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手塚治虫が実践したエンゲージメント運営

今日Twitterで遭遇した投稿にまつわる話を共有しようと思います。ブランドの感動体験を作り出すのはスタッフの機転やアドリブではなくて、練り上げた運営だよね、という話です。

↑小2の娘さんがNINTENDO Switchの「どうぶつの森」の発売をいまかいまかと待ち望んでいるので、ツイ主さんが「そんなに待ち遠しいならその気持ちを絵にしてみたら?」と娘さんに伝えて絵を任天堂に送ったら、素敵な返信の手紙が届き、「…こりゃあ宝物だ」と娘さんがつぶやいたというお話。

思わず「任天堂さん、こどもの思いを大切にしてくれてありがとう」と、御礼を言いたくなるような感動を覚えました。覚めた視点から見れば、これもひとつのマーケティング活動です。けれど、あどけないファンの気持ちに、大人が真摯に応えてくれていることに心を揺さぶられます。

昭和の人気まんが家たちが実践していた

自分も小学生だった時に似た経験をしたのを思い出します。たしか小学3、4年生の頃、当時、「まんがの描き方」の書籍を読んで興奮し、著者である藤子不二雄先生(いま考えるとあれはA先生がメイン著者でした)に質問を添えたファンレターを藤子プロに送ったのです。ファンレターを送ったことすら忘れかけてた翌年の正月、なんと、藤子プロから年賀状が届き(ドラえもんをはじめとしたいろんなキャラクターが描かれた2色刷りの印刷だった記憶)、その片隅にスミのペン文字で、質問への回答が書かれていたのです。とびあがって喜び、感動して、その年賀状は「我が家の宝」扱いになりました。もしかすると今も実家の仏壇の引き出しに保存されているんじゃないかと思います。

そして、ずいぶん後になって「手塚治虫の薫陶を受けたまんが家たちはファンレターの返信をとても大切にし、できる限り実行していた」ということを知りました。

戦略を描いたのは手塚治虫

なんと、手塚先生がそうすることを推奨し、実践していたのです。

「まんが道」を読んだことがある人なら、手塚治虫先生と藤子A/F不二雄先生とが最初に出会ったキッカケがファンレターだったことや、手塚先生が返信の手紙にまんが原稿を貼り付けていたエピソードなども思い出されると思いますが、手塚先生はF氏・A氏だけでなく、いろんなファンに対してそれを実践していたそうです。

↓ 超に超が付くような売れっ子漫画家である手塚先生の想像を絶する忙しさの中でこれをやられていたのは壮絶としか言いようがない。

手塚先生は「どんなに忙しくても、ファンレターには返信するように」と自分を慕う漫画家たちに伝えていたそうで、実際にどれくらいのまんが家が実践していたかは定かではないのですが、藤子不二雄先生は実践されていましたし、矢口高雄先生もは伝説的実践者として有名です(書籍などでも語られています)。

「ファンの思いには真摯に向き合ってください」という手塚先生の教えが巡り巡って、当時のこどもたちに「まんが=おもしろい」という体験にプラスして「ファンレター=特別なサプライズ体験」という特別な体験提供がされ、それがまんがへの特別な愛着を育てていたと思うのです。わたし自身がその体験者であり、その後のまんがへの傾倒は常軌を逸するものになりました(笑)。手塚治虫の戦略は50年後にロイヤルティ戦略・CX戦略と名前がつくほどのものだった、とも言えます

感動をつくる「しくみ」

任天堂の話に戻ります。

外側から詳細はわかりませんが、きっと任天堂にはこうしたファンからの声に向き合う部署があり、担当がいて、世界中の人々からいろんなファンレターが届くのでしょう。

そしてその部署には「ファンに真摯に向き合う」という方針だけでなく、具体的な運用マニュアル・・・たとえば「届いたファンレターには○日以内に返信する」といった具体的なプロセスが規程されていて、粛々と運営されているのではないか、と想像します。

送って返事が来るまで一週間も経ってない。信頼関係ってこうやって作っていくんだろうなというお手本のような対応でした。」
(上のTwitterスレッドより)

ファンはに対する練られた準備とスムーズな運営によって、受け手(上のTwitter主娘さん)にとって「あつ森」は、単なる楽しいゲームではない、特別な体験とセットで忘れられない感動&宝物の体験になったのではないでしょうか。

今回の小学生はもしかして「大人が集う会社というところには、小学生のわたしに対してもきちんとまっすぐ向き合ってくれる大人がいる場所なんだ」という実感を得たかもしれません。わたしが藤子プロからの年賀ハガキを受け取った時も、それに似た感動もあった気がするのです。

「自分は(家族や親戚以外の)大人や社会に歓迎されるんだ」

という、自己肯定感を持つ機会にもなり得ると思うのです。「しくみ」化されたマーケティング活動のひとつであったとしても、ファンに喜びと社会的安心を与える活動にまでなっている。すばらしい活動です。


感動をつくるのは「手順」

経営者が「顧客の感動」について語る時、スキルや機転など従業員の属人的なパフォーマンスや企業規模を必要条件として認識している? と思わせるような発言を聞くことがあります。

「うちのスタッフは、基本的な所作ができていないから感動なんてまだまだ先」
「お客様に感動を与えるようなこと考えられるような規模ではないので」

むしろ、顧客の感動創造を実践している企業は、顧客との接点を細かく点検して、どこで期待値以上のものを提供すれば顧客が感動するのか、プロセスをしっかりと練って「手順」の中に折り込んでいるように見えます。属人的なものに頼らず、ただただふつうに運営すれば感動してもらえるツボを押さえて、けれどそこを真摯に突き詰めているのです。もちろん、企業規模なんかとは無関係に。手塚先生がすべての漫画家たちに「ファンレターには返信しなさい」と伝えたように。


顧客のハートをぎゅっと掴む「練り込まれた感動体験」をする企業が増えたら、社会はもっともっと安心できる場所になりそうです。

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