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#29 「個室にて」

個室

個室

二人きり…

手を繋いだり、
キスをした仲と言えど、いつも【開けた場所】でのこと。
【準】個室(借り物ということで【準】)というのはなんだかんだ初めてで。

初めて会った時も…
ラクーア、CONA、御徒町〜上野駅間、公園
2回目以降も…
駅構内、バスタ、HUB、バスタ…
基本、開けているというか、公共の場だけだった。

恵を独占できる。
この上ないHappyなのは言うまでもない、のだが、
ドキドキ?

ワクワク?

etc…

緊張と不安が入り混じっていた。

自分という人間を曝け出してきた、つもりだけど、
それは、スペースが限られた中で【公共の場】のこと。
与えられたスペースの中で、ルールはあるが、
2人【だけ】なんて…そもそも久しぶりだった。
そりゃ、【カラオケ】に来たらすることなんて、
まず、歌いお酒を飲むこと
次に、歌いお酒を飲むこと
次に、空気を読んで曲を選ぶこと
この永遠ループ。

こんなことを考えてる俺は、下心丸出しだ。

そそくさと催促される前に、
選曲用タブレットをいじり重要であろう
【1局目】
を選ぶフリを。
もちろんちゃんと考えている。

彼女は、手荷物と上着をかけていた。

俺は、コート、ジャケットを着たまま、選曲していた。

『あーーどうするかーまずは、明るめの曲じゃないと俺が耐えられないー』
などと考えている。
会社の飲み会でも年齢が若手と先輩の間に属するだけに、
もじもじした後輩に選ばせていると、しらけるので、
誰も覚えていないけど、ノリの良い懐かしく、そして、胸に熱くなる歌を俺は知っていた。

Charcoal Filterの【Brand-New Myself ~僕にできること】だ。
若かりしき頃ににCMで流行った曲。

「そーしん!」
「え?なになに〜笑」
「初っ端だからBGMとしてきーてーよ…」
「えー真剣に聴くに決まってんじゃん!」

『そんな期待されても…』
と思っても、ひとまず、上着を脱ごうとすると、
「かけるよー」
っと手を伸ばしてくれた。
渡すふりして、恵の腕をとり、
優しく引き寄せ顔を近づけてキスをした。

不意を突いた俺に恵はハニカんで、
「もーずるい!」
と。
そのタイミングで
「♫ジャカジャーン」
と、わずかしかないイントロが流れる。

慌ててマイクを取り、
そして、慌てて歌い出す。

「♫だーめーな自分を愛せはしない…」
と歌い出す。

画面を見ていた。

彼女は、歌う俺を見ていた。
俺が、不意に視線を恵に移すと、
彼女は画面に目を移す。

その繰り返し。

その繰り返し。

一番盛り上がる2回目サビの後のメロディーに差し掛かるところで、

【コンコン】
と乾いたノック音が。

【どうぞ】なんて言う間もお構いなしに店員さんが入室。

キンキンに冷えたビールとハイボールをテーブルに置いて、
【ミッション完了】
とばかりに、サーっと引き揚げていく。

そして、曲は流れていても俺はお構いなしに
「かんぱーい!!」
とマイク越しに発狂!!
「かんぱーーーい!」
と恵も、もう一本のマイクを手に取り発狂!

しかし、スイッチがOFFだったので、
もとい…ONにして…
「か・ん・ぱ・いーーーーー!」
とこれでもかと発狂!俺は、大笑いした。
気持ちいいくらいに。
仕事の疲れや、
今までのしんどいことが発散されていくのがわかる。
肩の力が抜けていく

彼女も喉が乾いていたのか、
「プハーーーー!」
っと、中ジョッキ半分飲み干していた。

「次の曲挿れた?」
「もう挿れるよー」
と、言われた瞬間、タブレットから送信が完了したのか、
画面右上に、

【次曲:ボーイフレンド】

aiko

俺の青春の曲


To be next story…

(あとがき)
カラオケデートなんて20年ぶりのことで、この設定なので、
どんなんかなーって考えながら、
【密室】を表現するのに非常に悩みました。
基本的に自分の綴り方は、対象者が少なくリアリティーが感じられないかもしれませんが、
感じてもらえたら嬉しいです。

引き続きよろしくお願いいたします。

※特に写真に意味はなく、今の風物詩的な感じで載せました😊@熊谷

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