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【詩】 黒門市場



 車道脇から通りへ入った『キリン堂』に
 流れている七十年代フォークソング
 「愛はかげろう」が 喧騒を抜けて来た私の躯に
 気だるく浸透する

 日本橋駅十番出口を出ると降りしきる蝉時雨
 十五年ぶりになるだろうか 訪れた大阪の台所
 押し寄せて来たのは驚くほどの東南アジア系の外国語ばかり

 食べ歩きの観光客目当てな 商品の陳列
 店頭に設けられている長机と簡易チェアーで
 ビールの空き缶や汚れたプラ容器が無造作に
 置かれたままの十一時前
 通りは一歩ごと ただよう匂いが変わり

 店員さんの呼び声もパフォーマンス
 鮮魚売場では その売り方の豪快さがまさに「お祭り」

 個人営業店が軒連ねると ふいに現れる
 お洒落な和菓子屋
 北海道物産店や高級珈琲生豆専門店
 肉屋の店先ではホットプレートでホルモンが煮立って
 その近くには真珠のネックレスやオーストリッチの長財布
 進み行けば 風格ある老舗鰹節店が目を引いて
 店舗の並びに まるで感じられない統一性

 散策する家族連れの子供たちが はしゃぐ姿も
 てんやわんやで
 昔より ずっと増していた迫力と活気

 アーケードに吊るされる「黒門」の巨大ちょうちん
 自転車が数台駐輪される道路脇には
 時代の止まっているかの様な
 暮らしの落ち着きがあって

 変わりゆくものと変わらぬものを見詰める
 そこに佇み 私はiPadの写真で二度、
 シャッターを切った

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