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長距離選手のスピードを極めたい

まもなく陸上日本一を決める日本選手権、U20日本選手権が開催されます。

年明けからここまで理想的なスケジュールで1500m、5000mを中心とした強化ができました。それぞれのレベルでスピード強化が進み、多くの選手がどちらかの種目でベストを出していますし、レースでの結果はまだの選手も、能力向上が定量的に示されています。

昨年度は箱根駅伝予選会こそありませんでしたが、全日本大学駅伝関東選考会がありました。6月に10000mで緊張感のあるレースがあると、そこに向けた強化をしないわけにはいきません。そうなるとロングのトレーニングの割合が増えることになり、私の目指す理想的な選手育成とズレてしまうのですが、今年はそれがなかったことが理想的なトレーニングを遂行できている一番の理由です。

1500m、5000mの自己新が続出し、スピード化が進行。
OBの荻久保寛也選手(右端、ひらまつ病院)も
母校で学生とスプリント強化中!

世界的に見ても10000mはオリンピック、世界選手権やそこに向けたトライアル以外でこの種目をターゲットにする選手は多くなく、ほとんどの選手が5000mを中心に考えています。これは負担を減らし、連戦、転戦するためでしょうし、ダイヤモンドリーグなど主要大会も興行的な視点から10000mの開催は多くありません。

日本ではマラソンや駅伝が人気のため、トラックでも最も距離の長い10000mが記録会などで日常的に行われ、重視されています。近年では5000mや3000mSCで世界を目指し、そこで戦える選手が増えてきたために少しずつ変わってきましたが、まだ全体の意識として10000m重視の傾向は根強いものがあるのではないでしょうか。

私はもともと5000mという種目が好きなので、世界基準と同じ方向性でいられる今年の状況を純粋に嬉しく感じていますし、それが選手の能力向上につながるとも思っています。
日本では駅伝、ロード、トラックと年間を通してレースが続きます。その中で戦略的に出場するレースを選択しながら、トレーニングのピリオダイゼーションを考える必要があります。基本的な考え方は春にスピードを鍛え、そのうえで夏から距離を延ばし、持久力を向上させる形です。それが秋以降の飛躍と駅伝での活躍につながります。そして年明けから再度、筋力アップとスピード向上に戻すサイクルを4年間、継続することでそれぞれの選手が思い描く自分になり、目標を達成して卒業できるではないかと思います。若く成長著しい時期に身体に多くの刺激を与えることが、競技力向上につながる事例はさまざまなところで見られます。エリウド・キプチョゲ選手、ケネニサ・ベケレ選手らマラソンを極めた選手らも、若い頃は5000mを中心に1500mやクロスカントリーなど多岐にわたる種目にトライしていました。

この時期は徹底的にトレーニング強度にこだわる!

中でもスプリント力へのアプローチは競技力向上の重要なファクターになります。私も親交のある新潟食糧農業大学の山中亮先生は、トレーニング科学、運動生理学を専門分野とし、特に長距離ランナーの身体能力をテーマに研究されています。

山中先生は長距離ランナーのスプリント力に注目した論文「日本人トップレベル長距離走者に求められる有酸素性能能力とスプリント力」で、トップ選手の5000mパーソナルベストと100m及び400mのタイムとの間に有意な相関関係を示したことが明らかになったと述べています。これは簡単に言うと5000mの速い選手たちは100mや400mのような短距離走も速い傾向にあるということです。つまり長距離選手もスプリント力を向上させる必要性が示されています。

ですので、「短距離選手が最大疾走速度を高めるのと同じように、長距離選手も最大速度を高めよう」という考えのもと、今シーズンの城西大学は様々な新しいトレーニングを取り入れ、スプリント力向上を目指しています。この取り組みは低酸素トレーニングと並んで、今の城西大学の特徴と言えるかもしれません。

解糖系エネルギー中心の高強度トレーニングは
辛いですが、
理想の自分を思い求めて乗り越えよう!

特に1年生は長期的な視点で育成計画を立てていて、今はスプリント力を高めつつ中距離種目への出場機会を増やしています。今回、U20日本選手権1500m に6人が出場しますし、シニアの日本選手権1500m に出る選手もいます。もちろん日本一を争う舞台なので貪欲に結果を求めてほしいですが、強化の取り組みは継続的に行うことに意味がありますので、結果だけに一喜一憂するのではなく、現時点で強化の進捗がどの程度まできているかの確認の場としたいと考えています。

長距離選手のスピードを極めるためにはスプリント力の向上が不可欠であり、1500mの能力を高めなければなりません。そしてその力を5000mにつなげるところまで今、多くの選手が取り組んでいます。そのうえで夏以降、そのスピードを10000m、さらにハーフへと生かしたいと考えています。

そんな目線で日本選手権、U20日本選手権をご覧いただき、城西大学の選手へご声援いただけると幸いです。

城西大学は燃えているか

参考文献
山中亮 日本人トップレベル長距離走者に求められる有酸素性能能力とスプリント力 (トレーニング科学 vol.29 No.24 、2018年)

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