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華族の斜陽『安城家の舞踏会』

1947年
監督:吉村公三郎
出演:原節子、滝沢修、森雅之、逢初夢子、津島恵子、清水将夫 他

ほとんど安城家の敷地内のみで話が展開される密室劇。
その安城一家、どう見ても華族にしか見えないキャスティングが素晴らしいです。

心優しいがプライドが高く現実を受け入れることができないお父様は滝沢修、同じく現実を受け入れられずヘラヘラしながらやり過ごしているお兄さまが森雅之、同じく現実を受け入れられない高飛車出戻りお姉さまが逢初夢子、一人現実を見据え、家族のために奮闘する末っ子が原節子という、品の塊のようなDNA。

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華族制度の廃止とともに没落し始めた名門安城家。
財産を手放しながらやっとの思いで生活しているが、それもそろそろ限界。
末っ子原節様から事情を聞いた安城家の元運転手・神田隆は快く援助を申し出てくれるが、プライド高い滝沢お父さまはこれを断ってしまう。

神田隆は今は運送会社を経営する実業家として成功していて、実は昔から逢初夢子に想いを寄せていた。彼が安城家のために自分が稼いだお金を使いたいというのは、嫌味ではなく純粋な気持ちなわけです。
だけどその気持ちは逢初夢子にも伝わらず、「元運転手風情が」「結婚に失敗した私をあざ笑ってるくせに」と冷たく突き放されてしまう。

一方モリマお兄さまは、戦前安城家の名を利用し儲け戦後は闇会社を経営している清水将夫の娘・津島恵子と安城家存続のために婚約しているがそこに愛情は無い。
実は女中の空あけみと恋仲であり、しかし彼女に対してもヘラヘラした態度を取っておりしょっちゅう泣かせています。こんな役は十八番です。

優雅な暮らしが忘れられないお父さまは、お金もないのに舞踏会の開催を企画。最初は反対していた原節様も、かわいそうなお父さまのために渋々折れる。

神田隆の気持ちを素直に受け入れられない逢初夢子、清水将夫への復讐に密かに燃えているモリマ、モリマと結婚したい津島恵子、モリマと結婚したい空あけみ(モリマモテモテ!)、娘とモリマの婚約を解消し借金のかたに屋敷を手に入れたい清水将夫、かつて世話してやった人間に裏切られる滝沢修、そんな家族を不安の眼差しで見つめる原節様。
華やかな舞踏会の裏でさまざまな人間関係が交錯する、見応えある密室劇となっております。

この作品でデビューした津島恵子。
後の細身体型からは想像もつかないほどムチムチしており、後にモリマはこんな撮影秘話を披露してますが、ほんとなのかねこれは…

空あけみはモリマが弾いているピアノの上にバーン!と乗っかったり津島恵子を犯そうとするモリマにレンガを投げつけたりモリマの胸ぐらを掴んで投げ飛ばしたりと、ボリューム満点の身体で思いきり体当たりしてくるのでとても気持ちが良い。
ほかに出演作品が見当たらなくて勿体ないなと思っていたら後に山内明の奥様になってるんですね。

津島恵子もなかなか強くて、犯されそうになった後で屋敷に戻ってきてモリマの顔を往復ビンタ!本当に殴られてるのでモリマは結構痛そうな顔をしていて(笑)それでも高笑いしながら唐突にピアノを弾き始めるなど、こうして書いてみると登場人物全員なかなかエキセントリックです。

ずっと好きだった人に拒絶されて自暴自棄になった神田隆の階段一人芝居も見応えがあり、彼の後ろ姿を転びながらも追いかける逢初夢子はベタだけど美しい。
高そうな靴も宝石も捨てて夢中で走るあの姿こそ、この映画のひとつのテーマですよね。

滝沢修と原節様と共に踊るように風に揺れるカーテン。
素晴らしいラストでした。

安城家は所謂「斜陽族」で、終戦後家族制度が廃止されるため特権階級としての扱いを失います。
それでも世間から見ればやはり華族様は華族様なのです。見栄を張り、優雅な暮らしが忘れられず、しかし実際にはお金がなく生活が苦しいという現実を受け入れることができない。
人間って、突然生活のレベルを落とせと言われてもなかなか落とせないんですよね。

モリマお兄さまはそんな華族の見栄を軽蔑しながら、自らも華やかだった過去を捨て去ることができない。そんな自分にも嫌悪感を抱き、安城家の名に泥を塗るような言動を繰り返し抵抗を続けているという、パッと見クズな息子だけど内面はとても繊細で複雑な感情が渦巻いているわけです。
復讐に失敗し強がりメッキが剥がれ涙を流すあの瞬間は、惨めでもあり美しくもある。

この役はモリマ本人もお気に入りとして挙げていて「自分のパーソナルな部分を初めて引き出してもらえた」と語っています。

そしてこの作品のある意味最大の見どころはなんといっても、ものすごい助走をつけながら滝沢修めがけて猛タックルする原節様です。
滝沢修は身体が小さいので吹っ飛びます。思わず二度見しました。


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