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【エッセイ】バイト先にいた、お局さん

学生時代に長期・短期を含めて
10種類近くバイトをした。
職場の人たちは
みんないい人たちだったが、
唯一、1人だけお局さんがいた。

消えきれない若干の恨みもこめて
今日は彼女のことを
回顧したいと思う。

①定食屋バイトの大変さ

今から10年以上前の話になる。
私は大手チェーンの飲食店で
バイトをしていた。
非常に人気で忙しい定食屋だった。

定食屋のアルバイトの難しさは
いくつかある。

ホールの仕事で言えば
皿が多いことがリスクだ。

どのメニューにどのおかずが、
どの皿や小鉢が使われて、
どこに配置されるか。

しかもおぼんは大きい。
運びにくい。
皿をたくさんのせているので
落とした時は割れ物被害が大きい。

入店当初は大変だし
慣れても運ぶのには気をつかう。


おかずができるタイミングで
ご飯と汁物をよそうことも
非常に重要だ。


このキッチンとホールをつなぐ仕切り屋は誰にでもできる仕事ではなかった。

次から次に上がるおかずを
おぼんのうえに並べて
ご飯をよそって汁物をつけて
オーダー順に出す。

これは優秀な数名のバイトと
このお局さんしかできなかった。

素人がやると完全に
キッチンがパンクするのだ。


②絶対避けられないお局さん

ホールにいてもキッチンにいても
この仕切り屋を担当するお局さんは
避けることができない。
これがこの店の恐怖だった。

お局さんは仕事に厳しい人だった。
仕事は確かに完璧なのだ。
定食を2つ笑顔で落とさず運べる。当然、配膳も完璧だ。


だから新人はものすごく怒られる。
普通に仕事できているではダメで、
お客様への気遣いサービス含めて
百点じゃないと怒られた。


怒鳴って怒るタイプなので
だんだんみんな萎縮して
避けるように動く。
そうするとミスが出る。
怒られるの悪循環だ。


なぜなら職場は
仕切り屋を中心に回っている。

キッチンでも皿洗いの場でも、
彼女は怒鳴り込める。

ホールであればその人の動きは
全て一段高い場所にある
仕切り屋の指定席で
観察されている。

「ちょっと来なさい」と呼び出され
ダメ出し注意、指導を受ける。


いやー…いま考えても
昭和スタイルで恐ろしい。笑


こんな調子なので
せっかくバイトが入っても
みんなすぐ辞める。


この職場は常に求人が
ずーっと出ている状況だった。


③私も辞めることにした

私も一年近くは働いたが
なにかプライベートなことで
余計な口を挟まれてイラッとして
辞めることにした。


ちなみにお局は社員ではない。
ただの40代のパートさんだ。


辞める時は店長に言えばいいのだ。
別にお局の許可は要らないのだ。


記憶が朧げだがちょうど店長が
人事異動で変わったばかりだった。

正直にあの人が限界で辞めたい
と伝えると

就任したばかりの新店長は
従業員名簿に要注意人物として
彼女はメモされていると漏らした。

やはりお局のせいで
バイトが辞めていくので
会社側はちゃんとマークしてたのだ。


こうして私は彼女に別れも告げず
速やかに退社した。


これで終わったと思うでしょ?

なんと私は新しいバイト先で
彼女と再会する機会があった。


④威張り散らす人は、可哀想な人

私の新しいバイト先は
家の近くのドラッグストアだった。

そこで半年ほど勤めたときに
なんとお局が来店したのだ。


久しぶり、元気?!
体調悪くて辞めたって聞いて…


とか言って
彼女は私との再会を喜んでいた。


私は笑顔で大人の対応をしつつ、心の中で「お前がいないから毎日ハッピーに決まってんだろ」と思っていた。


あと少しでそれが口に出そうだったが
一応、成人してる人間として謹んだ。


さらに一年もすると
もっと衝撃的なニュースを聞いた。


なんと海外帰りの強い新人さんが
お局を辞めさせてしまった
というのだ。

「何かあればなんでもあたいに言いな」的なことをお局に言われたらしい、その新人さん(アラサーだったと聞く)は、

「なら言いますけどぉぉ(にっこり)」


と、お局の振る舞いをコテンパンに
否定してのけたらしい。

これは間接的なキッカケ
だったのかもしれないが、
前述した通り、お局はそもそも
ブラックリストに入っていた。

詳細は知らないが
「辞めさせられた」らしい。


ちなみに実は、
前の職場でも同じようなことをして
辞めさせられていたそうだ。


それにもかかわらず
同じことを繰り返しているとは…。



これはスカッと話にも
見えるかもしれないが、
私はこのお局さんには
哀れみの目を向けしまう。


彼女の過去の話もそうだが
私が不思議に思うことがあった。

今でも記憶してるのだが、
彼女の休みは毎週木曜日だった。

だか木曜日にシフトに入ると
お局さんがいなくて
少しホッとする。

なんならその機会を使って
皆が彼女をどう思ってるのか
聞いてみたかった。


彼女の注意や指導は正しいのか。
みんなは彼女を
どう思っているのか。

しかしお局さんは休みの日も
必ずプライベートでやってくるのだ。


私はあれは完全に
自分の悪口を言われないように
警戒して来ていたと思う。


社員でもそんなことしない。
毎週必ず休みの日まで来るなんて
何かがないと来ないと思う。

お局さんのその何かは、
実は不安だったのだと思う。


威張り散らすわりには
本当はかなり小心者なのだ。



それに気づいてしまい、
なんだか可哀想な人だなと
思ってその様子を見ていた。

事実、おかげでわたしは
彼女がシフトにいない木曜日ですら
みんなが彼女をどう思っているか
聞くことはできなかった。


唯一、日曜の休憩時間に
彼女に1番気に入られてる
私より年下の子が
イライラしていたので
話を聞いてあげたら
お局に怒っていたことがあった。

聞けばその日だけでなく
ずっと大嫌いだと言う。

お局さんはそう思われてるとは
夢にも思わないであろう。

私ですらびっくりした。

本当に哀れだ。


⑤人に敬意を払わないと意味がない

休みの日に職場に偵察に来たり、
お気に入りの子に優しくしたり、
そんなことをしても
行き過ぎた行為が
許されるわけではないのだ。


人は自分が敬意を払われているか
そうでないかは感じとっている。
受け手の心の声が真実なのだ。


ちなみにバイトの中で
1番怒られていたのは
大学の同級生だった。

少しぽっちゃりとして
おっとりした子だった。

確かに事実、鈍臭かったので
お局さんをイラつかせていた。
しょっちゅう怒鳴られていた。


私は「大丈夫…?気にしなくていいよ」みたいなフォローを何回かしたことがある。


しかし彼女は「え?何が?」
という感じだった。


彼女は仕事だけでなく、
感覚も本当に鈍感だったのだ。


「つ、強い…」
私は真に1番強いのは、
実はお局さんでもなく、
この同級生だったのかなとも
今は思う。

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