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【第1回】見たことのない「星空」を想起することはできるか。【ゐ】半球のスター・ダスト(1420P)

「ねえ、君は星空を見たことがあるかい?」
「ほしぞら? ほしぞらってなんだい?」
 緑豆くんの記憶の始まりには、伏流水くんとのお話がありました。
「星空は、きらめきさ」
 伏流水くんは、緑豆くんの問いかけに、そう答えました。星空は、きらめき。
 真っ暗闇のなかで、星がまたたくのを懸命に想像しました。

家系ラーメンのトッピングとしての人生を全うする、もやしくんの一生を描く、今田ずんばあらず最高傑作の短篇。

初めましての方は初めまして。そうでない方も初めまして。今田ずんばあらずです。
『あめつち』語り、第1回目は
【ゐ】半球のスター・ダスト(1420P)です。

「半球のスター・ダスト」ってこんなお話

これを書きはじめたのは2018年11月26日、文字数約12144字の短篇です。
第四章「after/IRIE/SEEside」に収録されております。
あらすじは上記で述べたように、もやしくんが誕生し、出荷され、茹でられ、そして食されるまでの一生を描いたお話となっております。

しかしながら、もやしくんはただ食べられるのを待っているのではありません。
もやしくんがまだ「緑豆くん」だったころに、伏流水くんから聞いた「星空」の話があります。もやしくんは暗闇のなかで生まれ育ったので、光というものを知りません。それでも、伏流水くんの話は魅力的で、想像力の「星空」に心ときめかすのでした。

自分は「星空」を見るものなんだ……そう信じて疑わないもやしくんですが、しかし、運命は逃れられない。もやしくんがどれだけ夢想しようとも、家系ラーメンの具材として生を受けた以上、もやしくんは家系ラーメンの具材になる以外の道はないのです。

新作へのプレッシャーの末、これは生まれた。

第四章「after/IRIE/SEEside」作品を語るとき、おそらくほとんどの作品で触れるかもしれませんが、
「新人賞用原稿がなかなか思うように進まない」という悩みを秘めながら収録作を書いています。
2018年2月着想「パラサイト・ハリシュ(仮)」
2018年7月着想「ソフィア・リフレイン(仮)」
2018年10月着想「TWINKLE MAO(仮)」
他にもいくつかあるのですが、どれも途中で立ち往生して、今は執筆をストップさせています。

『イリエの情景』に続く新しい長篇小説。次はどんな作品を書きたいのか。
書きたい作品と書ける作品とのギャップ。遅筆な自分。作品を量産する友……。
そういったものに僕は勝手にプレッシャーを抱いて、書きたいものを書こうとしているのか、書かなきゃいけないから書いているのか、一体僕は……。

そんな具合に、僕は悶々としていたのでした。
かつてはそんなことなかったのですが、第四章での今田ずんばあらずは、長篇を書くには「諦観」の念に駆られなければ書けなくなっているのでした。
そして『半球のスター・ダスト』は、「諦観」の念に駆られて書いた短篇小説だったのです。

この作品は、もやしくんの一生を描きはするものの、僕自身の感覚では紛れもない私小説です。もやしくんは僕自身です。
そう、僕はここでもやしくんを書かざるを得なかったのです。

もやしくんは夢を抱きつつも、約束された「最期」は刻一刻と迫る。
ずんば作品のなかでも、指折りのシーンと名高い、ラストの展開は、ぜひとも書面で……!

余談:謎の言語、イエケイ語はこうしてできた。

ちなみに、本作で登場する「ヨコハマイエケイラーメン馬入家」にはモデルがありまして、神奈川県厚木市にある「厚木家」がそれです。
この厚木家、なんと家系総本山吉村家直系店でもあります。

この小説を書くにあたって、何度か取材をしました。作中で「イエケイ」が発する謎の言語(「ドーッシャシェー」「イオースクドーゾーオ!」など)は、店員の掛け声を録音したものをそのまま文字起こししております。

直系の豚骨鶏ガラ醤油のコク深いスープを堪能しながら、「イエケイ」の語らいに耳を傾けてみると、なかなか素敵なひと時を過ごせるかと思います。
超人気店なので待つこともしばしばですが、狙い目は平日の三時から四時です!

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1500ページで振り返る、ひとりのもの書きの生きざま。
『あめつちの言ノ葉』
BOOTHで入手可能ですので、気になる方はぜひ手に取ってその重量感を確かめてみてください……!!

(2022/06/25追記『あめつちの言ノ葉』完売しました!)

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