お袋の味は漢方

 社会人をやっていると忙しさに追われて粗食になる。特に独身一人暮らし男子はそれが顕著で、自炊をしている人はそんなに多くはないだろう。自分も休職する前、随分粗食になっていた。朝はコンビニで同じサンドイッチを買っていた。夜はスーパーの安くなった惣菜。食べているものはまだしょうがない。問題なのは究極的に食に対して興味が湧かなくなっていたことかもしれない。何を食べても同じ味がしていた。そして、何を食べるか考えるのも面倒だった。

 現在実家にいることもありお袋にご飯を作ってもらっている(非常に情けない話だが)。ぶっちゃけた話、味だけを言えばおそらくファストフードを食べていた方が美味しいと思う。当たり前だ。リピートしてもらうためには基本的に濃い味にした方が良い。美味しいものはカロリーが高いと相場が決まっている。ただ、家庭で求められる食事はそこではない。"栄養のある"美味しい料理だ。たまに漢メシみたいに男子が料理を作ることもあり、たまに作るだけで美味しいだの助かるなどちやほやされるものだから調子にのる(戒め)。しかし、おそらく料理に対するベクトルが少し違う。栄養のバランスというよりは美味い料理を作ることにこだわりたくなる。自分の中の究極のスパイスカレーやカルボナーラを作りたくなる。沼にハマると半日ぐらい料理を作っていたりする。ある意味まずいわけがない。これはこれで楽しい休日としてならありだが、日常的には無理だろう。もちろん男の中には余った食材で何を作るか考え、副菜、彩り、栄養バランスも考える人もいるだろう。ただ、自分の周りでそこまでやっている人はなかなかみかけない。

 そして、このようなバランスの取れた食事、というのがどこまで体にとって大事かかなり分かりづらい。薬のようにすぐに効き始めるものではない。最近、東洋医学と西洋医学の違いを本で読んでいたのだが、東洋医学は簡単に言うと全体主義、西洋医学は局所的といった感じだ。体を一つの機械に置き換えるならば、なぜ壊れたか原因を考えて全体の動きを整えていくのが東洋医学、壊れている部分を突き止め部品を取り換えるのが西洋医学といったようなものらしい。そういう意味で言うと、体のバランスを整える、という意味で家庭料理というのは東洋医学的なのかもしれない。

 そのように仮定すると(家庭料理だけに)、お袋の味は漢方に近いのかもしれない。特効薬でない分非常に効果が分かりづらいが、もし、あなたが年齢を重ねても生活習慣病に陥ってないのであれば日々健康に気を使っている人が近くにいるおかげかもしれない。東洋医学にありがちだがその効果を実証しづらいので、価値化できず真っ当な評価を得にくいが故に、主婦(夫)が嘆きたくなるのかもしれない。

 最後にこのようなことを書いたが、主婦(夫)の方に毎日献立を考えろと言っているわけでもなく、料理をちゃんと作れとも言っているわけではない。むしろ料理できない上等。私も包丁でりんごの皮むきをしたらでこぼこ多角形のりんごが出現する。フードエコロジーに反する。というか楽をしようよと言ってしまいたくなる方だ。しかし療養中の私に対して、いまだに栄養のある料理を作ってくれる親にマジ感謝したい、という話であった。

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