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【エッセイ】足の爪が伸びている

「そろそろ足の爪切った方がいいよ」
お風呂上がりの子のドタバタがひと段落し、あられもない格好でソファに伸びている無防備な私。気づくと夫が私の足の爪をまじまじと見ている。

確かに伸びている。

昨日切り忘れちゃってさ…なんて誤魔化せないくらい伸びている。
マニキュアを塗るはずもなくありのままの爪。産後のダメージが現れてたまに横線が入っていたりする頑張り屋さんの爪。
伸びてんなあ!

子が放って床に落ちていたバスタオルを拾い上げて膝から下にかける。
「昨日切り忘れたの」
「……」
嘘ダァ、と夫の顔に書いてある。
(うるせぇよ)と心の中の暴れん坊が舌打ちしているが、私は目の前の物分かりの悪い大きな子どもに諭してやる。
「いい?お盆休みの子どもを三人ワンオペで見てると足の爪を切る時間なんて無いんだよ」
「嘘だぁ」
ついに本音が口から出たな。足にしっかりとバスタオルを巻きつけて夫からの視線をガードする。ちなみに体は肌着のままだ。今、私の恥部は足のつま先に集中しているのだ。

正直なところ、爪を切るくらいの時間はいくらなんでもある。やすりで削ったりしないから2分もあれば余裕だ。その証拠に手の爪はいつも短く切ってある。長いと汚れるからね。それに自分の爪は切り忘れるが、子どもの爪は切り忘れない。

多分、優先順位の問題なんだろう。
自分の心を守りながら家事育児をこなす。足の爪を切る時間があるんなら私はソファに伸びていたい。一方で爪にやすりをかけたりネイルを楽しんだりできる女性は、美意識を保つことが自分の心を守ることにつながるんだろう。

そうそう、そういうこと。

自分のだらしなさを心の中で全力で肯定して、目をつぶる。
ふわりと体に柔らかい布の感触。薄目で見ると3歳の息子が私のパジャマを持ってきて、無防備なママの体の上に乗せようとしている。紙人形の着せ替えみたいに上着とズボンが上手に乗っかっていく。
ジャジャーン!完成!息子、会心の笑み。

「動くと、せっかく乗せた服が落ちちゃう…」
素晴らしい口実を得てソファでひと眠りしようとする私に、夫はもう何も言わない。



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