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#6「話がしたくて」

大会が終わり、気が抜けつつも次の大会が待つわけもなく、勝手に向こうから最初は小股で、そして、大股で…さらに駆け足でやってくる。はー。
地元での高校生の大会のイベントのサポートに。
それは、会場に行ってレクチャーで良いと言われたので、
うちの部署から私が行くことになった。
火曜日と木曜日に…そう、休日の火曜日が…
また、連勤の始まりだ。
週末は、東京で行われるプロの試合の運営が待っている。

癒しと休息は無いものと考えよう。

彼女との連絡もあの大会で終わりを迎えるのかと思っていた。
しかし、その後も私のルーティンを彼女は「嫌」という自己主張もせず、
むしろ楽しそうに連絡をしてくれていた。
甘えている私自身が、「その考えは甘いのか?」と考えるはずもなく。
「藁にもすがる」とあるが、
10歳下の若い盛んな女性に「藁」扱いはまずいかもしれないがその表現しか、無い頭を振り絞っても出てこない。
ほかに言葉があるなら教えてほしいくらいだ。

特定の女性と毎日連絡ができることが久しぶりだった。
特に意識はしていなかったが、
ただただ「彼女」は、自分にとっての「癒し」だった。

お互い返事ができる時にしていた。

今日の昼のやり取りが面白かった。
[ちゃんと、こまめに休んでる?]
と、送ると。
[ぜんぜん…そんな暇ないです]
[コーヒーブレイクは?]
[それなんですか?美味しいんですか?(笑)]
[(笑)じゃー熱々ジョニーコーヒーを会社まで届けよう!温くなったコーヒーだけど受付嬢に渡しとけばいい?]
{遠いですよ?ってか本当に持ってきてくれるんですか?
塚越さん本当か嘘かわかんないです(笑)」
「基本嘘はつかないのでーご要望あらばいつでも^_^]
たわいのない感じだが、
からかい半分、ちゃんと会ってフランクな話がしたいと思ってることの半分でいたのは事実。

その日の夜、次の日が地元で大会の運営サポートという事で、
仕事が終わってから、半年ぶりに帰省した。

彼女も仕事がひと段落したのか、
[お疲れ様です!
ちょっと聞いてくださいよー]
と、穏やかではないメッセージが(笑)
なんだなんだと冷静を装い、
[お疲れ様〜どしたの?]
[うちの室長が〜!…]
と、彼女が嘆いてくる。
ひとまず思いを吐き出させ、意見を言う。
[…と思うし、年上のマインドを変えるのには、すごいエネルギーがかかるけど、自分のマインドを変えようとしたら、変えようって思った瞬間だから!…]
と、大人ぶった感じで教師にでもなったかのような雰囲気で返信をしてしまった。
そう言えば元教師だった。
その時の癖がのっかってしまったと後悔…。
そしたら、
[センセー(涙)私のセンセーになってください!]
おいおいと思いつつ、
[保健体育の?]
[いやいや、私のラグビーマネージメントの!]
いやいや、それに関係すること言ってないけども。
仕事場で彼女にとって、第三者の理解してくれる捌け口がないのかもしれないと察した。
本人もそう言っていたのを思い出した。
だから、はじめての電話の時に、
「塚越さんみたいなスタッフがいないんです」
と言っていたのを思い出した。
何か頼られているようでその気にならない理由もなく、
[なんでも話していいよー]
と伝えた。
[飽きないでくださいね!引かないでくださいね!]
と、念を押された。

その日は続いた。

[この間、俺のことどう思った?]
[?]
[大会の時に本部に来てくれた時!]
[あー!]
[忘れちゃった?そかーインパクトなかったかー]
と、からかいのジャブを入れると
[緊張しちゃって…でも、ちゃんと覚えてますからー!]
彼女の回答を待つ前にストレートパンチ!
[早坂さんはさ、スポーツスタイル似合ってたし、可愛かったのは覚えてるよーぜんぜんテルマではなかった!]
[テルマは、雰囲気でってことで…
あたし可愛くないですー!ってか、言われたことないから恥ずかしいーです(汗)]
[いや、社交辞令とか言えないし、想ったことを言っただけだよ]
からかわれていると思っているらしく、信じてもらえない…
[塚越さんは、運営の人っぽくなかったです。]
どういうことだ?良い意味なのか?
[紳士なお兄さんって感じでした!]
[なんで、そう感じたの?]
[帽子、サングラス外して立ち上がって、握手してくれたじゃないですか。今まで、初対面であんなことされたことないです。]
ラグビー界では、
出会いの始まりは握手で始まるってくらい、
握手は、日常的で自然な振る舞いだったからあの時もそうしただけだったが、
彼女に新鮮だったみたいだ。
[外国人選手とかむしろするんじゃない?
早坂さん可愛いからハグとかも?」
[いや、日本人であれだけ初対面で自然とされたことなーい!]
好印象?だった?かな?。
[なんか外国人っぽかったです(笑)]
[いやいや(汗)早坂さんから見ておじさんだったろ?]
[ぜんぜん!むしろお兄さんというか、大人というか…とにかくおじさんとは違う感じ!]
彼女から見て、おじさんじゃなかったことは何にも代え難い嬉しさだった。

いつも、一人で悶々とパソコンと睨みつつ、
ああでもないこうでもないと思考錯誤していた毎日が、
彼女という色が入っただけで、
黒に近いグレーな世界から、
カラフルになるなんて
はじめての感覚だった。

今月が誕生日と覚えていてくれた彼女から
[いつお祝いしますか?][?]
という質問が飛んできた。
[俺なんかの誕生日祝ってくれるの?
と、そもそも一回その前に会って色々早坂さんの話聞きたいな。]
[いいんですか???本当に?いつにしますか?]

『会う』
が、リアリティになってきた。

お互い平日の夜は、その日の仕事の頑張り次第で新宿で食事などできることがわかった。
今の業務内容は、
基本アシスタントだから、
マニュアル作りや仲介役などの業務がない。
ほぼ定時少し過ぎるくらいで帰宅できる。
しかし、今週は出張と週末の試合運営のサポートがあったりして、会えないと思っていた。
明日の帰りが早くなりそうだったら連絡してみようと思ったが、変にお互い気負ってしまうのは嫌だったので、
言わずにその日を終えた。

明日は、7時現場入り…

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