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  • シロクマ読書感想文

    読書感想文ををまとめたものです。

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シロクマ読書感想文番外編① ロバート・エガース監督『ライトハウス』

『永遠の門 ゴッホの見た未来』でゴッホを演じたウィレム・デフォーと『TENET』での活躍が記憶に新しいロバート・パティンソンが出ている白黒映画、という認識だけで観に行ったせいで、ガツンとパンチを食らってしまった。今後の感染対策がどうなるか不明な情勢のため、できれば映画館が開いている内に観てほしい。 【注意】 以下ネタバレを含みます。 ネタバレを避けたい方は、映画を観た後にお読みください。 ライトハウスは簡単に言えば灯台に閉じ込められた二人の男が狂っていく話だ。 映画はベ

    • シロクマ読書感想文⑥ 神坂次郎、福富太郎、河田明久、丹尾安典「画家たちの『戦争』」新潮社

       藤田嗣治の《アッツ島玉砕》が表紙に使われた本書は、「芸術新潮」1995年8月号「戦後50年記念大特集 カンヴァスが証す画家たちの『戦争』」の「戦争画(戦争記録画)」にかかわる部分を再編集、増補したものとのことである。  藤田嗣治、小早川秋聲、中村研一、鶴田吾郎、宮本三郎など、いわゆる「戦争画」を描いた作家をそれぞれ解説する、編集部による部分と、著者4名の論考で構成されている。  河田明久の論考は、戦時の画家たちの動向を国内の美術状況から解説した充実したものである。日中戦

      • シロクマ読書感想文⑤ 高田直樹「なんで山登るねん」河出書房新社

        1970年代に大学山岳部で活動し、その後海外遠征隊にも参加している著者の「自伝的登山論」である。 「なんで山登るねん」という強烈なタイトルではあるが、山に登る人は大体その理由を考える前に登っているように思う。 するすると引き込まれるような口語体で綴られる登山録は、一週間以上山に滞在することが前提で、かまくら生活や岩登りや釣りなど、山に登って何をするか、その目的は様々だ。登山道の整備や登山道具の軽量化、携行食糧の進化が進み、大人数で荷上げをしながら登るスタイルが主流ではなく

        • シロクマ読書感想文④ 梨木香歩「ヤービの深い秋」小沢さかえ画、福音館書店

           どこかの湖水地方にあるマッドガイド・ウォーターという三日月湖の周辺に棲む小さな生き物、「ヤービ」たちの物語の第2巻である。  ヤービは、人間の手のひらに収まるほどの大きさで、顔と手足以外にはふさふさと毛が生え、しっぽもあるし鼻先も尖っていて人間とはまるで違う生き物だが、独自の文化と生業を持って暮らす一族の一人だ。  1巻では、マッドガイド・ウォーターの近くにあるサニークリフ・フリースクールに務める人間のウタドリ先生(これは愛称。彼女と付き合いの長い鳥の名前から来ている。

        シロクマ読書感想文番外編① ロバート・エガース監督『ライトハウス』

        • シロクマ読書感想文⑥ 神坂次郎、福富太郎、河田明久、丹尾安典「画家たちの『戦争』」新潮社

        • シロクマ読書感想文⑤ 高田直樹「なんで山登るねん」河出書房新社

        • シロクマ読書感想文④ 梨木香歩「ヤービの深い秋」小沢さかえ画、福音館書店

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          7本

        記事

          シロクマ読書感想文③ ジョゼフ・チャプスキ「収容所のプルースト」(岩津航訳)、共和国

          ソ連とナチスによるポーランド侵攻によって強制収容所に連行された著者が、零下40度を下回る極寒の収容所で行ったプルーストについての講義が口述筆記されたものが本書である。 著者の手元には一冊の本もない。しかし、収容所で行われたプルーストの「失われた時を求めて」についての講義は、読んでいるだけで目の前で物語が再生されそうなほど詳細なものである。『見出された時』について言及する場面では、プルーストほど鋭敏な感覚を持っていなくても、紅茶とマドレーヌの香りを感じてしまうほどに言葉が迫っ

          シロクマ読書感想文③ ジョゼフ・チャプスキ「収容所のプルースト」(岩津航訳)、共和国

          シロクマ読書感想文② 島袋全優「腸よ鼻よ 03」KADOKAWA

          難病である潰瘍性大腸炎と診断された漫画家、島袋全優先生の闘病記なのだが、こんなに笑っていいのか?と申し訳なくなるくらい面白い。 最新3巻(2020/6/30発売)では、晴れて「漫画家様」になられた島袋先生が、連載と病状の間で板挟みになりながらも、漫画家として着実に経験を積まれていく様子が描かれている。入院中のエピソードももちろん面白いが、卒業制作としておっさん乙女ゲームを作ったり、筋肉のために菌の巣窟東京に再び降り立ったりといったハチャメチャなエピソードには声を上げて笑って

          シロクマ読書感想文② 島袋全優「腸よ鼻よ 03」KADOKAWA

          シロクマ読書感想文①アントニオ・タブッキ「インド夜想曲」(須賀敦子訳)

          失踪した親友を探すためにインドを訪れた男が過ごす12の夜の物語が並ぶ。 「はじめに」に記された通り、ガイドブックとしての役割も果たせそうな、細かいホテルの描写が、コロナ禍にあって難しくなってしまった旅の感覚をリアルに思い出させる。 男は病院や神智学教会など様々な場所を訪れるが、夜行バスの停留所で出会った少年と「占い師」の言葉から、ぐっと真相に近づいていく。 旅費が尽きる最後の夜には、インドの混沌の中に溶けていくような、ぞわっとする仕掛けが施されている。 実際旅をした記憶といっ

          シロクマ読書感想文①アントニオ・タブッキ「インド夜想曲」(須賀敦子訳)