【映画評】H・シュスター/H・ラスク監督『わが心にかくも愛しき』(So Dear to My Heart, 1948)。
これはRKO配給のディズニー実写映画で、主人公の少年ジェレマイアの想像世界はアニメーションで表現される。ラスカルで知られるトマス・スターリング・ノース(Thomas Sterling North)の “Midnight and Jeremiah”(1943) が原作だが、20世紀初頭の米南西部が舞台で、要はウォルトの幼少期の思い出の再現というわけだ。
本作冒頭には繋駕速歩競走で最速を誇ったスタンダードブレッド、ダン・パッチ(役の馬)が登場する。それを田舎町の駅まで運んでくる蒸気機関車「オールド・ナンバー99」は、かつてユニオン・パシフィック鉄道で使用されていたもので、それをウォルトがパラマウントから借りてきた。1903年時点のインディアナ州の様子を再現するためである。
祖母と暮らすジェレマイアは、母羊に相手にされない黒仔羊を(ダン・パッチに因み)ダニーと名付け育てる。祖母に反対されながらも、成長したダニーを品評会に出すべくイリノイ州キンケイド村に向かうジェレマイアだったが勝利はならず。しかし特別賞を授与され汽車で誇らしげに町に凱旋するのだった。
ディズニー映画における蒸気機関車は『リラクタント・ドラゴン』(1941)や『ダンボ』(1941)のケイシーJr. に代表される様に、自然、取分け動物と仲良く戯れる。『わが心に~』の蒸気機関車も、馬のダン・パッチ、羊のダニーという家畜動物をこそ、ノスタルジーと共に乗せて運ぶための穏やかな乗り物だ。
19世紀には荒ぶるテクノロジーであったはずの蒸気機関車はその時、人間によって飼い慣らされ、動物と共に家畜化されている。W・ディズニーとは、テクノロジーと自然(動物)を馴致する調教師=魔法使いの謂いであり、プリンセス、動物、人ならざる存在をイメージ化・客体化する「クリエイター」である。
「世紀の変わり目」を(都合よく)懐かしむ為に作られた『わが心に~』は、その様なわけで、ウォルトにとって最良の映画となった。ディズニーには『機関車大追跡』(1956)という作品もある。機関車狂としてのウォルトの本領が発揮されたスパイ映画であるが、これについてはまたいつかご紹介いたします(私のnote【映画評】『機関車大追跡』 https://note.com/jolly_llama821/n/n5493724e0d49 を参照のこと)。
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