見出し画像

個人的パリ五輪注目ポイント

いよいよパリオリンピックが開幕しました。東京大会が終わって3年。いつもと違う周期で開催されるオリンピックですが、緊張感に変わりはないでしょう。陸上長距離の花形といえばやはり5000mです。男子では世界選手権2連覇中のヤコブ・インゲブリグドセン(ノルウェー)が優勝候補の筆頭ではないでしょうか。

ここ40年ほど、世界記録、世界大会のタイトルともアフリカ系の選手の名前が続きました。彼らの多くはアフリカの高地でも特に長距離選手の強化に適したスウィートスポットと呼ばれる標高2000mから2500mのところで生まれ育ち、トレーニングをしています。これよりも標高が高いとトレーニング強度を高めることができず、逆に低いと環境による体への負荷が不十分となります。

しかし近年はヤコブのように非アフリカ系の選手の活躍も増えてきました。その理由のひとつとして、トレーニング科学が発達し、生理学的知見から合理的なトレーニングの実施や高地トレーニングのメカニズムが解き明かされ、高地に生まれ育った選手でなくとも、それと同等の効果的な強化策を実践し、成功させたことが挙げられます。

私たち日本人もほとんどが海抜ゼロメートルに近いところで暮らしていますが、国内にも標高1000mから1500mほどでトレーニングできる環境があります。普段から標高が低い環境で生活とトレーニングをしている選手たちには大いに身体へ刺激を入れて酸化能力の向上が期待できますが、スイートスポットと言われている環境よりも標高が低いため、不十分と言わざるを得ません。日本では標高2000m以上で長期間トレーニングするような場所はないため、同程度の負荷が得られる低酸素環境を人工的に作り、そこでトレーニングをしないとアフリカ系の選手に太刀打ちできないと考えています。私が城西大学での指導で低酸素トレーニングにこだわっている理由はそこにあります。

さて今回のパリオリンピック男子5000mはヤコブ以外にも前回大会の覇者で、世界記録保持者のジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)、そしてハゴス・ゲブレヒュイット、ユミフ・ケジャルチャの(ともにエチオピア)と、世界歴代でもトップクラスの選手が走ることでしょう。しかし私はヤコブも含め、非アフリカ系選手に注目しています。なぜならば高地民族ではない彼らの科学的な取り組みが、私たち日本人の強化のヒントになるからです。レースの走りからだけではわからなくとも、どんな選手が台頭してくるかを見るだけでも、その後のリサーチの対象が生まれますので、大きなきっかけになります。

展開としてはラスト1000mからの強烈なペースアップ、そして最終ラップでのスプリント勝負が見ものです。日本の選手はまずはそこまで先頭集団にいられるだけのスピード持久力、具体的には400m、63秒台のペースでも対応できる走力をつけないことには勝負に絡めませんが、ラストで繰り広げられる異次元のスプリント力への対応も今から私たちが意識して強化しなければならないポイントです。実際のレースとなれば予選も決勝も手に汗にぎる展開になることは間違いありませんが、「彼らはなぜ速いのか」、「私たちはどう対抗するのか」といった視点を持ちながら楽しみたいと思います。

そしてもうひとつの見どころが男子マラソンです。史上初の3連覇を狙う39才のエリウド・キプチョゲ(ケニア)と5000m、10000mの元世界記録保持者であり、オリンピックや世界選手権も勝ちまくった42才、ケネニサ・ベケレ(エチオピア)の対決が見られます。若い方はご存じないかもしれませんが、彼らは若い時からトラックでも世界大会のメダル争いを繰り広げており、そのレジェンドがこうして年齢を重ねたうえでマラソンで戦うことに私は胸の高まりを抑えられません。彼らがオリンピックで競うのも最後かもしれませんので、その姿をしっかりと目に焼き付けたいと考えています。

歴史に名を刻むのは誰か

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?