全日本大学駅伝では実戦を通じて選手の力量を観察しながら駅伝経験を積み、上位を狙っていきたいと思っています。今はそれに向かう真っ只中、心にゆとりを持って、引き続き強化に励んでいきます。
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