ふかふかの大地のお布団〜満身創痍の青しそのお話〜
「おねがい、つれてかえって」
その青しそに出会ったのは、たまたま立ち寄ったホームセンターの一角でした。
「見切り品 28円」の箱のなかに、青しその苗が ぽつんと ひとつ。
いびつな雰囲気を醸(かも)し出していたその青しそは、多分、たくさんの化学肥料が使われているのでしょう。異様なほど深緑色で、まるで栄養ドリンクを飲んでぶよぶよ太らされたけれど、なんだかもう枯れかかっている、、、そんな状態でした。
(じゆうな木)「青ちゃん、、、じゃあ、いっしょにかえろっか?」
(青ちゃん)「うん、かえる」
わたしがはじめて創った ちいさな庭は、職場のハーブガーデンの一画にありました。15平方メートルくらいの、とてもちいさな空間。そのちいさな庭の西側にはおおきな山桜の木が3本あり、午後は涼しい日陰をつくってくれました。
とてもやさしい雰囲気に満ちた山桜の木たち。お猿もしょっちゅう遊びに(& いたずらしに!笑)やってきました。
わたしは、その満身創痍(まんしんそうい)の青ちゃんを、ちいさな庭のなかでも、山桜に近い場所に植えました。
この土地は、もう何十年も農薬をつかっていない、とても健康的な大地。土はふかふかでやわらかく、少し掘るだけで新鮮な香ばしい土の香りが鼻腔をくすぐります。
そんな気持ちのいいふかふかの大地のお布団に、青ちゃんは入りました。
青ちゃんがやってくる直前のちいさな庭
地植えしてから約1−2か月。
青ちゃんはまず、ものすごいたくさんの虫たちに毎日毎日葉っぱを食べられました。それは、もう目を当てられないくらいの、ものすごい状態。
それでも虫を追いはらわなかったのは、きっと虫がくることにも意味がある、そう感じていたからです。森を毎日歩き始めて4年目。わたしは、年を追うごとに、自然への信頼を深めていました。自然がすることにやっぱり無駄なことはひとつもない。その奥には深淵な理由がある。きっと虫がくることにも意味がある、そんな確信が心の奥にありました。そして、それを信じたい、という願いに似た気持ちも。
しかし、葉っぱはどんどんひどくなり、ほとんどが透け透けのレースのように......。さすがにその状態が1ヶ月以上も続くと、わたしももうダメかしら......と何度も思いました。
青ちゃんの周りはみんなとっても元気。
(じゆうな木)「青ちゃん。こんなにぼろぼろになって......もうどうしたらいいかわからないよ......」
しゃべらない、沈黙の青ちゃん。
あぁやっぱり、虫を追い払ったほうがいい?
湧きあがる疑いのこころ。
毎朝なでて声をかける、できることはただそれだけ。いろんな葛藤もありながら、それでも1ヶ月を過ぎたころ、希望の光が差し込んできました。
あの弱々しかった青ちゃんの茎が、着実に少しずつ太くなっているのに気づいたのです。
後でわかったことは、いくら見た目(地上)が悲惨な状態でも、根っこは確実に伸びていた、ということです。ふかふかの大地のなかにいる何億もの微生物たち。きっとそれら微生物や、周りの草木たちとも手をとりあっていたのでしょう。青ちゃんは、まずは根っこをゆっくりと広げ、少しずつ茎を元気にしていったのです。
そして、地植えして2ヶ月を過ぎたころから、待ちわびた新しい葉っぱが現れ始めました。黄緑色の、つやつやした葉っぱたち。そしてさらに素晴らしい驚きは、その新しい葉っぱたちは、もうほとんど虫に食べられなかったということ! 弱っていた葉っぱを全部食べると、虫たちはほとんどいなくなったのです。
それはさながら、緊急時に駆けつけ、そしてさっと去っていく、そんな虫たちの集団を彷彿(ほうふつ)とさせました。彼らは忌み嫌われることが多いけれど......。
青ちゃんが虫たちと過ごしている間、ちいさな庭は春から夏へ移行しました。お猿も桜の近くをあるいています (笑)。
わたしは青ちゃんの隣に、ひとりが座れるサイズくらいの平べったい石を置きました。そして、そこに座ってゆっくりお茶を飲みながら、青ちゃんと一緒に朝日をながめることが 毎日のたのしみのひとつになりました。
虫たちはきっと、栄養が多すぎるところも食べてくれるんだ! ある日、青ちゃんのとなりで朝日を見つめながら、そんな風に感じました。からだの悪いところを虫たちは食べてくれる。
そしてやっぱり、「健康な大地」。これがとても肝要で、青ちゃんもこのふかふかの健康的な大地があったからこそ、復活できたのでしょう。
大地は偉大!
どんどん ぐんぐん!
一気に、葉っぱが増えていき、満身創痍の青ちゃんは、ふさふさつやつやの美人さんになりました。
(じゆうな木)「まぁ、なんてつやつや! 抱きつきたいくらい🥺♡」
(青ちゃん)「♡」
青ちゃんの、その目を見張るばかりの美しい成長ぶりは、自然への信頼と愛をまた新たに深めてくれるものでした。
青ちゃんはたっぷり種をつけ、その種から育った子たちは、わたしのちいさな畑ガーデンで今年もふさふさと風にゆれています。
問題のおきる点(葉っぱへの虫発生)だけでなく、もっとおおきな視点でみると、それは全体のなかで必要なこととして起こっている。虫の被害を考えるとき、もっとおおきな全体の環境を整えていく、というのはとても大切なことなんだと青ちゃんは教えてくれました。そしてその自然を信頼してゆだねること、待つことも、とっても大切なんだ、と。
葉っぱも香り豊かで美味しくて、おにぎりをつくって持っていき、そのまま青ちゃんを一枚巻いてかぶりつく! そんな時間もとても贅沢でした。
(じゆうな木)「青ちゃん、美味しすぎる〜😆!」
(青ちゃん)「やったー♡」
青ちゃんのやわらかい葉っぱを隣に感じながら空を見上げるとき、いつもなんだか親しい友人と一緒に過ごしているようなあたたかい気持ちにみたされます。
そして、青ちゃんの復活を、空も、大地も、山桜も、周りの草木たちもみんなお祝いしているようでした。
【ある朝のひとこま】
(じゆうな木)「朝日がきもちいいね〜!」
(青ちゃん)「ほんとだね〜!」
(じゆうな木)「こりゃあ今日もいい日になるに違いないですね〜♡」
(青ちゃん)「うんうん、いい日になるに違いない!」