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「ポールマルリーの洪水」〜儚い詩

まさかあんなところで出会うなんて。

晴れた暑い日。ふと訪れた郊外の大きな公園。家族連れで賑わっている。

公園には水辺もあり、夏に家族で訪れるにはピッタリだ。

私は都会のコンクリートに辟易して、フラリと列車に乗った。何も考えず。

気がつくと少し遠いところまで来ていた。これ以上行くとコンクリート世界からは離れ過ぎてしまう。

私はその駅でフラリと降りた。

割と大きな駅であった。

私はその駅から近くにある大きな公園の、その豊かな緑に惹かれて歩いて行った。

入口であの人に似た人がいた。

私は気が付かないフリをした。あの人でなければいいと思った。

この穏やかな公園で、心に激震を走らせてはならない。不意打ちに人間は弱いから。

その人たちから私は離れるように歩いた。しかし遠くで視覚に入るあの人らしき人と…。幸せそうな人たち。

私は空を見た。夕立でもくればいい。

しかし、空は裏腹に、青く澄んで晴れていた。

雲の高い遠い動きにさざなみの立った心は癒された。

私は気を取り直して歩いた。この広い公園の草原と水辺と森林を。

歩くうちに心も空のように晴れてきた。

しばらく歩いて、私は元来た出口に向かった。

そこに、同じく公園を堪能したあの人が誰かといた。幸せそうに。

恐らくあの人だろう。

私は立ち止まった。待つか、通り過ぎるか。迷った。あの人たちが去るのを待つ時間は長く辛い。そう感じた私は素早く追い抜き駅に向かった。

通り過ぎ際チラリと振り返った。一瞬の時間。おそらくあの人だ。あの人も私を見たような気がした。しかし、その焦点は私と合ってはいない。

その視界の遠くに黒い雲が見えた。

私は自然とニヤついた。

降れ。降れよ。

私は歩みを早めた。早くこの駅から去らなければ。追いつかれてしまう。何も知らないあの人に。あの人たちに。

早く洪水になれ。ポールマルリーのように。私は舟で道を行くのだ。この速い鉄の舟で。

列車が来た。私は一番最後の車両に乗り込んだ。

駅の階段を降りてくるあの人たちが見えた。

扉よ閉まれ。私は祈った。あの人たちを乗せるな。

列車が動き出した。窓の外を見ると水滴が窓に数滴当たった。そして、その粒は大きく多くなった。

やはり夕立ちが来た。車両の人々は少し残念な顔をしている。私はニヤリとする。降れ。強く長く。

しかし、この鉄の塊の奥には、間に合ってしまったあの人が誰かと乗っている。

私はため息をつく。

なんだってこんな場所まできて、こんな残酷な運命が待ち構えているのか。

雨はまだ止まない。

夏の雨は暖かく、まるで涙のようだ。

洪水になれ。

大きな駅で列車は一度止まる。

再び動き出したとき、あの人たちはそこで降りたのが見えた。遠ざかるあの人。

私は再び空を見る。空から光が降ってくる。

夕立は終わりのようだ。晴れ間はみるみる広まっていく。

洪水にはならなかった。落胆する私。

しかし、空は晴れ上がった、やはり透き通った空のほうがいい。これは摂理なのだ。

ポールマルリーの洪水も、洪水のあとの景色を、晴れた空を連作で描いている。その空の青は、今私が見た青と同じだった。

私も連作として、この続きがあればいい。

あとは私が自由に描くだけだから。


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