バイデンとトランプの1回目の討論会〜まさかバイデンの撤退に繋がる?〜
トランプとバイデンの最初の討論会が6月27日(現地時間)に開催された。ここでは、なぜバイデンが討論会で”敗北”したと思われているのか、どうしてバイデン交代論がささやかれているのか、そして今後バイデンがどうなるのかを解説していく。なお、討論会の背景についてはこちらを参照。
簡潔に言うと、バイデンとトランプの討論会での出来はどうだったの?
バイデンは年齢の衰えを深く印象付け、高齢に対する懸念は払拭されるどころかますます深まってしまった。
トランプは事実と異なる発言を頻発させバイデンに対する誹謗的な発言も多く、従来のトランプの印象をなんら変えるものではなかった。
バイデンのどういうところが年齢の衰えを感じさせたの?
冒頭でステージに現れて演壇まで歩く姿は、「よぼよぼのお爺さん」としか表現しようがなかった。
また、発言している時の声はかすれて明らかに通常より小さかった。討論会の真っ最中、バイデン陣営はバイデンが風邪を引いていると発表したが、事前に説明がなかった分、これは下手な弁解に聞こえた。
さらに、テレビは常にトランプとバイデンの姿を並べて見せていたが、トランプが発言している間のバイデンにはまったく活力が感じられないかった。
そして、バイデンの回答内容はとりとめのないものが多く、言い直しが目立った。最も代表的だったのが国の債務に関する説明で、言い間違いから始まり、支離滅裂な発言が続き、その後自分自身何が言いたいのか忘れてしまったかのように3〜5秒間の沈黙があり、最後にわけのわからない発言で括られた。他にも趣旨不明な発言が多く、ある時など、トランプに「私には彼が何を言ったのか分からないし、本人もたぶん分かってないだろう」と言われる始末だった。
バイデンにとっていいところはなかったの?
回答内容だけを見ると、自分の政権の実績やトランプの批判、そして政策の説明において、バイデンはトランプより優れた回答をしていたところもあった。
だが、中絶の問題や2021年1月6日の連邦議会襲撃事件などに関する質問はバイデンにとってトランプを攻撃する恰好のネタだったはずなのに、バイデンの回答にはまとまりがなく、まったくもって勢いがなかった。
じゃあ、討論会はトランプの"勝利"だったの?
そうとも言えないのは、トランプの発言が(いつもながら)真実と異なるものばかりで、トランプは自分に都合の悪い質問への回答を避けていたからだ。
ある意味トランプらしさがさらけ出された討論会であり、トランプに対する懸念を抱えていた投票者にとって、懸念事項は何一つ払拭されなかっただろう。
視聴者はどう受け止めたの?
この討論会の視聴者数は5100万人であり、2020年の1回目の討論会より2200万人ほど少なかった。(いずれの数字にもストリーミング等が含まれていないことに注意)
大統領選の討論会ではよく、専門家の評価と一般的な視聴者の印象が異なることがある。たとえば、2000年の大統領選の第1回目の討論会では、アル・ゴアがジョージ・W ・ブッシュが発言した度にため息を吐いたことで傲慢のイメージを与えたが、討論会直後にこのことを指摘した専門家は少なく、「ゴアのため息」が問題視されたのは、翌日以降、一般の人が討論会の印象について語り合うようになってからだった。
今回の討論会について専門家はもっぱら「バイデン敗北」と評論しているが、実際の投票者がどう受け止めたかは世論調査の動きを見てみないと分からない。 特に投票先をまだ決めていない投票者の場合、「よぼよぼのバイデン」と「嘘つきのトランプ」のうちから選ぶなら、バイデンを選んだり、どちらも選ばない人がいても不思議ではない。
今後、バイデンはどうなるの?
複数の報道によると、討論会が始まって数分以内に民主党内はパニック状態に陥り、バイデン交代論が急浮上したそうだ。実際、バイデンを支持してきたアメリカの大手新聞社ニューヨーク・タイムズは、社説でバイデンの撤退を求めた。
だが、現職大統領が第1回目の討論会で苦戦することはよくある。1984年のレーガン大統領、2012年のオバマ大統領も1回目の討論会で"惨敗した"と評価されたものの、2回目で回復し本選挙で再選できている。
とは言え、バイデンの場合、過去とは異なる要素が3つある。
今回の討論会は異例に早く、バイデンはまだ正式に党の大統領候補に指名されていない
次の討論会は9月10日(現地時間)に予定されており、今回の討論会の印象が投票者の間で3ヶ月間も残る
バイデンの問題は高齢の印象であり、これは次の討論会でなんとかしようにもいかんしがたい
特に一つ目が重要で、理論上は、この夏開催される民主党の党大会でバイデン以外の候補を指名することが可能なのだ。これが「バイデン交代論」がささやかれている1番の理由である。
実際問題として、バイデンが自ら撤退表明しない限りバイデン以外が指名候補になる可能性は低い。だが、この先の世論調査でバイデンの支持が急落するようなことがあれば、バイデン撤退の可能性は現実味を帯びてくるかもしれない。なお、「バイデン交代論」の実現性についてはこちらで解説している。
[注:この記事は2024年6月に自分のアメリカの政治に関するサイトに載せた投稿に微修正加えた上で再掲したものです]