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英詩: クラーク・アシュトン・スミス 『蜻蛉』

作. クラーク・アシュトン・スミス
訳. 出雲 幽

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蜻蛉(とんぼ)

翠色に透き通った川辺の、
早秋のある午後、
真紅の翅の蜻蛉が降り立ったのは
愛する人の白い脚の上。
そしてそれが飛び去って以来、
私がより十全に理解したのは、麗しさと
日々の儚さについて。
愛と美は己の内で輝く、
積み重なった血潮と琥珀色の枝葉が
秋の終わりに燃えさかるごとく。

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The Dragon-Fly

By the clear green river,
One afternoon in early autumn,
A dragon-fly with crimson wings alit
On the white thigh of my belovèd;
And, ever since it flew,
More fully have I known the loveliness
And the transiency of days;
And love and beauty burn within me
Like the piled leaves of blood and amber
That burn at autumn's ending.

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蜻蛉と恋人が触れ合った一瞬の光景は「私」にとって一種の啓示であった。「私」が感得したのは川辺の翆、蜻蛉の真紅、恋人の白、それぞれの異なる色と存在が、ある瞬間にある一点に邂逅する調和と安寧に満たされた法悦、そしてそれに続く永遠の喪失。

More fully have I known the loveliness
And the transiency of days;
私がより十全に理解したのは、麗しさと
日々の儚さについて。

The Dragon-Fly 6-7

それでも脳裏に焼き付けられた愛と美は、私の心に灯火を授け、その季節が終わりに向かっていこうと輝きを発しつづける。エネルギーを燃焼させ生命を駆動させていく血液のように、死してのち私の遺骸を密閉し宝石へと変える琥珀のように。

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Yellow Twilight by Clark Ashton Smith

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