見出し画像

出雲大社の神在祭に行った話

旧暦 10 月、八百万の神々が出雲に集結し神議り(かむはかり)と呼ばれる会議を行う。神様が不在となることから旧暦 10 月は神無月と呼ばれるわけだが、逆に神々をお迎えする出雲では神在月となる。

神議りは7日間にもわたり、人々の縁などについて話し合われる。これにあわせて出雲大社では神在祭が開催され、様々な神事が執り行われる。今回はこの神在祭のタイミングで出雲大社に参拝してみた話。


なぜ出雲へ?

実は元々は出雲大社を目的地として旅程を組んだわけではない。ちょうど岡山の方へ行く用事があり、「ついでにどこかへ寄ってから東京へ帰ろう」と思っていたところピッタリ神在祭と重なった……という背景だ。「いやいや、出雲なんて東京と逆方向じゃん。ばかなの?」と思うかもしれないが、出雲には出雲縁結び空港という空港があり JAL が羽田便を就航させている。飛行機使うならどこから飛んでも大差ないので問題なしというわけだ。

また、当時は外部の大学院へ進学することを決心しており、翌年夏の院試に向けて準備を進めている段階だった。神在祭に合わせて合格祈願に行き、八百万の神パワーにあやかりたいという思いがあった。縁結びというと人と人の縁を願うのが一般的だろうが、合格祈願とか就職祈願とかでも全然問題ないだろう。

いざ出発

そんなわけでさっそく岡山からスタート。岡山の観光もしたいところだったが、時間的に余裕がなく岡山城を下から眺める程度で終わり。

また、路面電車の乗り鉄も今回は見送り。まあまた機会があれば観光に来ればよいだろう。

特急やくもに乗車

鉄道で出雲へ行く場合、新幹線で岡山まで行って特急やくもに乗り換えるのが一般的なルートだろう。やくもは伯備線(倉敷~米子)を経由して岡山から出雲までを結ぶ特急で、国鉄型特急車の 381 系によって長年運行されてきた……が、先月から新型特急の導入が始まっており6月には定期運転を終了するらしい。乗り納めしておきたい人は急げ!

というわけで岡山駅。時間ギリギリで私がホームに降り立ったのとほぼ同時に入線してきた。咄嗟に撮ったので画角など何も工夫されていないが気にしてはいけない。

神在祭の関係で普段よりも利用客が多いのか、かなり雑な形で増結されていた。今回は7両編成での運行になっていたが、さらに繁忙期になると9両になることもあるらしい。

乗車1週間前にシートマップを見るとそこそこ埋まっていたため「これはいかん!」と急いで指定席を取ったのだが、始発駅から乗車するんだから自由席でも良かったなあ。

ちなみに連結部を中から見るとこんな感じ。

ところでやくもの特徴として「めちゃくちゃ揺れる」というのがよく挙げられるが、実際お手洗いに行くのも一苦労なレベルでぐわんぐわん揺れていたし、車内放送でも「揺れにお気をつけください!」と繰り返しアナウンスされていた。

やくもがよく揺れるのは、381 系が自然振り子方式を採用していることに起因する。振り子式というのはカーブに差し掛かると車体を内側へ傾斜させ、遠心力の影響を和らげることで通過速度と乗り心地を向上させる仕組みだ。で、日本初の振り子式車両である 381 系はカーブ進入時にはたらく遠心力を利用して車体を傾斜させる仕組みを採用したが、これが悪さをしている。

というのも、カーブに進入するのと車体傾斜が始まるのに若干のラグがある上、カーブが終わってからも戻るのに若干時間がかかる。この微妙なラグが乗り心地の悪さにつながっているわけだ。ただ、直線区間でも不自然に揺れている感覚があったので、もしかしたらこれ以外にも何か原因があるのかもしれない。

ちなみに 381 系以降に開発された車両では上記の問題を解決するため、地上データをあらかじめ記録して適切なタイミングで車体傾斜を行う制御付き自然振り子方式が採用されている。やくもの新型車両もこの方式であるため、今後は「やくもで吐くも」な事態にはならないだろう。近年では空気ばねを利用して傾斜させる空気ばね車体傾斜方式も開発されており、N700 系などで採用されている。

そんなわけで右へ左へ揺られながら山岳地帯を抜けて米子に到着。ここからは山陰本線に合流して島根県に入る。今回の旅では鳥取県を華麗にスルー

道中、なにやら RPG の終盤にならないと上陸できなさそうな島を見つけた。手間天神社という神社らしい。

出雲大社へ

そんなこんなで終点の出雲市駅に到着。ただしここから出雲大社はけっこう離れており、鉄道かバスで 30 分ほど移動する必要がある。

というわけで一畑電車(畑電)の「縁結びパーフェクトチケット」という3日間のフリーきっぷを購入。電車全区間に加えて一畑バス・松江市営バス・空港連絡バスも乗れるかなり大盤振る舞いな切符だ。(大盤振る舞いすぎたのか現在は販売終了となっている

岡山からずっと曇り空だったが、このあたりから少しずつ晴れ間が広がってきた。

大社に続く道はけっこう交通量が多かった。「The 観光地」なエリアは非常に狭く、周辺も普通の住宅地が広がっている感じだ。

参拝

さっそく参拝開始……の前に、まずは稲佐の浜へ。日本神話の舞台であり、八百万の神々もここで上陸して出雲大社に向かわれるらしい。

弁天島に参拝してから浜の砂を採取。小瓶など持ってこなかったため、普通にビニール袋を二重にして持ち歩くことに。

で、再び出雲大社。勢溜の鳥居から入っていく。

ちなみに、弁天島も含め出雲大社では一般的な二礼二拍手一礼ではなく二礼四拍手一礼となる。

参道の途中にはウサギの像がたくさん。「因幡の白兎」関連だろうか。日本神話は有名どころしか知らないニワカだからこれ以上はわからん……理系だからと古典を疎かにするんじゃなかったなあ。

誰か松ぼっくり置いていったな。

ああ~やっぱり因幡の白兎だった。大国主大神と助けられたうさぎの像があった。

で、まずは拝殿に参拝。本殿は奥にあるが立ち入れない。

ちなみに出雲大社と言えば大しめ縄が有名だが、拝殿のしめ縄とは異なるため注意が必要だ。

付近の地面には赤い丸が3つセットでいくつも描かれているが、これは発掘調査で出土した柱の位置を示している。これらの柱はかつての本殿を支えていたと考えられており、言い伝えではその高さは 48 m もあったらしい。木造でそんなに高く作れるものなのだろうか。

境内の東西には十九社と呼ばれる社があり、出雲に集結した神々の宿所となっている。流れでいくつかお詣りしたが、神様的には会議に来たのに礼拝されるのってどうなんだろう?と思ってしまった。日本の神様は心が広いから問題ないということなのだろうか。

で、ぐるっと裏の方まで回ると素鵞社(そがのやしろ)に到着。ここにはスサノオノミコトが祀られている。

社の軒下には砂箱が設置されており、稲佐の浜で採取した砂を奉納し代わりに素鵞社の砂をいただく流れになる。

また、裏手には八雲山の岩肌がせり出している。八雲山は御神体として禁足地になっているため、岩肌に直接触れることのできる唯一の場所としてパワースポットになっているらしい。

ちなみに素鵞社など十九社より北側の参拝は 16:30 までとなっているため注意したい。私は宿のチェックインやら稲佐の浜までの往復でぶらぶら寄り道していたこともあり、かなりギリギリの時間になってしまった。

最後に本殿の西側から礼拝し、境内のお詣りは終了。実は大国主大神は入口方向の南ではなく西側を向いているため、西側のちまっとした遥拝所が正面になる。

神楽殿にも寄っていき、大しめ縄を拝む。長さは 13.6m もあるらしく、正直デカすぎて距離感がバグる

出雲観光

その後はぶらぶらと周辺を観光……といっても私の場合は鉄分補給がメインである。出雲大社最寄りである畑電の大社前駅はメルヘンな見た目をしていた。

左に留置されているやたら古い車両は扉が開放されており、自由に出入りできる状態にあった。畑電を舞台にした映画「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」では本線上を元気に走っていたが、もう営業運転につくことはないようだ。

現在畑電で営業についているのは「まさに地方私鉄!」という感じの雑多な車種ばかりだが、しまねっこ号というラッピングされた面白い車両も走っていた。

車内にはしまねっこが鎮座しているという。ラッシュ時は邪魔にならないのかな。

畑電の中でも川跡駅は大社方面・出雲市方面・松江方面の列車が接続するジャンクションとなっており、無駄のない接続が行われている。ちょうど高校生の帰宅ラッシュに重なったため到着時はわちゃわちゃしていたが、駅周辺は特に何もなく列車が発車すると静寂に包まれた。

で、夕食時となったためテキトーに Google マップでヒットしたレストランに行ってみることに。川跡駅から徒歩 10 分程度の「しっとりつるつる北山温泉」に併設されているレストランだ。

メニューを撮り損ねたため何を注文したのか忘れたが、出てきたのがこちらの定食。旅館の夕食などで出てくるようなありがちな見た目をしているが、これがびっくりするほど美味しかった

正直なところ私は食事にあまり関心がなく、郷土料理などを口にしても「立体的な味がする~!」などとさもわかったかのような何の意味もない食レポしかできないため、普段の旅行記では食事に関してノータッチである。が、今回はあまりにも美味しかったので例外ケース。

ただ、「具体的にどこが良かったの?」と聞かれるとなんとも言えない……食レポに関して圧倒的にボキャ貧。でもとにかく美味しかったのでぜひ行ってみてほしい。

ちなみに温泉の方もそこそこ評判が良いらしい。ただ私は温泉に浸かるとぐったりしてしまう体質のため、残念ながらスルー。宿に併設されて寝る直前に入るような流れじゃないと厳しいんだよな。

続いて旧大社駅へ。廃線となった大社線の終着駅で、駅舎は国の重要文化財に指定されている。

到着が夜で何も見えなかったため、翌日の早朝にもう一回訪れた。かつては参拝者用の団体列車や急行列車が乗り入れていたということで、ホームはかなり広々としている。

ただ、出雲大社からはだいぶ離れておりかなり不便。入口まで直通するバスに客が流れた結果廃線になるというのも頷ける。

ちなみに、現在は 2025 年末まで保存修理工事が行われている関係で見学できないため注意したい。

松江観光

翌日は畑電で松江の方まで足を伸ばす。道中、一畑口駅で謎のスイッチバックを行い、あとはひたすら宍道湖に沿って進む。

朝ラッシュの時間ということもあり、ロングシート車とクロスシート車を連結した4両での運行となっていた。

畑電の乗り潰し後はテキトーに松江市内をぶらぶら。フリーきっぷでバスに乗れるため、わりと遠くにもいける……のだが、今回は時間がないため徒歩圏内で済ませた。

宍道湖の景色めっちゃいいなあ。方角的に夕日もキレイだろうから、また機会があれば訪れたい。

時間がない中、松江城をチラ見する。

ちょうど高校生か中学生の団体客で賑わっていた。修学旅行か遠足のどちらかだろう。まあ修学旅行でわざわざ松江に来るというのはないだろうから、近隣学校の遠足かな。

その後は畑電の松江しんじ湖温泉駅に戻り、出雲空港行きのバスに乗車。畑電の駅と JR 松江駅はそれなりに距離があるため、バスは JR 駅でも客を拾ってから空港へ向かう。城に近いのは畑電の駅であるため、私鉄が旧市街で国鉄が新市街というよくあるパターンな気がする。

畑電は宍道湖の北を通るが、バスは JR と同じく南側。しかし前日の移動と合わせて宍道湖を1周半も回ってしまったな……。

道中、またしても上陸が困難そうな島を発見。

で、空港に到着。しまねっこに見送られながら搭乗口へ向かう。地方空港は保安から搭乗までが短くて大変ありがたい。

おわりに

というわけで出雲大社の神在祭に行った話だった。わりと早足で参拝・観光してしまったが、歴史ある町並み建築様式などにも気を配ってみると面白いかもしれない。また、今回スルーしてしまった鳥取や岡山などにも機会があれば行ってみたい。

……といったところで今回はここまで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?