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もっこすラーメン

2022 10/5(水)

神戸の実家に帰って来ている。
せっかくだから、観光旅行でもしようと思った。
有馬温泉、北野異人館街、南京町中華街、ハーバーランド、神戸ポートタワー。
だが、行きたい所は子供の頃から何度も訪れた場所ばかりだ。
新しいスポットはないものかと、インターネットで調べてみるが、引っかかるのは新しく出来た飲食店ばかりである。
そうなると、昔からある神戸のうまい食べ物屋を巡った方がよいかと思って営業時間などを調べてみたら、好きだった店はコロナの影響なのか、ことごとく潰れていた。
そんな中で「もっこすラーメン」だけは現役バリバリで営業中だった。
もっこすラーメンは神戸にいくつか店舗があるが、神戸市営地下鉄の大倉山にある本店が馴染み深い。俺がここのラーメンを食べたのは、実は大人になってからだった。
子供の頃から知っていたのだが、友達の誰かが
「ホンマの名前は、もっこりラーメンやで」
とふざけていたのを、真剣に受け止め、入るのは恥ずかしいと思っていた。
一度でも食べてしまえば、あいつ、もっこりラーメンに行ったらしい、といじめられるのではないかと思って食べることがなかった。
そのうち、大人になった俺は大阪、京都、東京に
引っ越し、もっこすラーメンの存在をすっかり忘れてしまっていた。
だが、三十代の終わり頃、神戸に帰省した時に
久しぶりに、大倉山で看板を目にした。
大人になった俺は、今なら、入っても誰にもいじめられないだろう、と威風堂々、もっこすラーメンに
入店した。
「いらっしゃいませ!」
さすが、もっこり、いや、もっこすラーメンだ、
威勢がいい。
子供の頃の思い込みが抜けない中、生まれて初めてのもっこすラーメンを食べた。
豚骨醤油のスープに薄めのチャーシューが沢山、
唐辛子の絡んだネギと、ニンニクチップは入れ放題。パンチがあって白い飯に合いそうな最高のビジュアルだった。迷わず、追加でライスを注文した。
そして、一口食べた瞬間に、旨味の快楽が全身を駆け巡った。
チャーシューで白い飯を包み、口に入れたらすぐに豚骨醤油のスープで追いかける。
唐辛子の絡んだネギがチャーシューと白い飯の間に入り込み、ニンニクチップが、ふりかけのように全体にまぶさる。
うまい。どうしてもっと早く食べなかったのだろう。これを子供の頃から食べていれば、俺はきっと立派な大人になっていただろう。
それ以来、コロナ禍もあって足が遠のいていたが、
神戸に帰省している今、久しぶりに行ってみることにした。
神戸市営地下鉄の大倉山、東出口1を出て徒歩0秒、
いきなり「もっこすラーメン」という赤い看板が
現れる。
「いらっしゃいませ!」
相変わらず、威勢がいい。
店内に入ったのは、とうにランチのピークを過ぎた頃だったが、常連風のお客さん、怪しいラーメンマニアのような風貌のおじさん、観光旅行に来た若いカップルなどでにぎわっていた。
俺は、もちろんラーメンとライスを頼んだ。
まもなく、全身にうまみの快楽が駆け巡ることを想像しただけで、よだれが出そうになった。

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