＃10−3 「それから」

改札口を出て、手を繋いで横断歩道で青になるのを待つ。2人して深夜の御徒町に響くくらい大笑いをした。
「気づかなかったー(笑)」
「恥ずかしいー(笑)」
アメ横に響き渡るくらいの声で話をした。
手を繋いで歩いた。
彼女は左側が正ポジションらしく右側に来ようとはしなかった。
「いーのーこっちがいーのー！」
と言う。
「そうなの？わかったよ」
足を止める度に、キスしてハグをした。
人目は無かった。
深夜のアメ横の人のいなさ加減は、東京ではない感じがした。

2人の道だった。

彼女はキスがしたくなると腕を引っ張る。というより止まる。
ハグしてキスをする。
彼女がしたい時は俺もしたいと思っている時だった。

ふざけて居酒屋のオブジェの樽の上に登ったりして完全に酔っ払いがするようなことをしてしまうくらい浮かれた。
彼女は右手を差し出してダダをこねるようにしている。
それを俺は捕まえて引っ張りギュッと抱きしめた。
たった上野までの500mの商店街を20分以上かけて歩いた。

こんな楽しいことは今までになかった。彼女は俺のお姫様だった。

「俺のキス変じゃない？ほんと久しぶり過ぎて…」
「わっかんなーい(笑)」
『？』
「嫌だった？」
「嫌だったらしないよーだー！」
そりゃそうだ。

上野駅がもっと遠ければいいのにと思いつつも不忍池口のタクシーロータリーに着いてしまった。

タクシーで、池袋駅に向かった。時間は1時を回っていた。
彼女の頭を俺の胸に抱き寄せ俺の頭も彼女の頭に付ける。
頭にキスをした。
彼女は「ダメーー」というが御構いなし。
心地好さそうにしてくれている彼女を見て、
俺が求めていたのは
「この人とのこの空間」なんだと。
答えはわかっていたのに求めも言葉にもしなかった。
もう手の入るものではないと思っていたから。
彼女にもトラウマがあると言ったが、俺にもある。

深く求めることの不安。
自分がはまって抜け出せなくなる不安。
うまくいっていればなおさら終わりを意識してしまう不安。
相手が何を考えているのか理解するためにシャイなくせに話をしたいと思い空回りしてしまう。
興味がなければ、好きでなければそんなことはない。
[いい人]とよく言われるが、それでもいいからその人が[幸せ]と感じてくれれば。
そんな風になったのは…いつからだろう。
[チャラい]という言葉があるが、そんな装いを演じるようになったのは…いつからだろう。

踏み込まずに相手を考え楽しい気持ちにさせることばかりを考えて、[特別]な[特定]な存在を見つけることを諦めていたのは…いつからだろう。
その殻を破ってくれたのは恵だった。

タクシーを降り、あてもなく手を繋いで歩いていた。彼女は手を強く強く繋いでくれていた。
深夜の池袋は若者で溢れていた。
桜の見頃も下降して何もないのに、最後の春休みを凌駕しているかのようにはしゃいでいた。
そんな若者をよそに唇を交わす。
深夜の外は冷える。公園のベンチに座り少し休むことに。

「ゆうたさんとまだ一緒にいたい…」
「わかってるよ。」
でも、体を交わすのには抵抗があった。その行為そのものの自信もなければ、彼女を一夜限りなどと思うことなど考えたこともなく…
実は[不能（ED）]なのだ…
トラウマがそうさせてるのか、不規則な今の仕事のストレスがそうさせてるのか。はたまた、その両方なのか。
「恵は、何がしたい？」
「わっかんなーい！」
「どこ行きたい？」
「わっかんなーい！！」
「そうだ！東京タワー行こう！」
と、無茶なことを言ってみた。そしたら…
「いきたーい！！！」
公園の遊具がアニメのように飛び跳ねそうな大声で叫ぶ。
でも、冷静に…。
「いつ行く？」
と言うと。
「いまからじゃないノーーー？」
黙らせるためにキスをして、そっと、
「今度行こ。」
彼女は軽く頷き抱きしめてくれた。

2:35

また、歩き出した。

マルイの前のタクシーの行列に連れて行く。

「今日はありがとう。また、連絡する。すぐに。ちゃんとベッドで寝るんよ。」
「ありがとう。」
ドライバーが見ているのを横にキスをして、ドアが閉まる。
名残惜しい。
彼女が乗ったタクシーを消えるまで眺めていた。

俺の止まっていた時が動き出した。

to be next story...

（あとがき）
今回は「＃10」を３部に分けてお送りしました。
長くなってしまい申し訳ありませんでした。
「−２」からちょっと激しい描写になってしまいましたが、
そんなイメージでして…
本当の初めての出会いでのこの展開は賛否両論あるかと思いますが、
お互いの気持ちがそこにあるのではと。
彼女のトラウマというものがなんなのかわからないということもありますが、次回以降で説明できればと思います！
引き続き稚拙な文章ではありますが、よろしくお願い致します！