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「真のデジタルネイティブ」こと現30代に襲い来るAI変革の大波

1. 「真のデジタルネイティブ」たるぼくら

僕は以前から、真のデジタルネイティブは90年代前半(とその前後あたり)に生まれた世代なのではないかという漠然とした考えを持っています。
たとえば僕は1991年生まれの現33歳で、小学校低学年にISDNによるパソコンでのインターネット世界を経験し(ネットのやり過ぎで家の固定電話が使えずよく怒られた)、中学時代におもしろフラッシュ倉庫に入り浸り、高校時代はガラケーで連絡を取りながらWord/Excelで生徒会の仕事をこなし、大学時代に日本にiPhoneが入ってきて、大学院あたりで5Gに触れています。
これはつまり、何かするにはとにかくパソコンを使うしかなかったあの頃から、エンタメがスマホにどんどん移っていくところまで、割とちょうどいい年齢のうちにテクノロジーの移行をひととおり体験できた世代なんじゃないかと思っているんですよね。

現に、周りの30-35歳くらいの年齢層の人たちと話している内容からも、僕らより上の世代はスマートフォンに弱く、下の世代はパソコンに弱いという漠然とした共通認識みたいなものがあるような気がしていて、それがパソコンとスマホ両方にある程度通じている「真のデジタルネイティブ」に当たるのではないかと考えているわけです。
もちろん、大学院の師匠世代からパソコン通信の時代の話や、パンチカードを使った計算がいかに大変かなどの話を聞くのは心底興味深いし、その時代も経験したかったなあという気持ちもある。一方の、自分たちのゼミの学生がスマートフォンをどう使いこなしているかを眺めるのもすごく楽しい。大学時代にここまでリッチなICT環境があるというのはすごいことだなと日々思わされる。

だから、「真のデジタルネイティブ」という表現はよく言ったものに過ぎなくて、実際は「どっちつかず」なのかもしれないなとも思っている。まあいつ生まれるかは選べないわけだし、どの世代が良かったなんていう議論はしても仕方ない。

ただバランス感覚の問題として、若者たちを眺めていると、知り合いの学生さんでも「スマートフォンがこれだけ発達しているのだからもはやパソコンは不要である」というある意味で急進的な思想を持っていたりする。それ自体は別にいい。というかどうでもいい。純粋に一点、パソコンとスマートフォンの差異について認識上の問題があるだけ。
というのも、たとえば僕の授業のようにマーケティング関連として購買履歴データをクラウド上のPythonでいじくり倒すようなタイプの実習において、現代のパソコンあるいはスマホというデバイスの差は、もはや画面の大きさと操作感の差でしかない。だからSurfaceやiPad含め、自分が使いこなせるもので勝手にやってくれれば本当にそれでいい。僕は自称「真のデジタルネイティブ」なのでどれを使ってくれても対応できるつもりでいるし、単純に画面がデカくてキーボードがついていた方がいいというだけの話だったりする。

2. そこにAIが出てくる

だけど、ChatGPTから状況が一変したように思う。今の若者たちのAI活用、とりわけNotionあたりを使った情報整理の方法には時に目を見張るものがある。

僕自身、深層学習の応用系(いわゆる特化型AI)の研究者として、ほんの数年前までの"AI"(たとえばSiri, Alexaといったパーソナルアシスタントや、それを活用したスマートスピーカーなど)をAIだとは到底思えなかった。パーソナルアシスタント黎明期に人々がSiriやAlexaにいろいろな質問をしてそれに対して気が利いた返答が返ってくることにみんな満足していたけれど、それがどこまでAI的な機能だったかはかなり疑わしかった。個人的には、あれらの製品において最も"AI"たる部分といえば、それはSpeech-to-Text(ユーザーの発話を聞き取ってテキストに起こす部分)とText-to-Speech(AI自身の返答たるテキストを音声に起こす部分)だったのではないかとすら思っている。

最近感じるのだけれど、「真のデジタルネイティブ」たる周りの人たちから、「AIがなんなのかよく分からない」という相談がかなり頻繁に来るようになった。もちろん、得体の知れないものを早いうちに対策しておきたい、あわよくば武器にしたいという気持ちを持っているという意味ではまだ捨てたものではないのだけれど、そこには、先輩方が僕ら世代にスマホの使い方を聞いてきていたのと同じものが垣間見えるような気がしてならないですよね。
もしかすると、どっちつかずでいろいろなことをやってきた「真のデジタルネイティブ」世代の強みにもついに終焉がやってくるのかもしれない。

だから、先で下の世代のスマホ認識に関して挙げた僕のマーケティング系データ分析の授業も、もしかすると数年後にはプログラミングの過程は丸ごと省略されて、全員がスマホアプリに音声で分析内容を指示して得られた結果から戦略を立てる授業に変わっているかもしれない。あるいはプログラミングが不要だからこそ学びたいという人たちの需要を満たす授業になっているかも知れない。それらはいずれもあり得ない話ではないだろうし、それでもいい。いつだって僕は自分にとって興味深いことがやれればなんだっていい。

そんな感じで僕自身今はまだAIが楽しくて仕方ないので、もうしばらく興味先行でAIまで含めたどっちつかずとしてやっていくつもりでいます。でも、常に新しいものを誰よりも早く身につけることを自分の武器にするこのスタイルはおそらくこの先10年以内に限界が来るだろうとも思っているし、そのとき「真のデジタルネイティブ」から何に鞍替えするのかというのは、よくよく考えておきたいものですね。

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