見出し画像

オッペンハイマー

鑑賞:2024年4月@TOHOシネマズ新宿

極上の映像体験。
シーンの緻密な編み方、畳み掛けるセリフ、少ない説明、多重する文脈。目が離せない3時間です。シーンやセリフの構成は「ソーシャル・ネットワーク」を思い起こします。編み込みを重ねた濃厚な時間体験です。

予備知識がないと紐解けない作品には否定的なのですが、この作品ばかりは、そうも言ってられません。実在の人物の話、原爆の開発を成功させた男の話です。

自分に湧き立つ感情に驚かされました。日本を標的に原爆を落とす話が出てきますが、その話で盛り上がる人たちの様子を見て、アメリカは明確に「敵」だという感情。原爆の実験に成功して湧き立つアメリカの人々に対する「嫌悪」、いや「非道」にしか見えない感情。極上の映像体験で、大変エキサイティングですが、「これ面白いなどと言う気に全くなれない」のです。それと同時に、簡単にプロパガンダに影響を受けてしまいそうな自分にも危機感を感じました。

この作品はいくつものエッセンスが多重化されて織り込まれていて、それだけ思うところも多いです。国際競争、科学者、思想、政治、軍、戦況、などなど。
政治家と科学者の狭間で時代に翻弄されるオッペンハイマー。この世の破壊を始めてしまったオッペンハイマー。科学者たちの中でも揺れ動くオッペンハイマー。妻や思想にも揺れ動く。

たとえば技術者・科学者と軍・政治家の関係性を見ても、技術者は浮かばれないなと思わされます。しかも時代背景として、自分たちが開発を急いで実現させないと敵国が先を越してしまうため、国際競争から降りられないという環境です。

関心したのは、事実上「あとから裁判にかけられてる」わけですけれど、「振り返ってみれば当時に原子力関連法案なんてそもそも無い」という当たり前のことにも衝撃を受けます。

思うところは多い本作、原爆には否定的ということもホッとしました。そして、政治的な権力闘争や科学者としてのオッペンハイマーの苦悩を描くことが主軸にしてあり、原爆について主義主張の偏りが少ないところがポイントと思いました。
「プロジェクトX」的な作品と言えるかもしれません。

▲オッペンハイマーは掘り下げたくなる作品です。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?