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書籍紹介 角井亮一『顧客をつかむ戦略物流』

 角井亮一さんの著書『顧客をつかむ戦略物流』日本実業出版社(2024)は、今日のビジネス環境における物流の役割というものを、変化していく環境を見据えて見直すことで、企業のより一層の成長戦略への貢献、ひいては顧客獲得に大きな影響を与える可能性を秘めているという観点で参考となります。物流を単なるコストセンターとして捉えるのではなく、企業の競争優位を支える「プロフィットセンター」として活用することの重要性を説く本書について、まとめてみます。

1.物流で顧客をつかむ理由
 著者は、物流の現場で働く方の地味な仕事が、実は企業の競争力を築く上で極めて重要であることを強調しています。物流が企業の成長を支える「縁の下の力持ち」として機能することを理解することで、物流の役割に対する認識が根本的に変わることを伝えています。
 重要な点として繰り返しますと、物流が企業の競争優位を支えるためには、「コストを削減するための機能」ではなく、「利益を生むための機能」として捉える必要がある点が強調されています。この視点を基にして企業戦略上の物流というものを戦略的に活用するという意識の転換が第一歩となります。

2.戦略物流とは何か?
 第1章では、物流が企業の競争力を高めるための戦略的な要素であることを改めて確認します。上記1の後段について、著者は以下のように述べています。

物流の重要性は増し、企業の経営活動における物流の位置付けも従来の『コストセンター』だけでなく、同時に『プロフィットセンター』としての位置付けも確立しないといけない時代になりました。

出所:本書(P24)

 また、従来の物流の6大機能(輸配送、保管、包装、荷役、流通加工、情報処理)に加えて、「管理」と「調整」という新たな機能を組み込んだ「戦略物流8大機能」を提唱しています。この戦略物流8大機能は、企業の戦略と物流を同期させることで、企業全体の競争力を高めるためのフレームワークとなります。それが「物流戦略思考」だと説きます。

戦略物流8大機能を駆使し、戦略物流思考を実現させていきます。

出所:本書(P30)

3. ドミナント戦略による差別化
 第2章では、ドミナント戦略が企業の競争力を高めるための重要な手段であることが解説されています。ドミナント戦略とは、特定地域に集中して出店し、その地域でナンバーワンの売上を確保することを目的とした戦略です。そのメリットとしては、少ないマーケティングコストで高い売上アップ効果が見込める、納品が効率的になり、物流コストが下がることなどが挙げれています。
 ウォルマートやセブン-イレブンの事例を通じて、ドミナント戦略がいかに物流効率と競争力を高めるかが具体的に解説されており、物流センター(DC)の効果的な配置やクロスドッキング方式が、企業の競争力を支える重要な要素であることが強調されています。

 このウォルマートの出店を支えてきたのがドミナント戦略です。同社では出店する前にまず6店舗分の供給能力をもつ物流センター(ディストリビューションセンター:DC)、そこから一気に6店舗を出店します。さらに店舗を拡大していく場合にも、いきなり出店はせずに、当初のように物流センターを構築するところからスタートする方法で全米に店舗網を広げてきました。
この方式により商品の発注をDCが集中管理できるようになり、店舗の作業負担は軽減され、また店舗への配送や発注管理にかかるコストを削減できます。またDCでは、仕入先(ベンダー)から発注品が入荷すると、在庫保管することなく、すぐに個々の店舗ごとに仕分けして配送するクロスドッキング方式が採用され、DC内での業務も効率化されました。

出所:本書(P74-75)

 さらに、ネットとリアルが融合するオムニチャネルの時代において、リアル店舗とネット通販の両方でドミナントを確立することが、企業の競争力を高めるために不可欠であると述べています。

4. スピードと品揃えによる差別化
 第3章と第4章では、物流における「スピード」と「品揃え」の重要性を買解説しています。「スピード」は、顧客に商品を迅速に届けることで競争力を高める要素として取り上げられており、注文から配達までの迅速さが、競合他社との差別化を実現する鍵であると述べられています。しかしながら、差別化の観点はそれだけに留まりません。

 お届けスピードによる差別化戦略は、ただ早ければよいというものではありません。もちろん競合他社が追随できないほどのスピードを実現できれば差別化にはなります。しかし、それだけで顧客を獲得し、顧客満足度を高められるかといえば、そうとは限りません。
 商品の出荷から、デリバリーまで、短時間、最速でオペレーションを回せるのは大切なポイントですが、それ以上にそのスピードを顧客の期待値に合わせて安定的にコントロールできる体制が重要になります。

出所:本書(P149)

 また、「品揃え」による差別化についても、SKU(ストック・キーピング・ユニット)の管理が物流効率に与える影響が詳細に解説されています。 
アマゾンの事例を通じて、膨大な商品数を効率的に管理し、顧客に最適な商品を提供することで、競争優位を築く方法が示されています。
 さらに、ヨドバシカメラの例を取り上げ、物流効率を高めることでEC比率を増やしつつも高い利益率を実現している点を解説しています。

5. サステナビリティを考えた戦略
 第5章では、サステナビリティが現代の企業にとって不可欠な要素であることが論じられています。著者は、物流が環境や社会に与える影響を考慮し、持続可能なビジネスモデルを構築することが企業の長期的な成長に繋がると強調しています。
 具体的には、アマゾンが再生可能エネルギーへの投資を積極的に行い、環境負荷の低減を図っている事例や、H&Mが紙製パッケージを採用することで環境に配慮した取り組みを進めていることが紹介されています。
 アパレル業界におけるサステナビリティの取り組みについても触れ、環境負荷の軽減がいかに重要であるかについても触れています。

6. さいごに
 本書は、物流を企業戦略の中心に据えることで、企業の競争力を向上させている企業事例と背景に考え方を示しています。物流戦略は今後の市場競争において重要な差別化要因となってきます。また、物流戦略から企業のサステナビリティに関する企業姿勢を結び付けていくという考察も、現在のビジネス環境においてタイムリーな観点です。企業の戦略を考える上でも示唆を与えてくれますので、お手に取られてみてください。


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