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トライアングルには要注意

実家近くに、不穏な空気をかもしだす土地がある。田舎のとある交差点の一角にその土地はある。コンビニが建っていても悪くないくらいの広さがある。その土地は正方形や長方形ではない。そこに足を踏み入れてきちんと調べたら違うのかもしれないが、その土地は三角形に見える。

今から30年以上前、そこには学習塾があったようだ。当時の様子が記憶にうっすら残っているかどうかくらいなのだが、人で賑わっていた印象はない。

私が高校生の時、そこにラーメン屋ができた。一度訪れた。味は、可もなく不可もなく。私の祖母も一度、そのラーメン屋を一人で訪れた。途中で団体客が訪れ、祖母は、最初に座った席から、トイレ近くの端の席へ移動するよう、店主に言われた。祖母は、憤慨して帰ってきた。もうあたしゃあそこへは行かないよ。オープン当初こそ客は入っていたと思う。だけれどいつの間にか、そのラーメン屋はなくなっていた。

私が実家を出た後、久しぶりに帰省すると、そこは貸衣装屋になっていた。正確には、倉庫だった。人の出入りは見たことがない。“レンタル衣装”という文字とともに、明るくカラフルな着物やドレスの看板がいやに目立っていた。

そして気がつけば、貸衣装屋は消えていた。建物はずっとそこにある。学習塾→ラーメン屋→貸衣装屋、と、同じ建物を使っているようだ。居抜きというやつだ。そして数年前、そこに新たな動きがあらわれた。何かしらの器材が運び込まれている。どうやらパン屋ができるらしい。えっ最高じゃないか。実家のすぐ近くにパン屋があるなんて。焼き立てパンのいい香りに包まれて、朝目覚めることができるのかしら。しかし、それから一年経っても、パン屋はできなかった。動きが止まっていた。運ばれてきたなにかしらの器材は、外に置かれ、大きなシートに包まれたまま。自宅付近では、100円ショップからピラティススタジオへ、バーガーショップから歯医者へ、ラーメン屋から別のラーメン屋へと、とても速いスピードで店舗の解体と建築が行われる。片田舎のパン屋よ、一体どうしたのだ。

結果、パン屋ではなかった。何かしらの器材をそこに運び、それらをどこかへ売る、という目的でその建物は使われているらしい。悪い言い方をすると、それって、転売ヤーのアジトということですか。外国の方が働いているという情報もある。貿易のための、一時的な倉庫になっているのかもしれない。悪の組織が潜むには目立ちすぎる場所だし、クリーンなビジネスを展開していると信じたい。

商売をするのがいかに難しいかということを、このトライアングルに建つ建物が教えてくれている。トライアングルの正面にはコンビニがあり、このコンビニは20年以上、問題なくそこに建ち続けている。立地がよくない、という理由ではないなにかが、そのトライアングルにはあるのかもしれない。実家の近所にパン屋ができる夢物語、一瞬だったけど、楽しかったな。


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