春野

小説、詩、短歌、戯曲、川柳、音楽関係(感想)などなど創作。

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最近の記事

【詩】竪琴

あのひとが歌う。 するとわたしはたちまち竪琴になる。 身体じゅうがかき鳴らされて わたしはさまざまな音色をあげる。 それは悲鳴に違いない。 声なき悲鳴。 それでもあのひとは歌うことをやめない。 雲雀が天に向かってさえずるように。 健やかな者は自由だ。 あなたは歌っていいのだ。 あのひとが歌うと わたしはからだじゅうの力が抜けてしまう。 こころのなかに、虹が架かる。 晴れの日が百日続く。 それは災厄に違いない。 いつまでもいつまでも鳴り響くのだから。 たましいが

    • 【詩】旧友

      もう一度だけお前を この手で 抱きしめたい                    彼は予告のうちに死んだ 選ぶことは叶わなかった ここに来た時点で、彼の命数は尽きていたのだ おそらくはわかっていた そのことが何よりも哀しい 動かない手指と足指 張り裂く声に 届かぬナースコール 不幸にして死の直前まで彼の意識は明瞭であった だから私は今、この一文を記している 突然、彼は旅だった 遠い遠い空へ続く 彼の微笑み

      • 【詩】影のない影

        私たちが見ているものは薄い長い影 そこに原則人の姿は見えない 一人だけ さらに影のない女がいる 彼女はこちらを見ている 目と目が合っている

        • 【ホラー小説】駅長

           夜のО駅の売店にはいつものように見慣れたチェルシーがあった。街角のコンビニではもう久しく手に入れることができなくなってしまった。だからО駅に立ち寄る時があれば俺はいつも売店でチェルシーを買う。そして、きょうはしきりにのどが渇いていた。俺は弁護士。昼から裁判をこなした後も、事務所に戻って尋問事項の作成。クライアントとの打ち合わせ。今日もそれなりに働いたからだ。 ――ポケットにちゃんとふたつの切符はあるな――  そう思われてポケットをまさぐると、かさっと切符と切符が二枚重な

        【詩】竪琴

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          【詩】夢中さ君に

          入学式だった 夢の中で黄色の靴を貸してくれたハンサムな男 正門だった 男は門に凭れ掛かって気障に笑っている 何も知らぬ土地にて、初めての教室へと向かう 薄れ行く記憶、「軽音楽同好会」と 男は会話のなかで幾度か触れている すでに意識は覚醒へと向かう なんとかこの言葉だけを銘記した 私はこの時、跳ね起きる 深夜二時、私の意識を覚醒せしめた 「ブラスバンド同好会」とはいったい何か? どう考えても その大学のサークル名のようだった 私はうろうろと部屋を探す

          【詩】夢中さ君に

          【短編小説】声

           うららかな日々が続く春。ある朝、公雄はいつものように散歩に勤しんでいた。これといって趣味のない彼は、毎日一度の散歩だけが生きがいである。妻に先立たれ、実の娘、亜理紗に頼るばかりに彼女との距離は微妙なものとなってしまった。それゆえ実の子にこれ以上苦労をかけまいと、公雄は日々、外出するようにしているのである。それもこれも家に居たきりにならぬためだ。  今日もいそいそといつもの散歩コースを歩く。目の前の青の信号が点滅し、まもなく赤に変わろうとしている。この信号は一度変わったら、容

          【短編小説】声

          【詩】リズム体操ー日中米、ときどき香港ー

          歩き始めた 走り始めた 歩く(日)は走(zou3)(中) 歩く(日)は走(zou3)(中) 走る(日)は跑(pao3)(中) 走る(日)は跑(pao3)(中) 私は太鳳(たお)(日) 私はタオ(中) 歩く(日)はWalk(米) 歩く(日)はWalk(米) 走るは乱(米) 走るは乱(米) 1918年 米の乱 米の乱 敬がRun 敬がRun 綺麗な指していたんだね J(日)がWalk(※) J(日)がWalk 浪奔浪流 萬里滔滔江水永不休 淘盡了世間事 混作滔滔一

          【詩】リズム体操ー日中米、ときどき香港ー

          【短編小説】十時の時報

          ―ぷ、ぷ、ぷ、ぷーん  十時の時報が鳴りました。  山下夫妻は朝のキスをかわしました。ママはとってもご機嫌です。やがてともが生まれました。 ――ぷ、ぷ、ぷ、ぷーん  十時の時報が鳴りました。  山下夫妻は朝のキスをかわしました。パパはとってもご機嫌です。やがてたくが生まれました。 ――ぷ、ぷ、ぷ、ぷーん  十時の時報が鳴りました。  ママはとものほっぺにキスをしました。ともはとっても嬉しいです。 ――ぷ、ぷ、ぷ、ぷーん  十時の時報が鳴りました。  パパはたくの

          【短編小説】十時の時報

          【詩】永遠回帰フリスビー

          懐かしい記憶とともに 犬は微睡んでいる 日曜日の夕べ ご主人は彼をつれて岸辺を散歩した 岸辺ではご主人はフリスビーを投げる 彼はいつもキャッチする そこにはご主人の妻の姿はなかった 家に戻る間、いつも彼はご主人と戯れる 愛する人の顔を観ることができる フリスビーは百度、 日が暮れるまで放たれた 或る日 ご主人の顔に微かな憂いが 混じっていた 彼が感づかれた時 愛する人は余命幾許もなかった 程なくして ご主人は亡くなり 彼は次の飼い主に譲渡される 幸いにも想い出の地を離れ

          【詩】永遠回帰フリスビー

          【詩】ありがとう

          蟻が十 蟻が十 ありがとうの数が 増えるたび 世界はそれだけ笑顔が増える 蟻が十 蟻が十 蟻が十一 蟻が十二…

          【詩】ありがとう

          【詩】失踪

          砂浜の上での鬼ごっこ 踏みしめた砂の感触心地よくて 全力で走ってはついに孤独になる 「なんだったんだあの参加者は」と誰か 「真面目に走りすぎじゃね」と誰か やがて海風に乗って流れくる拡声器の声 「測定値は測定不能です」

          【詩】失踪

          【一瞬小説】自転車

          本屋を出た時のことだ。 急に目の前の駐輪場に滑り込んできた自転車があった。 「順子さん!」 「信吾君」 彼女は驚いて大きな声がでないようだった。 「いい加減信吾でいいだらう順子」 「信吾……」 男の頭には白いものがたくさん混じっていた。 我々一同は俯き、ふたりを黙って祝福した。

          【一瞬小説】自転車

          【一瞬小説】言い切る彼

          「私が私であるのは私が女だから」と貴志は言った。

          【一瞬小説】言い切る彼

          【詩】犬

          この地において 犬が空を舞うなんて当たり前 だから赦してやってほしいと 自治会長さんの顔を見ると 同じ犬であった

          【詩】犬

          【詩】相思

          酷寒の朝 棄てられた犬は 飼い主との暖かい記憶のなか まどろんでいる 身は保健所にあり 明日をも知れぬ同胞たちが 盛んに吼えながらも この犬は 身動きひとつ不自由な 檻の中で 飼い主を慕い 涎を垂らし続けている 今にも飼い主が現れる そう信じながら 最期の時を彼女は静かに過ごしている 同時刻 新年、仕事始めの朝 街に粉雪が舞う頃 飼い主は家を出ようとしていた ーいないー 犬は処分したが、ドッグゲージは未だ処分してはいない 彼は過去を振り切って 職場へと向かう 道すが

          【詩】相思

          【詩】みんなきれい

          まちいくひと、みんなきれい あなた、きれい。わたし、きれい び、は、みなにひとしく、わけあたえるもの みんな、きれい。いなほは、みれい び、は、あがめ。ひざまずくもの あなた、きれい。わたし、みにくい こんや、わたしたち、みなとみらい みんな、きれい。わたし、きれい

          【詩】みんなきれい