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京都から考える、文化と経済の相互作用をもたらす「夜」の可能性──「Night Camp KYOTO vol.1」開催レポート

ナイトタイムエコノミー推進協議会(以下、JNEA)は、文化・観光・まちづくりのエコシステムを整備し、業界の垣根を超えたナイトエコノミーの推進を実現するべく、「Voices of the Night」と題したイベントシリーズを展開しています。

2023年2月12日には、京都のCLUB METROにてイベント「Night Camp KYOTO vol.1」を開催しました。石川琢也さん(京都芸術大学 専任講師)、林薫さん(CLUB METRO プロデューサー)をコーディネーターに、第1部は招待制のトークセッションとグループワークの2本立てプログラム。さらに第2部としてパーティー「squander」が行われました。本記事は当日の内容のレポートです。当日の様子は下記のダイジェストムービーからもご覧いただけます。

会場となったCLUB METROは、京都に1990年にオープンした日本で最も長い歴史を誇る老舗クラブであり、現在に至るまで先進的な取り組みを続け、多数のアーティストを輩出しナイトカルチャーをリードし続けている象徴的な場所です。

2010年代にクラブ・ライブハウスの摘発が相次ぐ中、京都・大阪のクラブコミュニティや現JNEAの齋藤貴弘がダンスカルチャーを守るために署名運動を行い、それが全国のクラブやライブハウス、DJやクラブユーザーやダンス愛好家を巻き込む大きな運動に発展し、やがて2016年の改正風営法施行へと繋がりました。

音楽、ダンスを始めとするコミュニティ、また行政、政治、企業、地域など多様なプレイヤーを巻きこみながら、「夜」を一緒に作っていく動きがあり、その象徴的な場がまさにCLUB METROでした。活動を一過性のものにせず、ナイトタイムエコノミーのより良いあり方を当事者であるプレイヤーたちと共に考えて形にしていくことが大切だと、私たちは考えています。

CLUB METRO

JNEAは上記関連記事の東京でのイベントの他に、2022年7月にはアンテルーム京都にて「Night Camp KYOTO vol.0」を実施しています。アーティスト、自治体や行政、地域企業、文化施設就業者といったさまざまなステークホルダーたち20名前後の参加者でベニューの役割について理解を深め、持続可能なフレームワークや、組織連携を軸にした文化支援を考えるための意見交換会を行いました。今後も国内各地での開催を予定しています。

「夜」を舞台に業界の垣根を超えたネットワークをつくる

冒頭の挨拶では、今回のコーディネートを務めた石川琢也さんがCLUB METROをケーススタディとして話をしてくれました。

JNEAが観光庁の予算にて2019年に調査した「Creative Footprint TOKYO」では、「コミュニティの存在」と「ベニュー規模(ハコの大きさ)」のスコアの相関性に優位差が出ています。つまり100㎡以下の規模のハコに存在するコミュニティは、それより大きな規模のハコに存在するコミュニティよりも活性化していることが調査結果で明らかになっています。これは東京で行われた調査ですが、京都においても十分に当てはまる指標です。

昼には会えない人たちに出会えるのが夜の時間。空間が小規模であることによって、お互いの顔の見える関係性がより密接に生じ、地域/文化のコミュニティのネットワークが文字どおり網の目のように広がっていきます。まちに根付く魅力的な文化の活用や発展はそうした夜の出会いから起こることが多くあります。

後半のグループワークでは、某県庁職員の方が「『地域にある文化資源をどうするか』は文化政策課内で話していたが、『夜』という時間軸で捉えて活用方法を考えてみたことはなかった」と発言してされていました。「夜」という時間軸での話をすることが地域間の境界を越え、枠組みを作り変えられるスキームになるということに新たな価値を作っていけると思っています。

そのためにも、拠点を持っていたりナイトタイムの現場に携わるプレイヤーのさまざまな具体的な事例を集積し、どのようなことが可能なのかをシェアしあい、個々の動きをナイトタイムに関わる全体として大きなうねりを形づくっていくことが大切です。

街全体の相互作用を生む仕組みづくり

第1部のトークセッションのゲストは、仲西祐介さん(KYOTOGRAPHIE 共同ディレクター)、原智久さん(京都市文化芸術企画課担当課長)です。また運営側から石川琢也さん、JNEA齋藤貴弘と伊藤佳菜が登壇しました。

KYOTOGRAPHIE 共同ディレクターの仲西さんからは、2011年のKYOTOGRAPHIE 立ち上げに際しての思いから伺いました。

東日本大震災を背景として、「いま本当に何が大事なのかを誰にもはばかられずに話すことができるプラットフォームとしてのコミュニティ」「世界への発信をしていけるメディアに見立てた形のアートフェスティバル」を地域に立ち上げる必要性を感じて、インディペンデントで手探りにやってきたKYOTOGRAPHIE。

何のとっかかりもなく、アートフェスティバルへの知見もないままに始めたものの、現在まで変わらずにインディペンデントであることが重要な要素であると仲西さんはいいます。行政の大きな補助金や企業のスポンサーが一手に引き受けようとすると、そこがこけたときにイベント自体が開催できなくなったり、なにかしらの制限がかかってくる場合もありえます。継続していくなかで、さまざまな形での企業協賛や個人寄附が得られるようになっていきました。

また京都のベニューがあることで、国際的なフェスティバルにしていく上で世界中からアーティストが関心をもって来てくれる。京都の伝統工芸の職人さんや、企業の最先端のテクノロジーを使ってのコラボレーションもしていける。イベント単独ではなく、街全体の相互作用によってイベントが成り立っています。

文化の現場と行政をつなぐルールメイキング

京都市 文化芸術企画課長の原智久さんには、現場と行政を繋ぐアクセシビリティの役割についてのお話を伺いました。原さんが公務員に就こうと思ったきっかけは、まさに現場と行政のコミュニケーションの齟齬に気づいたことにありました。

かつて原さんの前職時代、東京で深夜2時頃にオフィス街を歩いていたら、当時丸の内に仮庁舎を置いていた文化庁内に明かりが煌々と照っているのを見て、こう思ったそうです。「これほど深夜まで働き通しでありながら、なぜ現場にその仕事が届いていないのだろう。知り合いの周囲のアーティストやクリエイターからも国への悪口を耳にするばかりで、もしかしたらミスマッチが起きているのではないか」。そして、そのミスマッチを埋めるべく現場と行政を繋ぐ役割として自分の仕事をしていこう、と。

そうして市の職員になってからは、できるだけ現場を見に行くようにしながらも、行政のリソースを提供するときには自分の手を離すことを意識して、内容に口を出さないようにしているといいます。行政の仕事として、法律、条例、予算、組織をつくっていくことがあり、その仕組みを組み立ていくときの行政のリズムというものもあります。いわゆる「ルールメイキング」を行うためには、そのリズムにマッチさせていくことが物事を運びやすくしていくポイントでもあります。民間や行政、さまざまな領域を横断した人たちが交じり合って「一緒に作り上げていく座組み」をつくり、共にプロジェクトに取り組んでいくことが重要です。

そうした座組みづくりをしやすくしていくためにも、行政からの助成金という観点でやるべきことはもっとあります。活動やプロジェクトに対しての助成金は現在もあるのですが、文化を維持し発展させていくためのシステムや仕組みづくりにお金が回っていくことは日本では稀です。

たとえばヨーロッパやアメリカの都市ではナイトタイムに特化した中間支援組織があったり、ナイトメイヤー(夜の市長)という存在がいたりして、民間事業者だけでは解決できない問題を吸い上げて、行政との窓口になって間に立っています。それらが日本では個別の店舗へのお任せになっており、店舗が責任を取るようになっています。

ナイトタイムエコノミーを活性化させ、その中での安心を作るためにも、行政と民間を横断した有効な仕組みが必要です。コンスタントにナイトタイムにまつわるリサーチを行っていき、そこに具体的な数字も伴いながら行政との共通見解を作っていくことで、行政と民間のネットワークができチームアップしていくことができると思っています。

これからの夜をつくるための対話の場

第1部後半のグループワークではアーティストやクリエイター、イベントプロモーター、メディア、まちづくり、行政、大学などさまざまな立場にある30余名の招待者たちを、6つのグループに分けて少人数での議論を行いました。
「地域ならではの夜の価値」「夜の価値を具体化していくための手法」をテーマとした各グループの発表をご紹介します。

##Group1 文化を社会へと開くクラブの役割

ミックスメディアとしての夜があることを中心に話し合いました。METROでは企画されるイベントで多様な文化を混ぜることをしつつ、そのクオリティが常に高いものとして維持されています。プロデューサーの林さんにキュレーション的な役割をしているのかと聞くと、「クオリティはオーガナイザーに任せきっているのでうまくいくものもあればいかないものもあるが、それが良いと思っている。ただし一貫して多様なジャンルとの関係を作っていくことは意識しており、京都の現代アートや写真、パフォーミングアート、テクノロジーなど様々なコミュニティとの関係作りを日々している」。それがMETROらしさに繋がっている、ということでした。

また先日、東京・恵比寿のLIQUIDROOM 2FにあるTime Out Cafe & Dinerで、京都のイタリアン「monk」が主催となって全国のレストランや生産者が集まる食と音楽とお酒のイベントがあり、音楽が共通言語となって様々な文化をつなげ広げていく、まさにクラブ的だったと感じます。

パーティーがその場単独で完結してしまうのではなく、社会の二、三歩先を繋げていくような、社会の経済を作り出していく発端となるような「場」が作り上げられることに重要な要素があると感じます。そのようなパーティをまとめあげるオーガナイザーが減ってきている課題感もまた共有されるべきことです。

ファシリテーター:齋藤貴弘(JNEA)

##Group B 日本の生き残り戦略として夜を整備する

近ごろもっとも楽しかった夜の話を聞くと、さまざまなヒントが得られました。たとえば神戸では某ホテルの地下に80年代から眠ったままのディスコがありそこでたパーティをした体験、普段はオフィスとして使われている空間で音楽をかけてパーティをした体験など、非日常的な空間あるいは普段とは違う使われ方をする場所で過ごす夜の時間は特別なもので、夜による新たな価値を見いだせることが分かりました。

私たちのグループの議論はその後、これからの日本の生き残りの戦略としての夜の可能性にまで話がおよびました。たとえばアートを求めてやってくる外国人に夜の時間帯へとそのままアクセスしてもらうにはどうしたら良いか、外国人にとって滞在の窓口となるホテルの果たす役割や、終電時間のある交通アクセスをどのように考え整備していくかなどさまざまな話題がありました。

ファシリテーター:伊藤佳菜(JNEA)

##Group C 世代の垣根を超えて集える場の重要性

グループメンバーが近々体験してきた海外の話を伺いました。アフリカのナイトカルチャーには手探りで荒々しくともお金をかけずにDIYで作るようなカルチャーがあったこと、タイのカルチャーではヨーロッパのどこよりもぶち上がっている(経済成長的にも文化的にも)空気が見受けられたことなどです。また22歳のDJが参加してくれていたので、世代間の行動習慣の差、とくに日本人が歳を取るとナイトカルチャーに足を運びづらくなっていく現状をどう穴埋めしていくかの話にも至りました。

CLUB METROのアーカイブを探っていると、かつてマンスリーで作られていたブックが出てきました。毎月のイベントの情報が掲載されているもので、編集のルーティンは大変だと思いつつも、このようなアートやナイトカルチャーの情報が詰まったものがあるとよいのではないかと思いました。

ファシリテーター:石川琢也(京都芸術大学 専任講師)

##Group D 社会の空気に楔を打ち込む"界隈"をつくる

ベニューをつくるという意味では何万人と集まるフェスをやるのと、神戸の小さなバーをやるのと変わらない、という声がありました。大事なのは、どういう表現をして社会の空気に楔を打ち込むかということ。このNight Campの場もまたその一つです。そのとき「個」ではなく、個から「界隈」をつくって広げていくこと。その界隈をつくることが、社会に対してのアクションになっていきます。

アーティスト視点からはそうした「界隈」、つまりアートやクラブといった夜の世界がある種のセーフティネットになっているという指摘がありました。他の場所では遊びづらい人たち、社会的マイノリティも夜には各々の自由を獲得しやすくなります。そのような「界隈」やナイトカルチャーの必要性を、社会や行政に伝えるときの翻訳者の存在もまた重要です。アート、カルチャーというジャンルや夜という時間をエコノミーと結びつけるだけではない、社会包摂的なセーフティネットとして必要不可欠であることがロジックとして大事になります。その上で、スキームをどう作るかという問題設計を考えていく必要があるのです。

たとえばグループメンバーの某県庁職員は文化政策課に勤めていたころ、「地域にある文化資源をどうするか」は話したが、夜という時間軸で捉えて考えたことはなかったといいます。夜という時間軸で話をすることが地域間の境界を越え、枠組みを作り変えられるスキームになりえるのです。その意味で、夜というくくりをつくることには説得力があると思います。

ファシリテーター:酒井一途(ライター/コーディネーター)

##Group E  ナイトベニューにおけるセーフスペースの重要性

「ライフタイムスパンで人生最高の夜は何か?」「ありすぎてわからん!」というところから、私たちのグループの議論が始まりました。夜の価値はアンビバレンスなところに良さがあります。危険でミステリアスなアンダーグラウンドなイメージもあれば、煌びやかなイメージもある。そのアンビバレンスさの魅力を保ちつつ、ジェンダー・身体的なことも含め、セーフスペースになっている場が大事です。具体的な例として、イベントに入るときにお客さんにステートメントを読んでもらう(ハラスメントをしない、私はセーフスペースを作りますという)というアイデアを実行していることをご紹介いただきました。そして、入場時にそのステートメントを読んだことの印を腕につけてもらうのです。

別の視点では夜の価値をどう見つけるかという話題もありました。たとえばぜんぜん知らない町へ行き、そこで地元民に連れて行ってもらう夜のスポットが楽しいということです。都市開発が進む街では、規模が小さくてインディペンデントで頑張っている店や、クラブカルチャー・ナイトカルチャーが取ってつけられたものとして扱われてしまうことがあります。街への愛情があって現場をわかっている人が、都市開発の中心に関わることが大事だという意見が出てきました。

ファシリテーター:原智久(京都市 文化芸術企画課長)

##Group F 多様の人々が活躍できる舞台としての夜

イベントを作っていくときの仕掛けについての話がありました。目玉となるアーティストやクリエイターだけでなく、イベントを支える人たち(音響、照明、飲食)にも注目がいくようにするのが大事です。この人たちの存在でイベントを作っていくことができている、ということです。

またイベントが終わった後に何ができるかという、夜の視点をどこに持つか。京都なら夜の寺の拝観があったりしますが、人が出ていける場所はどこにあるかを考えていくことがナイトタイムを作っていくことに繋がります。夜のイベントを作ることは宿泊や交通にも関わってくるので、そこには経済効果が生まれていきます。またVIPに夜の時間を楽しんでもらうアテンドを現地に詳しい方々にしてもらったことがありますが、VIPだけでなく一般の方々にも夜を楽しんでもらうためのメディアがあるといいと話し合いました。

ファシリテーター:山田真梨子(ACK)

風営法改正のために議論をするところから、「夜」をみんなで一緒にどう作っていくかという動きが始まっていきました。そして東京から始まったこの「Night Camp」の取り組みも、東京のネットワークを超えて今回は京都での開催に、大阪、滋賀、神戸から人々が集ってきてくれました。

重要なことは、観光消費や観光客数をどう上げていくかが目的となって動くわけではないということです。風営法改正の動きも、インバウンド観光消費を上げるために多くの人が署名したわけではありません。自分たちがどういうポジションをもって、なんのために動いていくかということを常に考えながら、共に動いていけたらと思っています。

JNEAでは、ナイトタイムエコノミーの推進に向けて多様なステークホルダーが対話できる土壌をつくるべく、イベントシリーズ「Voices of the Night」を今後も展開していきます。私たちのビジョンに共感いただける方は、ぜひ活動の輪にご参加ください。