じろまるいずみ
料理本好きの、料理本による、料理本のための、料理本エッセイ
水戸の居酒屋で次の酒を頼もうとしてメニューを開いた私はそこにあった文字を見つけ「カナサゴ!?」と少し大きな声を出した。 カナサゴは地名である。昭和と平成にそれぞれ近隣と合併し、今は常陸太田市の一部となっている土地である。私が初めてその名前を聞いた時はまだ金砂郷村であり、そこの出身だというヒロシくんの発音は何度聞いても「カナサゴウ」ではなく「カナサゴ」だった。だから私はカナサゴとして覚えていた。そのカナサゴの名前の酒がメニューにあったのだ。 誰しも「一時期はよく遊んだのに、
以前「みんな大好きだから大っぴらには言えないけど自分はなぜか嫌いなもの」について2回もnoteに書いた。今回はその3回め。そして今回も「えー!美味しいのに」とか「〇〇店で食べたらわかるよ」とか「人生の半分損してるよ」とか言われること必至なやつである。 それは、おにぎりだ。しかも「ふんわりつかんだだけ」のやつだ。街を騒がす行列おにぎり人気店がこぞって採用する手法のやつだ。「1、2、3、と軽く押さえたらハイ出来上がり」みたいなやつだ。 わかる、わかるよ。ふんわりおにぎりの何が
暑い。暑すぎる。まだ6月だというのになんだこの暑さは。梅雨も来てないのにおかしいじゃないか。6月はまだ「初夏」ではなかったか。6月のくせにサマー気取りはちょっとずうずうしいのではないか。ともかく今日もまんまと30度オーバーだ。毎日何かしら外出する用事がある私は、夕方には汗だくのつゆだくだ。15時過ぎればもう今夜のビールのことしか考えられない。 こんなに暑くては食べたいものも変わってくる。「お昼どうする脳内会議」も、やれラーメンは熱い、チャーハンは重い、定食はめんどくさい、パ
うちの両親は2人とも長崎出身だったため、千葉の家でもよくハトシを作って食べていた。そもそも海老を揚げたやつなんてうまいに決まってるし、我々は揚げ物大好きな太った一家だ。ハトシは家の大皿に山のように積まれ、大人も子供も胸焼けするまでハトシに食らいついた。ハトシの夜、母はいったい何枚のパンを使ったのだろう。材料費だけでも相当だったろう。 そういえば私が幼い頃は海老だけだったハトシはのちに肉バージョンが登場し、最終的には海老は大人だけ・子供は肉ハトシになっていった。まあ仕方ない。
ハトシとは明治時代に「清」の国から長崎に伝わった海老料理のことで、漢字で書くと「蝦多士」とか「蝦吐司」。「蝦」は海老、「多士」「吐司」はトーストやパンを表し、つまり海老をパンで何かした料理である。 だいじょうぶ、ハトシを知らなくてもだいじょうぶ。おそらくほとんどの人が知らない。長崎生まれか、長崎育ちか、長崎在住の人しか知らない。長崎へ旅行した人は知ってるかもしれないが、観光客向けのストリートフードと化したハトシは、正直本来のものとは趣旨が違うお手軽バージョンである。やっぱこ
「思い出補正」という言葉があるが、その最たるものはもう今はなくなってしまった店や、この世にいない人が作った食べ物の味かもしれない。今食べたらイマイチかもしれないそれを、記憶はふんわりデコレーションし「かけがえのない味」として保存する。そしてたまに思い出しては狂おしい気持ちにさせる。誰しもそんな思い出補正グルメをお持ちだろう。 私の思い出補正グルメ「肉まん」は、かつて奈良県にあった「天真爛漫」という店だ。確か満州から引き揚げてきた旦那さんが亡くなって、女手ひとつで子育てをする
肉まんは5月の季語だからね(嘘)。やるよ。肉まんワークショップ 今回のメニューはこちら!・粉から作る肉まん豚まん ・しそとしらすのさわやかだし巻き ・根曲り竹のアリオリ(四方竹や淡竹、マコモダケに変更の場合あり)おまけ ・さっぱり中華ピクルス ・梅シロップが間に合えばそれも ・オットが何か作るかも Twitterに書いたんだが、本当は「中華ちまきワークショップ」の予定だったんだ。ただどうしても、時間内で餅米の処理をうまく終わらせるやりくりができなくて、できないものは日本人
ふと気づくと実家では、兄弟のメンバーカラーが設定されていた。妹は赤、弟は青、そして長女の私は黄色だ。嵐で言うとニノである。初めての子供である私を妊娠した時、両親は「無事に生まれてくれれば男でも女でもいい」という気持ちが強く、男女どちらでも使えるようにと服やおもちゃなどの赤ちゃん用品を片っ端から黄色で揃えたらしい。なので必然的に私の色は黄色となった。 名前すら「男でも女でも使える」ようにと、ユニセックスな名前ばかりを考えていたという。たまに自分が「じろまるけい」か「じろまるじ
Rくん、知的でおだやかで落ち着いた接客で、時折話してくれる母国の話も面白く、ほんとお気に入りだったんだが、どうやら飛んだらしい。店長曰く、2~3日前から無断欠勤→電話も出ない→LINEいつの間にかブロックされてた→近所だというアパートに行ってみたら違う人が住んでた→オーマイガ!…らしい。 一緒のシフトに入ってた子に話を聞いたら「日本に来てまだ1年なのに、スッゲーいろんなバイト経験があって、コンビニだけでもセブン、ローソン、ファミマ全部やってて、居酒屋とかドラストとかスーパー
餅についてみんなに問うてみた。 なぜ人の食べ方を聞いたのか。それは正月の新潟で餅を多めに買ってきたのに義実家からも餅が大量に届き、それをしまおうと食品庫を整理したら去年から持ち越してる餅もまだあることが判明し、さあ本気で餅と向かい合わないとダメだぞと自分に喝を入れたからである。自分の思いつきだけでは「いつものアレ」に終始してしまい、すぐ飽きてしまいそうなので、他人の食べ方を参考にしたかったからである。それがたとえありふれた食べ方であっても、それによって想起される何かを期待し
黄色はレモン!そして卵!ハイ、全員参加してーじろまるの料理は和洋中エスニック何でもあり。ウケねらいの奇抜な料理はないかわりに、王道なレシピやいつもの食材をちょっと触って「お店みたい」なじろまる料理にします。 1つの料理に、コツもだいたい1つだけ。 手抜きしていいところは、とことん手抜き。 逆に「ここだけ気をつけろ」の部分はきっちりご指導するので、家でおさらいした時に「これ、私が作ったの!?」と驚いてもらえるはず。 メニューはバランスのとれた3品構成に、プラスおまけで素敵な
ネットのおかげで情報のスピードが段違いに早くなり、知らない国の言葉もGoogleのおかげですぐ読めるようになった。SNSを見れば世界中の食いしん坊が我も我もとうまそうな写真を乗せ、おかげで「この〇〇という料理はパスタを指定の倍の時間ゆでてグダグダにすると、現地の学食っぽさがでる」など余計な知識まで入ってきちゃったりする。 ネットでは若い頃に得た知識の答え合わせまでできてしまう。最近でいえば「キビヤック(鳥をアザラシに詰めて発酵させたイヌイットの食べ物)は肛門から吸って食べる
うちの中学にはHくんという伝説のモテ男子がいて、誕生日にはプレゼントを渡したい後輩が列をなしていたとか、バレンタインの時はチョコがカバンに入りきらなくて先生に紙袋をもらって持ち帰ったとか、卒業式ともなれば制服のボタンが一瞬で袖まで無くなっていたとか、数々の武勇伝が聞きたくもないのに聞こえてきた。 なんで聞きたくもないかというと、私にはその魅力がまったくわからなかったからだ。野球部でエースで4番のすごさがわからなかったのはこちらの落ち度だが、成績も普通だし、面白い話をするわけ
はい、初場所始まります!全員参加してー 今回からだし巻きを定期にします(改訂前のことは忘れてください)。 その日人類は思い出したんですよ、じろまるの原点はだし巻きだと。だし巻きをメインにしなくてどうするんだと。今まで数々のバリエーションを作ってきたのは、何のためだったんだ?と。 というわけで、毎回いろんなだし巻きをお出しします。いつどれに参加しても、必ずJIROMALのだし巻きが食べられる。めでたい。 じろまるの料理は和洋中エスニック何でもあり。ウケねらいの奇抜な料理は
縁もゆかりもない土地で年末年始を過ごすようになってから、2年が過ぎた。ルールは1つ、行ったことのない街であること。出張がちな人生ではあったが、客先も偏っていたし、まだまだ未踏の地はたくさんある。どんどん衰える体力やこれからの人生を考えると、せめて47都道府県くらいは制覇したい。知らない街の知らない文化をもう少し知りたい。そういったわけで去年は仙台、今年は新潟へと向かった。 ルールは1つと言ったがもう1つあった。それは県庁所在地、もしくは浜松や四日市のように県庁所在地並みに栄
前にどこかに書いたかもだが、実家のおでんとは「大鍋にありったけの練り物と大根を突っ込んで強火でガーっと煮たやつ」のことだった。すべての練り物から味が抜け、かといって大根にその味を含ませるには煮る時間が足りず、ちょっと固くて、ちょっと苦くて、子供には苦行でしかない代物。味もあるんだか無いんだか中途半端で、何を頼りに飯を食べたらいいのかよくわからない。正直おでんの日は心の底からがっかりしたものだ。もしかしたら「がっかり」が口に出てしまってたかもしれない。 母はとても料理が上手な