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書籍紹介 角井亮一『すごい物流戦略』

 角井亮一さんの著書『すごい物流戦略』PHPビジネス新書(2018)は、物流を単なるコスト要因ではなく、企業戦略の中心に据えるべきだとの認識を改めさせてくれる一冊です。著者は「物流=コスト」という従来の見方を根本的に問い直し、「戦略物流思考」の重要性を提唱しています。以下に内容をまとめてみます。

1.戦略物流思考
 序章では、物流が企業にとっていかに戦略的な要素であるかを説き、次のように述べています。

 ほとんどの日本企業は、「物流=コスト」という考えしか持っていません。 そこで、「違う視点で物流を考えないと会社は強くなりませんよ」と、【戦略物流思考】という考え方を提唱しました。

出所:本書(P15-16)

 この視点に立ち、著者は物流を企業の競争力を高めるための戦略的な要素と位置づける「戦略物流思考」が不可欠であると説いています。また、歴史的な視点からも物流を軽視したことが戦争や経済活動において致命的な結果を招いた例が紹介されており、次のように述べられています。

 これは企業とは違いますが、米国が戦争するときには、武器、弾薬だけでなく、食料品や嗜好品が戦闘地域に供給できるようにしてから戦争を始めます。中国でも、そうです。かの有名な諸葛亮孔明も、同様に、食料品の供給経路を確保できない戦いはしませんでした。今の中国政府が強力に推進している「一帯一路」も、ロジスティクスがベースになっています。日本は、逆に、ロジスティクス軽視です。第2次世界大戦を見ても、ロジスティクスを軽んじて負けた戦いは幾多とありますし、日本国内が物資難になったのは護衛がなかったため供給経路を簡単に断たれたからです。

出所:本書(P17)

2.すごい物流戦略の事例
 第1章では、アマゾンの物流戦略が詳細に分析されています。アマゾンは、宅配ボックスや公共宅配ロッカーの整備などを通じて、物流の利便性を追求しています。また、アマゾン・ゴーの狙いには「決済の新しい仕組みとしてシステム販売をしていくのではないか」という見方をされています。さらに、アマゾンがリアル店舗と物流を組み合わせた新しいビジネスモデルを次々と展開する中で、物流がどれほど重要な役割を果たしているかが浮き彫りなってくるかを示しています。
 第2章では、ニトリの物流戦略が取り上げられています。ニトリは「オートストア」という自動倉庫システムを導入し、物流効率を飛躍的に向上させています。このシステムにより、
ピッキング作業での生産性は5倍以上向上し、予定よりも早いタイミングでの投資回収が見えてきたとも述べています。
 ニトリが成功した理由の一つとして、「製造物流小売業」という独自のビジネスモデルがあり、その中で物流が重要な役割を果たしていることが示されています。
 第3章から第5章にかけては、アイリスオーヤマ、ZARA、DHLといった企業の物流戦略が紹介されています。アイリスオーヤマは、「物流センター内に工場を作る」という発想で、効率的な物流ネットワークを構築しており、「物流に関わるコストのブラックボックス化をなくし、効率よくコントロールする」ことを目指しています。ZARAにおいては、需要予測の精度を高めることが重要であり、需要予測の翌日に製造するのと、翌々日になるのとでは、その精度に4倍の差が生まれてしまうと述べています。

 私は需要予測の精度は「予測したときからの経過時間の2乗で落ちていく」と考えています。需要予測の翌日に製造するのと、翌々日になるのとでは、その精度に4倍(2×2)の差が生まれてしまう。翌々日製造したものは、翌日製造分の4分の1の精度になってしまう。特に流行に敏感なファッションであればこそ、わずかな時間差がより大きな違いとなって現れてくるのだと思います。

出所:本書(P173-174)

 DHLについては、著者が実際に現地で話を聞いた結果、「その成長力の源が戦略にある」と感じたと述べており、グローバル市場での物流戦略の重要性が強調されています。

3. オムニチャネルと物流戦略

 第6章では、現代の消費者ニーズに応えるために不可欠な「オムニチャネル」の概念が紹介されています。オムニチャネルとは、消費者がどのチャネルを利用してもストレスなく購買できる仕組みであり、物流がその中核を担っています。
 さらに、著者は物流戦略を構築する際に、在庫の一元管理、価格の統一、店員の教育といった要素が重要であることを述べ、ECとリアル店舗の融合がいかにして実現されるべきかを示しています。オムニチャネルが、物流を通じて消費者の利便性を高めるための重要な戦略であること、ビジネスにおける必須の概念であることが理解できます。

4.物流戦略の4C
 終章では、物流戦略を考えるためのフレームワークとして、「物流戦略の4C」が提案されています。物流戦略を語る上で、マーケティングの4Pや4Cのようなフレームワークがあったほうが議論しやすいということで、著者が考察を重ねてきたものです。
1. convenience (利便性、価値提供)
2. constraint of time (リードタイム、制約時間)
3. combination of method (手段の組み合わせ)
4. cost (コスト、予算)
の4つの要素で構成されており、物流に詳しくないビジネスパーソンでも理解しやすいように工夫されています。

5.最後に
 物流が企業の競争力を左右する重要な戦略要素であることの確認する上で参考となる一冊です。冒頭にも記載しましたが、物流を単なるコスト削減の手段としてではなく、企業価値を高めるための戦略的な武器として活用すべきだと著者は訴えています。物流に関する事例を見る際にもフレームワークが役立ってくるでしょう。


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