家賃大作戦～銀行強盗　

2023 1/17(火)
 
しばらく日記が滞っている。
こういう時は、昔、書いた文章を掲載するのがいいだろう。
ネットには載せていたものの、５人くらいしか読んでなかったエッセイである。
今回は、２０１４年に書かれたものだ。

家賃大作戦　２０１４・８

１１７０００円必要である。
１１７０００円、３月３１日までに必要である。
「１１７０００円の家賃滞納分を払って頂けない場合、不動産屋を入れ、善後策を検討しますのでご了承下さい」
本日、そのような手紙が、オーヤサンと名乗る老女から届いた。
俺は、たった二行の文面を何度も読み返した。
何度も読み返したが、全く何を言っているのか分からなかった。
家賃を滞納しているのは事実だが、いささか大げさすぎやしないか。
これでは、完全に脅迫状である。
今月末までに、１１７０００円？
先日の作家業で支払われる予定のギャラとバイト代を足しても７００００円もない。
しかも、そこから、日々の食費、交通費が消えていく訳で、今月末の時点で、手元には５００００円も残っていないだろう。
そして今、部屋があまりにも寒いので、炬燵の電源を入れた。
この分の電気代を引いてもますます無理であろう。
何かとんでもない臨時収入がひょんな事からやって来ない限りは払えない。
オーヤサンとフドーサンヤの議論の末、このままだと、ホームレスになってしまう可能性もありうるではないか。
これは、まずい。一刻も早く１１７０００円の入手方法を考えるべく、思いつく限りの、ありとあらゆる金儲けの手段を模索した。
模索した所、まず、最初に思い浮かんだのが、執筆業、パフォーマンス業での収入である。
これは最も現実的ではあるが、この時点で仕事の依頼がないという事は、既に、非現実的である。
次に、日払いのアルバイトに登録して行く。
これも現実的である。現実的ではあるが、日払いバイトというのは、派遣会社からかなり搾取される為、実際支払われる金額は、納得のいかない場合が多い。
今月末までに１１７０００円を手に入れるのは、極めて困難である。
今、突然、俺の目の前に現れて、
「おう！１１７０００円あげるよ」
という金持ちの方や、
「１１７０００円、とりあえず立て替えておくよ」
という余裕のある方や、
「１１７０００円、あたしのヒモになりな」
という風俗嬢の方など、当然、出会う訳がない。
しからば、確実に手に入れる方法はなんなのであろうか。
俺は残っていた安酒を呑みながら、酔いが回ってきた頃に、やっと解決策を思いついた。
１１７０００円、手に入れるには、もう、あれしかない。
「そうだ、銀行強盗しよう！」
１１７０００円所か、１１７０００００円くらいは手に入る。
この先の家賃も前払い出来る。
なんと素晴らしい。早速、明日にでも実行しよう。
酔いが回る中、１００均の帽子とマスクで完全武装した俺が、三井住友銀行、練馬支店に襲撃をかけているシミュレーションをしてみた。
してみたのだが、武器がない。
これはまずい。何か銃のような武器がないと、屈強なガードマンに取り押さえられてしまう。
何か用意せねばと部屋を見渡したが、銃のような武器に近いものは、ノック式ボールペンくらいであり、どう考えてもこれでは脅せない。
ならば、包丁はどうかと思ったが、本当に危ないので使うのが怖い。
出来れば怪我人は出したくないし、俺自身、危険な刃物は持ちたくない、
してみると、安全で人を脅かす武器は一体なんなのだろうと、さらに安酒をあおりながら考えた結果、最強の武器を思いついた。
「屁」である。
いきなり、銀行の窓口で屁を放てば、威嚇効果は抜群なのではないのか。
銀行員が慌てふためく屁の煙の中、１１７０００円を強奪。
屁の煙で、俺の顔も見えない。
これは、完全犯罪である。
絶対に１１７０００円を手に入れられる。
完璧な作戦を思いついた俺は、急に気分が良くなって、うどんでも食べて、今日は寝ることにした。
明日は、生まれて初めての銀行強盗だ。
うどんを食べながら、ふと、明日のバイトが１７時までだから、窓口のシャッターは閉まっていることに気付いた。
その次の日もバイトがあるし、原稿も書かねばいけないし、色々と用事もあるから、銀行強盗は出来ない。ちゃんと、１１７０００円、工面するしかなさそうだ。
結局、どうやって？
それは明日、考えることにしよう。
不思議な事に、なんとかなるという自信だけは、
なんとかある。

以上が、２０１４年のエッセイである。
この続きもあるので、次回載せます。