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消えてなくなりたいときもあるけれど

いい本を読みました。

ときどき、消えてなくなりたいと思うことがあります。

何か特別につらい状況にあるというわけではないけれど、ふと、そんな心持ちになってしまうときがあるのです。

この先自分が上手いことやっていける自信が急になくなって、逃げ出したくなってしまったり。
日常のこまごました悩みとか、やらなきゃいけないあれこれとか、何もかもが面倒に思えてしまったり。
過去に自分が言ってしまったことや、やらかしてしまったことなどが思い出されて、どうにも自分を肯定できなくなってしまったり。

この本の一編、『健やかな論理』の主人公の女性は、そんな”消えてしまいたいモード”になったときのわたしみたいだなーと思いながら読みました。

生きて行くことに不自由はない。
だからこそ感じられる、世界からの疎外感は何なのだろう。

いつからだろうか、体の内側から湧き出てくる泉というか、細胞の隙間から何かが滴るほどの豊かさのようなものが、どんどん喪われている感覚がある。

なんか、もう、いっか。
って思ったんだろうな。
わかるな、なんか。
こういうことがあった辛くてたまらないもう死にたい死にたい死にたいって助走があるわけじゃなくて、ふと、なんか、別にもういっか、ってなる瞬間。

あるとき何の前触れもなくこの世界から消えてしまいたくなるときがあるように、何の前触れもなく、この世界にいる誰かを想う自分の存在を熱烈に感じるときがある。
いつだって少しだけ死にたいにように、きっかけなんてなくたって消え失せられるように、いつだって少しだけ生きていたい自分がいる。

『どうしても生きてる 健やかな論理』より引用

この本は短編集で、生きることに苦しみや悲しみ、葛藤や諦念を感じている6人の男女の物語からなっています。

死んでしまいたい、と思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。・・・・・『健やかな論理』

家庭、仕事、夢、過去、現在、未来。どこに向かって立てば、生きることに対して後ろめたくなくいられるのだろう。・・・・・『流転』

あなたが見下してバカにしているものが、私の命を引き伸ばしている。
      ・・・・・『七分二十四秒めへ』

社会は変わるべきだけど、今の生活は変えられない。だから考えることをやめました。・・・・・『風が吹いたとて』

尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が映されているような気がした。・・・・・『そんなの痛いに決まってる』

性別、容姿、家庭環境。生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない・・・・・『籤』

『どうしても生きてる』帯より引用

どれも、読んでいて痛いのです。
わたしたちが生きている中で多かれ少なかれ感じていて、でもなるべく心の奥深くにしまったり、気づかないふりをしたりしてやり過ごそうとしている感情たち。
それをえぐられて、痛い。

でも、最後の『籤』を読んで、この一冊は全編をとおして、朝井さんからのエールだと思いました。
厳しいけど温かいエール。

苦しいよね、辛いよね、不安だよね。
でも、わたしたちは選べない。
受け入れて、どうしたって生きていくしかないのだと。
自分の力で大丈夫にしていくしかないのだと。
だから一緒に頑張ろうって。

”消えてしまいたいモード”にときどき陥るわたしにとって、人生100年時代はけっこう恐怖です。
どうやらまだまだ消えられないらしい。
年齢を重ねるにつれて、どんどん消えたくなる理由が増えていきそうなのに…

でも、”どうしたって生きていくしかない”と受け入れることで、静かな覚悟を持てるような気がします。
一人じゃないって思えたら、小さな勇気も持てるような気がします。

その覚悟と勇気をを持てたなら、”どうせ生きるならなるべく気持ちよく、なるべく楽しんで生きていこう”と、そんな風に前を向けると思うのです。

きっと何度も読み返したくなる。
そんな一冊でした。


女性の生きづらさの描写があまりにもリアルで、「あれ?朝井リョウさんって女性だったっけ?」って思わずググっちゃいました。
やっぱり男性。男性であのリアルさはすごいなー。
『桐島、部活やめるってよ』とか『何者』とか、若い人向けのイメージがあって今まで何となく読まずにきましたが、他の作品も読んでみたいと思います。

今回この本を読もうと思ったのは、こちらの記事を読んだから。
良い本に出会わせていただきました。
ありがとうございます。


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