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読んだ本のことを書きます

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    読んだ本の紹介をしている記事のまとめです。

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    本の紹介をしていない日記です。

記事一覧

2024年のサマー・リーディング・リスト

読書の夏がやってくる!  夏といえば読書!という感覚が身についたのはどうしてだろう?小学校の夏休みに読書感想文の課題が出たり、学校がないので図書館に通い詰めたり…

バナナ星人
2週間前
23

"Opening Theory" by Sally Rooney: 新作"Intermezzo"がやってくる!

新作がやってくる  2024年7月8,15日合併号のThe New Yorkerに、Sally Rooneyの新作長編である"Intermezzo"の一部が掲載された。先行して7月1日に電子版が掲載され、予告…

バナナ星人
1か月前
11

人間を「精巧な機械」に作り替えるには: The Handmaid's Tale by Margaret Atwood

 子供を産むことにはかなり抵抗がある。抵抗というか、けっこうな恐怖がある。ひとたび子供を身籠ると、自分の制御のもとにあった(少なくともそう思われた)体は自分の意思…

バナナ星人
1か月前
4

中古本の過去を辿る

 本を中古で買うことはよくある。できれば新品がいいな、とは思いつつも、お金に困りがちな学生の身ではいつでも叶うわけではない。図書館からリユース本を譲ってもらうこ…

バナナ星人
1か月前
21

死を想えど、悟ったふりもできなくて : “Beyond Imagining” by Lore Segal

 読んだ直後には深く感動せずとも、数日かけてポコリポコリと感想が浮かんでくるうちに、気がつけば大のお気に入りになっている。何日もかけて意識の裏側で消化をして、あ…

バナナ星人
1か月前
9

[本と日記]きょうだいの類似性と夢、パラレルワールドの私 (夜のピクニック、Klara and the sun、Tomorrow, and Tomorrow, and T…

 本ばかり読む生活をしていると、出来事に対する考えの中に読んだ本のことを思い浮かべたり引用したりということが日常的になってくる。今回は、読んだことのある本の思い…

バナナ星人
2か月前
8

(日記)趣味程度の、ものづくりの欲求がある人 / 「無駄づくり」が大好き / 癒しとしての趣味・ものづくり

 小さい頃からものづくりが好きだった。保育園のお昼寝時間を抜け出して先生たちの元へ行き、お手玉の生地を見よう見真似で縫い合わせる時間が好きだった。どんな平面の縫…

バナナ星人
2か月前
12

リセットできない世界を生きる話: "Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"by Gabrielle Zevin

 北斎の巨大な荒れ狂う波。ゲーミングデバイスを連想させる虹色のポップな書体。一度目にしたら忘れることのないタイトル。"Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"は、初…

バナナ星人
2か月前
9

生産的であり続けろ、という声にとらわれて: "How Should A Person Be?" by Shelia Heti / "The Black Monk" by Anton Chekhov

"How Should A Person Be?" by Shelia Heti  Productiveという言葉はいつからか魅力的になった。休日は有意義でないと間違っている気がする。自分が一時間長く寝ている間…

バナナ星人
3か月前
14

幼い日々の、痛み苦しみに祈る: ここはすべての夜明けまえ (間宮改依), “Universal Harvester” by John Darnielle, "Allah Hav…

 「痛みのない幼少期は無い」というフレーズが頭の中にずっと残っている。どこで読んだのか思い出せないが、どんな人でも、何かしらの(わざわざ人に話さないような)痛み苦…

バナナ星人
3か月前
20

the New Yorkerで面白かった短編フィクション②: 村上春樹 / Souvankham Thammavongsa

 The New Yorkerを自身で購読し初めてから随分経ちました。最寄りの図書館に置かれていないのが不満で、また最近は電子版の記事の更新がタイムリーかつ非常に読みやすいと…

バナナ星人
3か月前
14

記憶の博物館を訪ねる本: "Time Shelter" by Georgi Gospodinov / "The Souvenir Museum" by Elizabeth McCracken

 私はあまり多くの物を持ちたくない性分なので、不要な物を売りに出したり、人に譲ったり、処分したりしたくなる時期が定期的にやってくる。しかし過去に使っていたものを…

バナナ星人
4か月前
28

読書のお供に!好きなBooktuberの紹介

 次に読む本との出会い方は年々多様化しているらしい。図書館や本屋で何気なく手に取った一冊を…というのは今も昔も変わらずあるようだけど、最近の、特に若年層の人たち…

バナナ星人
4か月前
24

20代のリアルと、ドラマなしに続いていく生活と/Beautiful World, Where Are You(Sally Rooney), NW(Zadie Smith)

 小学生の頃、学校の授業で20歳になった自分へのお手紙を書いて、どこかに託した記憶がある。どんな大人になっていますか。好きな人はいますか。想像もつかない将来の自分…

バナナ星人
5か月前
20

The New Yorkerで最近読んだ短編フィクション: 新たな作家との出会いの場

 The New Yorkerを初めて手に取ったのは高校生のとき。「日本のメディアとは切り口の違う記事が多くていいですよ」と当時の先生におすすめされたThe Japan Timesを目当て…

バナナ星人
6か月前
26

Franz Kafka短編集 / Flowers for Algernon / 最近読んだクラシックとか

 言わずと知れた「名作」を手に取る時、いつも心が揺らいでいる。一つ、ここには時の流れによる淘汰を潜り抜けた折り紙つきの読書体験が約束されているという喜び。二つ、…

バナナ星人
6か月前
29

2024年のサマー・リーディング・リスト

読書の夏がやってくる!  夏といえば読書!という感覚が身についたのはどうしてだろう?小学校の夏休みに読書感想文の課題が出たり、学校がないので図書館に通い詰めたりしていたせいだろうか。学校図書館では夏休みを見据えた長期貸出が始まり、書店を訪れれば夏の推薦図書や課題図書がきれいに並べられ、いくつもの出版社が競って夏の文庫本フェアを盛り上げる…。本のあるところに行けばどこでも「夏だし、たくさん読みましょう」という雰囲気が漂っていて、当たり前のこととして受け止めてきたのかもしれない

"Opening Theory" by Sally Rooney: 新作"Intermezzo"がやってくる!

新作がやってくる  2024年7月8,15日合併号のThe New Yorkerに、Sally Rooneyの新作長編である"Intermezzo"の一部が掲載された。先行して7月1日に電子版が掲載され、予告もなんも知らずに9月の新作発表を心待ちにしていた私はというと、ひっくり返ったり、取り急ぎTwitterにポストしたり、あえて平静を装ったりして過ごしていた。Sally Rooneyの新作が発表される時は、書籍の発売前に一場面を抜粋してThe New Yorkerに掲載す

人間を「精巧な機械」に作り替えるには: The Handmaid's Tale by Margaret Atwood

 子供を産むことにはかなり抵抗がある。抵抗というか、けっこうな恐怖がある。ひとたび子供を身籠ると、自分の制御のもとにあった(少なくともそう思われた)体は自分の意思と無関係に変化を始める。それは一年に満たない一過性のものだと分かっていても、腹の中で別の個体が発生し、個を捨てて尽くさねばならない…という状況は、自分には耐え難いことのように思われる。こうして書いてみると、自分が恐れているのは自由と自律が脅かされること、一生物として急激な変化を強いられることであって、つくづく子供を産

中古本の過去を辿る

 本を中古で買うことはよくある。できれば新品がいいな、とは思いつつも、お金に困りがちな学生の身ではいつでも叶うわけではない。図書館からリユース本を譲ってもらうこともある。この場合、古くてなかなか出回らなくなった本が書庫の奥底から掘り起こされることもあるので面白い。  人から人へ、本棚から本棚へと長い時間を辿ってきた本たちは各々の歴史を持っている。人の手の上で日の光を浴びたり、本棚の上で埃を払われたり、時々店に持って行かれて旅に出たりしてきたかもしれない。あるいは、ツルリとし

死を想えど、悟ったふりもできなくて : “Beyond Imagining” by Lore Segal

 読んだ直後には深く感動せずとも、数日かけてポコリポコリと感想が浮かんでくるうちに、気がつけば大のお気に入りになっている。何日もかけて意識の裏側で消化をして、ある時を境にさまざまな言葉が自分の経験と結びつき飛び出してくる。色々な小説を読み漁っていると、時たまそんな作品との出会いがある。先日のthe New Yorkerに掲載されたLore Segalによる短編 “Beyond Imagining”とは、まさにそういう類の出会い方をした。  この作品は、老年の女性たちによるラン

[本と日記]きょうだいの類似性と夢、パラレルワールドの私 (夜のピクニック、Klara and the sun、Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow)

 本ばかり読む生活をしていると、出来事に対する考えの中に読んだ本のことを思い浮かべたり引用したりということが日常的になってくる。今回は、読んだことのある本の思い出しをいくつか含む形で日記をつけてみる。 姉の夢の話を聞く  見たばかりの夢について話す相手がいることは幸せだと思う。話した方も話された方も日中にはどんな話だったか忘れてしまうのだが、夢という意外にもパーソナルでとりとめのない内容を、朝起きて間もなく、遠慮せずに話すことのできる人がそばにいるのは豊かなことだ。  姉

(日記)趣味程度の、ものづくりの欲求がある人 / 「無駄づくり」が大好き / 癒しとしての趣味・ものづくり

 小さい頃からものづくりが好きだった。保育園のお昼寝時間を抜け出して先生たちの元へ行き、お手玉の生地を見よう見真似で縫い合わせる時間が好きだった。どんな平面の縫い合わせがどんな方向に強い立体物を作るのかを考えるのは楽しかった。田舎の広い家と庭全体を使って、10-30体ほどの人形たちを使った群像劇を考えるのが好きだった。そこには何やら自分なりのワールドビルディングがあったようである。(人形たちは広い外の世界に憧れるが、あくまで"人形"として生を受けたため、実際に野外に出るとたち

リセットできない世界を生きる話: "Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"by Gabrielle Zevin

 北斎の巨大な荒れ狂う波。ゲーミングデバイスを連想させる虹色のポップな書体。一度目にしたら忘れることのないタイトル。"Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"は、初めて書影を見た時から私の意識の片隅に居座り続け、あらゆる雑誌のレビューから顔をのぞかせ、発売当初から「もしかして読んだ方がいいんじゃない?今」と絶えず訴えかけてきた小説だった。日本語訳が近所の書店に平積みされ始めたあたりであらすじに目を通し、観念して購入した。書籍のデザインや広報に

生産的であり続けろ、という声にとらわれて: "How Should A Person Be?" by Shelia Heti / "The Black Monk" by Anton Chekhov

"How Should A Person Be?" by Shelia Heti  Productiveという言葉はいつからか魅力的になった。休日は有意義でないと間違っている気がする。自分が一時間長く寝ている間に自己研鑽をしている同世代がいる。常に進捗がないと心を健康に保てない。趣味も友人関係も休み時間も何かを生み出していないといけない。きらびやかな写真を添えてSNSを更新すれば少し心が休まる気がする。常に誰かと自分を比べ続けている。なんとも終わりのないマラソンを走り続けて

幼い日々の、痛み苦しみに祈る: ここはすべての夜明けまえ (間宮改依), “Universal Harvester” by John Darnielle, "Allah Have Mercy" by Mohammed Naseehu Ali

 「痛みのない幼少期は無い」というフレーズが頭の中にずっと残っている。どこで読んだのか思い出せないが、どんな人でも、何かしらの(わざわざ人に話さないような)痛み苦しみを幼年時代に持って大人になる、の意だったと思う。子供の頃の記憶や感覚、心の動きというのは萌える若葉の如く、柔らかく剥き出しで、それゆえに鮮烈で、自分自身でも受け止め方がわからないくらいダイレクトに響いてくる。大人になってようやく向き合い方がわかるようになる人もいれば、生涯その記憶に背を向けないといけない人もいるだ

the New Yorkerで面白かった短編フィクション②: 村上春樹 / Souvankham Thammavongsa

 The New Yorkerを自身で購読し初めてから随分経ちました。最寄りの図書館に置かれていないのが不満で、また最近は電子版の記事の更新がタイムリーかつ非常に読みやすいということに気づき、電子版のみの契約をするに至ったのでした。普段使っているiPadでマガジンを読んでいるわけですが、嵩張らない・シワにならない・音声 & podcast 付き・動くアートワークと相まって、最高の読み心地で大変おすすめです。フィジカルブックにこだわりが強い私にとっては、電子媒体の読書に慣れるき

記憶の博物館を訪ねる本: "Time Shelter" by Georgi Gospodinov / "The Souvenir Museum" by Elizabeth McCracken

 私はあまり多くの物を持ちたくない性分なので、不要な物を売りに出したり、人に譲ったり、処分したりしたくなる時期が定期的にやってくる。しかし過去に使っていたものを手放すと、なんだかそこに引っ付いていた、記憶を呼び出すスイッチみたいなものまで失ってしまうような気がする。そこで、紙の本だけはどれだけ増えても良いということにして、並べられた本たちに記憶の倉庫、あるいは鍵束のような役割を担ってもらっている。一度読んだ本を何度も読み返すということは決して多くないのだけれど、一冊の本を本棚

読書のお供に!好きなBooktuberの紹介

 次に読む本との出会い方は年々多様化しているらしい。図書館や本屋で何気なく手に取った一冊を…というのは今も昔も変わらずあるようだけど、最近の、特に若年層の人たちにとっては、「ネットで見た」「SNSでおすすめされた」がかなり大きくなっているのではないでしょうか。とりわけ、英語圏を中心に爆発的に読者層を拡大させているラブロマンス/ファンタジー(romantasyというジャンル名が生まれたらしい)は、TikTokなどのSNSを介した口コミが流行に一役買っているとか。最近はどこの読書

20代のリアルと、ドラマなしに続いていく生活と/Beautiful World, Where Are You(Sally Rooney), NW(Zadie Smith)

 小学生の頃、学校の授業で20歳になった自分へのお手紙を書いて、どこかに託した記憶がある。どんな大人になっていますか。好きな人はいますか。想像もつかない将来の自分を想像して、私は何を書いたのだろう?  さて現実の私はというと、研究室に篭り、読書に耽り、画面の向こうの人たちとコミュニケーションをとるべく格闘していたら20代半ばになっていた。修士号を取るだけの研究データがたまって、ありがたいことに、好きになった医療機器メーカーで仕事をもらえることになった。視力がちょっと悪くなって

The New Yorkerで最近読んだ短編フィクション: 新たな作家との出会いの場

 The New Yorkerを初めて手に取ったのは高校生のとき。「日本のメディアとは切り口の違う記事が多くていいですよ」と当時の先生におすすめされたThe Japan Timesを目当てに、放課後、地元の図書館の洋雑誌・新聞コーナーに通うようになったのがきっかけ。学校近くの県立図書館は、これから世に出ていく子どもたちにとって、素晴らしい出会いの場であったように思う。The Japan Times、The Economist、National Geographic、TIME

Franz Kafka短編集 / Flowers for Algernon / 最近読んだクラシックとか

 言わずと知れた「名作」を手に取る時、いつも心が揺らいでいる。一つ、ここには時の流れによる淘汰を潜り抜けた折り紙つきの読書体験が約束されているという喜び。二つ、えっ、こんなに有名な作品なのに私は読んだことがないの?大丈夫?三つ、私は体験が欲しいのか、教養が欲しいのか。……こんな具合でいつも、一瞬心がゆらゆらと彷徨ったのち、表紙を開くことになる。読書ってかなり個人的で、solitudeを楽しむ人が多い趣味だと思うけれど、同時に幅広い人との体験の共有にも繋がっていることを意識せざ