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小説「蛇口をひねる」 第七話
ほっ。よかった。本当に。私のせいで英美と、凛と、私の友情が崩壊しなくて。
ふう。思わず心の中で息をつく。
そして相手から次に紡がれる言葉を待つ。
「で、問い詰めようと思った訳」
…?
疑問が脳内に広がってゆく。正体不明のどろっとしたもの。
誰を?何て、考えるまでもない。凛。凛だ。
それにしても大げさだ。友達が部活を辞めた理由を聞きに行くためだけに、早起きして、まだ眠いって言っている自分の体に
小説「蛇口をひねる」第六話
学校の駐輪場に自転車を停めて、いつものように昇降口までの道のりを歩く。ウサギ小屋のところで右に曲がって、そのすぐ先の警備員詰所で左。そのまままっすぐ20秒歩けば、すぐ昇降口に辿り着く。下駄箱に履いてきたスニーカーを入れて、上履きに履き替える(上履きの色は学年ごとに指定されていて、一年は青、二年は黄、三年は赤だ)。
いつも通り急な憎き階段を何段も何段も上がって3階に辿り着く。ふう。唯一の救いは、私
小説 「蛇口をひねる」 第五話
小学校五年生の頃の話だ。
あの時は、私はろくに友達もできず、休み時間が来ると自分の席で本を読んで毎日を消化し続けていた。そしてそんな自分を内心かっこいいと思っていた。どっかの恋愛小説に出てきた優等生ヒロインみたいで。正直恥ずい。うーーーーん。
そして、そんな私にとって、休み時間に騒ぐような奴は敵だった。
「ぎゃー」
「タッチ!次お前が鬼なー」
廊下で鬼ごっこをするバカな男子どもの声。
「あ、
小説 「蛇口をひねる」 第四話
帰り道はいつも一人だ。疲れた日も、そうでもない日も。それはきっと今日だって。
…そんな文章を脳内生成しながら、夕焼けを見る。ふと反対方向に首を向けると、学校支給のパソコンのキーボードを叩きながら、横の小テストの束(採点済み)に向き合う凛の姿が。その懸命な姿に、思わず口角が上がってしまっているのに気付いた。
…きれいだな。風に揺れるカーテンみたいな黒髪も、キーボードを叩く音も、夕焼けに照らし出され
小説 「蛇口をひねる」 第三話
「このことは、えいみにはないしょで」
凛が何を言っているか、一瞬だけ理解出来なかった。代わりに、
「え?」という情けない声が口から漏れ出る。
…は?英美にだけ内緒?
どういうことだ。英美と凛は「親友」という言葉がお似合いの二人で、お互いの事を信頼しあっていて、音楽仲間でもあって、でも、部活は違くて。
それで、それで。あとは、あとは。
「なんで」
思わず聞いてしまっていた。私のモットーをかなぐり捨
小説 「蛇口をひねる」第二話
声のした方を振り返ると、そこには今日もう出会わないはずの人物がいた。
凛だった。
この時間は吹部の活動時間のはずだ。うちの吹部は強豪だから、サボりなんてしたらどうなるか分からない。
しかも凛はとにかく真面目で、部活をサボったことなど一度もない。
どうしたんだろう。
戸惑いを隠しつつ、応える。
「やっほう…?」
突然、凛が笑った。
「あはははっ!!れーちゃん、ビックリしすぎ!」
どうしちゃ
小説 「蛇口をひねる」
第一章 5月
新学期が始まってから早一ヶ月。この生活にも随分と慣れてきた。
午前七時半、教室のドアをガラッと開けても、予想通り誰も「おはよう」とは言ってくれない。
一番乗りで教室にたどり着いた優越感を噛みしめつつ、席に座って参考書を開く。
問題を解く。ただそれだけの時間が一時間流れた後、ホームルームが始まった。
ホームルームって、何で「ホームルーム」って言うんだろう。
「おはようございます」