見出し画像

アップサイクルと地産地築:中古建物再生への新たなアプローチ

1 アップサイクルって何?
 アップサイクル(Upcycling)とは、使われなくなった製品や材料を単純にリサイクルするのではなく、元の材料よりも価値や品質が向上するように再加工する行為とのことです。古ビル再生プロジェクトに関与している中、パートナーとの会話の中で知りました。

 最近、長男が小学校を卒業したのですが、年始にランドセルメーカーから、6年間使ったランドセルを再加工してペンケースやパスケースにしませんか?というDMが来ていました。これもアップサイクルなのですね。

2 アップサイクルとリサイクルの役割
 これまでなじみが深かったリサイクルですが、アップサイクルの違いを確認してみます。どちらも廃棄物削減と環境保護のための重要なプロセスですが、その方法と目的には違いがあるようです。
 リサイクルは使用済みの製品や材料を原料として回収し、同じ種類の製品を再生産するプロセスです。例えば、ペットボトルを回収し、それを粉砕して後、新たなペットボトルを作ることはよくあるケースです。リサイクルの目的は、材料の再利用により資源を節約し、廃棄物を減らすことにあります。
 一方、アップサイクルは、使用済みの物品や材料を再加工することで、元の状態よりも価値や質が向上すること、新しい製品を作ることに狙いがあります。このプロセスでは、アイデアとデザインがポイントになります。元の材料の形や性質を活かしながら、新しい用途や美的価値を付加していくわけです。
 いずれにしても、これらのプロセスは、環境に優しい持続可能な社会を支えるために相補的に機能していくことが必要で、両方とも大切な役割を果たしていきます。

3 建築分野におけるアップサイクルの分類整理
 建築分野でのアップサイクルは、廃材や古材を活用して、新規の建造物や既存の建物の内装に「生命」を引き継いでもらうことになります。この「生命」の引き継ぎについて分類整理をします。

(1)古材を活用した住宅
 解体された古い建物や古家から回収した木材を使って、新しい家や建物の内装、外装に利用します。イメージには留まりますが、古い梁やフローリングをそのまま新しい住宅の内装材として使用することで、独特の風合いをもつ味のある空間に生まれ変わります。

(2)ガラスの再利用
 回収したガラスを装飾的な要素として使用することも可能かもしれません。その他にも資源を有効活用しながら、建物にユニークな特徴をもたらす方法はあると思います。

(3)アート作品への活用
 廃棄された建材を使用してアート作品にする事例を見かけます。アート作品が空間の活性化につながるとともに、環境問題への意識付けにもなります。

 その他、工業廃材の再利用も想定されますが、環境との共生や持続可能な建築への関心が高まる中で、さらに注目されていくものだと思います。最近まで知らなかったという不勉強さは棚に置きますが…。

4 アップサイクルから考える経済性と社会性
 アップサイクルを取り入れることで環境負荷が低減されるのは想像しやすいです。では経済性についてはどうでしょうか。最近は建築資材の値上がり、輸送費用の値上がりなどもあります。人件費も上がっています。原価を押し上げる要因は多々あります。そのような中ですが、経済性はどこにあるのでしょうか。

(1)解体材の再利用
 古い建物の解体時に出る木材、煉瓦、ガラスなどの材料を新たな建設プロジェクトで再利用することで、新しい建材を購入するコストを削減する。理屈的には理解できます。それは、高価な木材や煉瓦があれば、あえて風合いを出すために仕入れをしようとせずとも入手できるのでコスト削減につながるでしょう。

(2)工業廃材の活用
 具体例が挙げられませんが、工場での余剰材料や廃棄物を活用することで、廃棄コストと新材購入コストの両方を削減できるというイメージまではできます。

(3)古材を利用した商業施設
 カフェやレストランにおいて、解体された建物から取り出した古材を利用して内装を施す事例はありそうです。内装費用の抑制と店舗の演出に役立てられそうです。

(4)輸送コストの削減
 対象不動産の近隣で回収された廃材を使用することができれば、輸送に伴うコストと環境負荷を減らすことができます。同様に廃棄物を利用する場合にも、輸送に必要なエネルギーやコストを削減できます。結構大事なポイントだと思っています。

 以上、例示をしましたが、単にガラクタを集めて飾って、再利用しているから環境負荷の軽減とコスト削減を実現していますよというのは、当人の満足は得られても、店舗を利用する人には響かなければ、結果としては自己満足で終わってしまいかねません。建築物に独自の美学やストーリーを加えることもポイントになってくると思います。

5 「地産地築」(ローカルマテリアルを利用した建築・再築)という発想
 先ほど、4(4)で対象不動産の近隣で回収された廃材や廃棄物を活用することはポイントではないかと意見を述べました、その件で考えていることがあります。「地産地築」という造語です。地産地消と同じ考えの建築版というのが今のところ考えているところです。建物構造上、すべての建材を地域で賄えるとは思っていませんが、建物のコンバージョンによる再活用にあっての一部での廃材活用であれば、それが実現できるのかもしれません。もちろん経済性や事業性などはこれから考えるものであり、現時点ではイメージにすぎません。とはいえ、以下のようなメリットもあると思っており、今後深めてみたいと思っています。

(1)環境への配慮
 近隣地域で回収した廃材を使用することで、長距離輸送に伴う炭素排出を削減できます。

(2)循環への意識づけ
 輸送コストが削減されることはもちろん、近隣地域の廃材を使用することで、地域の資源廃棄や資源循環ということに意識が向くことにつながります。

(3)地域に根差した活動
 地元の廃材を利用することで、地元の配送業者やボランティアが関わることになるかもしれません。また建築での利活用やインテリアでの利活用などに建築を学ぶ学生のアイデアが生かせる場になれば、そのプロセスも含めて地域に根が張っていきます。建築文化の発展にも寄与できます、というのは少し言い過ぎかもしれませんが、ワクワクを集める場になれば、古家・古ビルもイキイキとしてきます。

 その他にも考えられるのかもしれませんが、地産地築は、環境に優しいだけでなく、地域社会の繋がりづくりにも貢献がなされ、さらに経済にもプラスの影響を与えるともなれば、多方面からの支持が得られるでしょう。

6 アップサイクルも含む地産地築に付加価値をもたらすビジネス展開の考察
 環境保護と地域の持続可能性を重視する現代のニーズにビジネスとして応えるための切り口を考察してみます。私なりに考える地産地築は、ただの建築手法ではなく、地域コミュニティと環境に配慮したビジネスチャンスを提供するアプローチではないかと捉えています。

(1)カスタムメイド住宅の提供
 一般的な建材を使用しつつも、個々のクライアントのニーズに応じたカスタムメイドの中でおしゃれなアップサイクルのインテリアが提供できたり、コストを抑えた建材提供とで住宅を建設したりリフォームをしたりするというサービスや提案はアリだと思います。個性的で環境に優しい住宅市場というニッチながら新しいターゲットに事業を展開できます。

(2)建材の供給と販売
 廃材を生成し、建材にしたうえで工務店やDIY愛好家に販売することも一つのビジネス展開です。

(3)教育プログラムやワークショップの提供
 地産地築でのリノベーションやリフォームの発想や工法などを学ぶワークショップ、工務店に対する教育プログラムを提供するという方法・フランチャイズ展開という方法もあります。専門知識を持つ職人や監督者を育成することで、社員の付加価値向上や地域社会との接点の拡大、新しい地域との関係性の構築にも期待が持てます。

(4)コンサルティング
 異業種企業や自治体に対して、地産地築に基づく持続可能な開発計画の立案、実行を支援するコンサルティングサービスも展開できるかもしれません。例えば、行政に対しては、空き家問題への対応の仕方に新しい提案がもたらされるかもしれません、また、異業種でも持続可能な企業活動へのヒントを提供できるかもしれません。

5.最後に
 アップサイクルを調べて、一人盛り上がっている私ですが、残念ながら、そこにはまだ実践が伴っていません。これから実践の場に関わらせていただきます。その段階で想定外のことに出くわすのだと思います。それも含めて、やってみる!ということだと思っています。皆さまからも教えていただきたいです。また続編をお伝えできることを楽しみにしています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?