シロクマ読書感想文番外編① ロバート・エガース監督『ライトハウス』

『永遠の門 ゴッホの見た未来』でゴッホを演じたウィレム・デフォーと『TENET』での活躍が記憶に新しいロバート・パティンソンが出ている白黒映画、という認識だけで観に行ったせいで、ガツンとパンチを食らってしまった。今後の感染対策がどうなるか不明な情勢のため、できれば映画館が開いている内に観てほしい。


【注意】
以下ネタバレを含みます。
ネタバレを避けたい方は、映画を観た後にお読みください。



ライトハウスは簡単に言えば灯台に閉じ込められた二人の男が狂っていく話だ。


映画はベテラン灯台守のトーマス(デフォー)と新人のイーフレイム(パティンソン)が船に乗って孤島の灯台に到着するシーンから始まる。
冒頭はとにかく霧笛の音がうるさい。そこまで長く続くわけではないが、敏感な方は気を付けたほうがいいかもしれない。もう一つ音に関して付け足すと、劇中ではたびたびトーマスの屁の音が響きわたる。これだけでどんな役柄かわかるのではないだろうか。

イーフレイムは愚直に仕事をこなしているように見えるが、トーマスは何かと𠮟りつけては仕事を押し付ける。灯台の光、人魚、カモメ、触手のある怪物など、不穏な要素が張り巡らされ、つなぎ合わされ、物語が転がっていく。
灯台で過ごすのは4週間だったはずだが、当然のように凶暴な嵐がやってきて、二人は孤島に閉じ込められる。ここからの二人の俳優の演技は本当に凄まじい。抱き合って踊ったかと思えば殴り合い、怒鳴り散らしたかと思えば笑いあう。いつ船が来るかもわからず、食糧も酒も底を尽き、最後には燃料を飲んでいた。
狂乱の果てに訪れるラストシーンは正直、これまでの重厚さに比べるとあっさりと感じられたが、どれだけ苛烈な嵐でも、過ぎ去るときはあっけないものだと思えば納得できる。

映画の舞台となる灯台も灯台守の宿舎もすべて、この映画のために作られたセットだったという。そこで行われた撮影は地獄のように過酷なものだったそうで、パティンソンはインタビューで、雨の中、岩場を走っていくシーンは「人生の中で、最も恐ろしいことの一つだった」(※1)と答えている。
上記インタビューやロバート・エガース監督とアリ・アスター監督の対談や、伊藤潤二が映画の冒頭を描いた漫画が掲載されたパンフレットもおすすめしたい。
1.19:1というほぼ正方形のアスペクト比の画面には、しばしば俳優の顔が大写しにされる。伊藤潤二の漫画には、白黒で大写しにされた「顔」がそのままに描写されており、また違った記録として楽しめる。

監督であるロバート・エガースは『ライトハウス』をどう説明するか、と問われた時、必ず「巨大な男根(Phallus)の中に男が二人きりで囚われたとき、ろくなことは起こらない」(※2)と答えているそうだ。いやー全くその通りですね、としか言いようがないくらいこの映画を簡潔に表していると思う。

気楽に観るにはあまりおすすめできないが、狂っていくデフォーとパティンソンの凄まじい演技、特に強烈な印象を残す「顔」はぜひ劇場で観てほしい。


参考文献
トランスフォーマー編『ライトハウス』パンフレット、2021年。

※1 パンフレットpp.17
※2 同pp.41

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