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#10 「必然」

土曜の行楽帰宅時間なのか、電車は混んでいた。なんとかして電車を降りる。
自分の格好を伝えた。
【グレースーツにカーキーのスプリングコートに重そうな黒のポーターのリュックに黒渕メガネ】
【あたしは、トレンチコート着てます!黒のバック肩から掛けてます!】
【わかりづらいなー】
【ロングトレンチコート!】
【髪をおろしてます!】
【チェックのブラウス着てます!】
【黒のリボンのパンプス👠】
【そして、2階のGODIVAの前のお店にいます!】
(汗)
食い気味で立て続けに送られてきた。
若い子のメールを打つ速さには頭が上がらない☺️💦

そのメールを確認する時には、ラクーア(ショッピングモール)を通り越していた。
そもそもラクーアに来たのもかなり久しぶりだったのでいつの間にかスルーしていた。

慌ててラクーアの自動扉に入ると、
すぐ目に入ったのが【GODIVA】だった。
【俺も…GODIVAの前にいるよ】
と送ると、1人若い女性がスマホに目を移し、顔を上げキョロキョロし始めたので彼女だとわかった。
しかし、あえて俺は気づかぬふりをした。

特に意味はない。

ただ、探す様が可愛かったから見ていた。(違う人じゃないことを祈りつつ)
少しして彼女も気づいたらしく、小走りに駆け寄ってくる。
「すみませーん!」
「こちらこそ早く終わるとか言っといて、ごめんなさい。」
ぎこちない感じが、否めない。
『あれだけコミュニケーションが取れていたから大丈夫!』と言い聞かせるように、いつものチャラさとジェントルマンになる。
ひとまず、今日の試合の話やチームのイベントの詳しい話をしながら目当てのサンダードルフィンのある3階に向かう。

【現在荒天のため中断】

というディスプレーの表示を見つつ、スタッフのお兄さんに念の為確認するため声をかける。
「いつ再開するかわかりません」という回答。
ここで何時間も待つのは現実的ではない。
ので、ひとまずBプランを提案。勝手に考えていた。
「仕方ないから、食事・飲みにしよっか。ひとまず水道橋駅から御徒町に行こう。イタリアンとか平気?」
「大丈夫です!行きましょう。」
サンダードルフィンのフロアーから階段で2階まで降りて、東京ドームを横目に水道橋駅まで歩いていた。

たわいのない話をしていた。

とにかくおどおどせず、『大人な俺!』を意識して、でも硬すぎずチャラさも入れつつ、多少強引にべらべらと話題をふる。
彼女は嫌な顔せず、疲れているはずなのに『ウキウキ』した感じで話を返してくれた。(おっさんじゃなければいいと思いつつ)

でも、やはり緊張はうかがえた。

ホームに着き、ちょうど電車が走り去って行った後だった。5分後に次が来ることを確認して少し前の車両に乗ろうと歩いた。
今までのLINEで話していたおさらいをしてたわけじゃないが、本当に「はじめまして」から始まった。

電車がホームに着いた。

中途半端に混んでいたが、ドアの前の手すりが空いていたので彼女の背中を触れてそのポジションに誘導する。彼女の表情がなんか恥ずかしそうに見受けられた。
それはたぶん相対したからだと思う。
俺も目を合わせられなかった。
その時は。

秋葉原駅に着いて京葉東北線に乗り換えて御徒町へ。

御徒町を歩くこと、8分ほど。

[イタリアン&ワインバーレストランCONA]
コスパの高い美味しいイタリアンを出してくれるお店。
ちょうどカウンターが空いていてそこに通される。
装飾は桜の造花が天井いっぱいに咲き誇っていた。
気分は花見だったが、そんな装飾にも目をくれず隣合わせに座って始めの一杯を注文。
乾杯のピールを2人で頼む。そのあとアラカルトで一品モノを3、4品頼み終わったタイミングで別の店員さんがピール二杯を運んできた。なんとコスパの高い連携。
彼女は、「かんぱーい!」とグラスを交わしたあと、一口で半分くらいを飲んでいた。
『ッカァ〜』と言いそうな、いや言いたそうな顔だった。
なので、俺が
「ッカァ〜!仕事終わりの一杯は…」と。
「塚越さんズルい。」
「代わりに言っといたんだけど(笑)」
緊張が解けたわけじゃないけど、心の紐が少しでも解ければいいと願った一声だった。
彼女は、ニコニコと緊張とが入り混じった表情しながら、お通しの茶豆を口に含んでは出しながら、iPhoneが放せないでいた。
「忙しそうだね。友達?」
「いえ、仕事のというかチームのメールが止まなくて…」
オフタイムがない。
小料理も出揃い、仕事の愚痴やなぜラグビーに携わっているのかを諸々聞いていた。
彼女は本当は退職するはずだったらしい。
しかし、秘書や経理の仕事の能力が高く役員が手放すわけもなく、彼女のやりたい部署を作るくらいの彼女の存在とは…凄すぎた。

本当はスポーツに関わる仕事がしたかったらしい。
スポーツは全般好きで、特にバスケットは中学時代に全国大会で良い成績を残したほどの実力だとか。
聞けば聞くほど驚かせる事ばかりだった。

俺は、ビールからハイボールに変えて、彼女はピールをどんどん飲む。

少し気分がお互い解けてきたタイミングで、サプライズ手土産を出すことに。
「実はプレゼントがあるんだけど…貰ってくれる?荷物になっちゃうけども…まー貰ってもらうけどね(笑)」
「?もらいます!何ですかー?」
と、おもむろに無駄に重いリュックからゴソゴソとというか、1番上にあるのだが、探しているふりをして…
「海外リーグのファンブックー!好きな選手がいるって言ってたから。」
「わー!うれしー!」
と言いながら、渡して嬉しそうにページをめくっていく。
「と、もう一つあるんだけど…」
「???」
と、すぐに渡す。国内代表チームのロゴが刺繍されているキャップ。
「すごーい!いつ被ろう(笑)」
と、一気にほころんだ。

1時間くらいして教え子であり、上野の美容師のRYOが合流する。
「おっ、お疲れ!教え子でカリスマ美容師の卵の陵。こちらはまりなちゃん」
気まずそうにRYOのことを見る彼女。飲んでても人見知りは抜けないらしい。
L字でカウンターに席を取る。
俺が美容のことでパスを出す。
すると、女性ならではの悩みや、美容師を探しているということで話が盛り上がる。
そうすると奥にあるテーブル席が空いてそこに移動できるか交渉すると快く通される。
俺が先に奥のソファー席に着き、RY Oが俺の目の前に座る。遅れて彼女がきた時に、俺が手招きで俺の隣の席に招く。
表情が完璧に見えたわけではないが、サッと隣に来てくれた。

白ワインが飲みたい!と、彼女のリクエストがあったので店員さんに適当な飲みやすいワインを頼む。

お酒は飲めると言っていたが、いいピッチで飲み干していった。

RYOも俺もたしなむ程度には飲むレベルで、顔が真っ赤になっていた。彼女のペースに。
RYOが、彼女の髪を触って褒める。
なんかちょっと
「ん?」
ってなっている自分が酔いながら思ったが、そこはスルーした。
体に酔いが回ってきて体温が上がる。左の壁に腕を上げたりしながら、彼女と陵の話に割って入ったりした。

恋愛の話になった。
RYOの恋愛話。つい最近別れて今でも連絡を取っていて、こういう人なんだという軽い触りだが、話をした。
それに対して、「RYOさん優しすぎる…もっといい人いるから!」と励ましていた。
そして、彼女の話も。
重い過去を知ってしまった。
だからと言って彼女の見方を変えるつもりもないし、素晴らしさは変わらない。
むしろ、もっと話を聞いたりしたりしたいと思った。

「私ー、仕事辞めてアパレルの仕事したい!こー見えてユニクロとかで働いてたんですよー」
「おーいーじゃん!買い行く行く(笑)」
それと同時に、彼女側に俺の腕が回る。体に触れることはなく背もたれの上の部分に手を回した。
彼女は、ふと俺の右手の方を向く。気がついたが酔いが回っていてどうでもよくなっていた。
2本目のワインボトルを開け終えたところで、彼女は一旦席を立つ。
俺が店員さんに腕を「バツ」にして、勘定をもらう。にお金を渡し余った分を2人でと言ってお願いした。RYOにお金を渡し余った分を2人でと言ってお願いした。

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