見出し画像

複眼の映像 私と黒澤明(橋本忍)

日本映画を代表する脚本家 橋本忍氏の著作。脚本家として伊丹万作の唯一の弟子であり、黒澤明「羅生門」の共同脚本でデビュー、プロデューサーとして「砂の器」を贈りだした橋本氏。戦中にシナリオと出会い、黎明期の日本映画を生き抜いた半生と、映画創りを通して触れた黒澤明のキャラクターや仕事観、「中の人」ならではの秘話が語られています。


「羅生門」の生誕

傷痍軍人療養所の戦友
生涯の恩師・伊丹万作先生

黒澤明という男

「羅生門」
「生きる」
「七人の侍」1
「七人の侍」2

共同脚本の光と影

ライター先行形
いきなり決定稿

橋本プロと黒澤さん

二人の助監督
「影武者」
「乱」

黒澤さんのその後


本書は、映画づくりの実際を追体験できるような感覚にさせてくれる良さがあります。そして、歴史的資料価値のある映画界での出来事を、当事者として語られている部分。ここを汲み取るのが面白いです。

おススメのポイントをいくつか挙げます。
・ストーリーと映像表現についてのとらえ方
・共同脚本の必要性
・製作(プロデューサーやコスト)、制作期間との兼ね合い
・黒澤明は橋本忍と出会わないほうが良かった説
・野村芳太郎「橋本さん……これからスピルバーグの映画はもう見る必要はないですよ」
・短編物で確実に言えるのはライターオリジナルが増える、という指摘
・めんどくさい「起承転結」とドラマと作法が全く違う「序破急」のパターンで作れる

加藤正人氏の解説が適確で、橋本忍氏の秀逸さを物語っています。

(略)橋本さんは、山田洋次とのコンビで、「砂の器」の脚本に取りかかることになる。
山田洋次は、原作が、あまりにも複雑なストーリーなので、映画化は無理なのではないかと感じた。そんな山田さんに、橋本さんが、原作小説の赤鉛筆で線を引いた部分を見せた。
そこには、病気の親父と一緒にお遍路さんの装束を身にまとい、物乞いをしながら全国を放浪したという主人公の過去が書かれてあった。
その悲しい過去という僅かな記述部分こそが、松本清張原作「砂の器」の急所であった。ここから、「名声のために過去を捨てた男が、過去に復讐される」というテーマが紡ぎ出された。
こうして「砂の器」は、単なる推理映画という枠を打ち破り、壮大な人間ドラマとして、不朽の名作となった。
原作は、一撃で仕留められたのである。

橋本忍「複眼の映像 私と黒澤明」文春文庫 解説(加藤正人)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?