神通川.jp

神通川という架空の街で亡くなった人たちの話

神通川.jp

神通川という架空の街で亡くなった人たちの話

最近の記事

vol.6.5 オンステージの3時間前

「じゃあ、今から最初にスマホ鳴った人の勝ちね」 薫はいつも突然よくわからない遊びを思いつく。ライブ当日、リハ後のファミレスだった。 「勝ちって何」 「このあと出番後にバーカンでビリの人に1杯奢ってもらえる」 「負けもあんのかい」 一方の桜子は話を聞いていない。ジェルネイルの施された指先で、さっき撮った写真を夢中で加工している。あんた、どんなにオシャレなフィルターでふんわり盛っても所詮それサイゼリヤの写真だからね。テーブルには大盛りのカルボナーラ、マルゲリータピザ、青豆の

    • vol.6 エコー (弦野響・22歳)

      弦野響(つるのひびき・22歳) 神通ライナーにコソコソ乗って、なんとかしてたどり着いた新宿のライブハウス。わがメンバーはお揃いのようだった。 「響だけ遅刻ーーー。」リーダーでベーシストの薫は手厳しい。「すんまっせん!」 「まあ演奏でバッチリ取り返してくれればいいんだから。期待してますよ。ね?」ドラマーの桜子はいつも包容力があって、お母さんみたいだ。まあ私はお母さんの顔を知らないんだけどさ。 「はい、じゃあ、本日もよろしくお願いしまーす!!!」 と雑な顔合わせ挨拶の後、共演

      • vol.5 自炊で自分を幸せにする才能がある(塩釜 麦穂・13歳)

        塩釜 麦穂(しおがま・むぎほ)13歳、中学生 小学校5年くらいの頃から、あまり親が帰ってこなくなりやがった。パパもママもいっしょのタイミングで出て行って、いっしょに帰ってくるから、ふたりでどっか同じ場所に行ってんだろうな。どこ行ってた?って聞いたら、「おしごと」つって。まあくわしくは知らない。ぼくは幼い頃から、「おしごとに関することを人に聞くのは失礼なこと」だっていうシツケを受けているから、それは家族でも例外じゃねえと思ってる。(というのは建前で、前にパパに仕事のこと聞いた

        • vol.4 ホープ(埋火 ほむら・11歳)

          埋火 ほむら(うずみび・ほむら)11歳、小学生 火を見てると安心した。物心ついたころからそうだった。理由はわからない。 「ほむら?」 「え…佐和子ちゃん?」 「ひさしぶり。こんなとこで何してんの」 「…別に。たき火」 「そんなもんどこから盗ってきたんよ」 燃える火のかたわらには、スーパーのゴミ箱からとってきた牛乳パックを山のように積みあげてある。 この空き地は偶然見つけた秘密の場所だった。だれも来ないから、学校が終わったあと夕方一人になるにはぴったり。今、思いもよらな

        vol.6.5 オンステージの3時間前

          vol.3 いつか忘れてしまう前に(ヒドラ・ラム ・19歳)

          ヒドラ・ラム(ひどら・らむ)19歳 こんばんわ。ヒドラ・ラムがお送りする神通FMらむらむラジオ。今夜もお付き合いください。 …今日はなんだか、ぽかぽかしてる一日だったね~。神通川は標高がさ、高いから、どうしても仕方ないけど。毎日このくらいの気温だったらとっても楽なのになーって思います。ラムは今日、おうちのお洋服を衣替えしてたよ。今着てるワンピースがね、そこから引っ張り出してきたやつ。結構いいブランドので、すっごくかわいいんだけど…ラジオだと伝わらないのが悔しいな。あ、じゃ

          vol.3 いつか忘れてしまう前に(ヒドラ・ラム ・19歳)

          vol.2 ズッ友(川端 みなも・17歳)

          川端 みなも(かわばた・みなも)17歳、高校生 最強の大親友こと布施雪のオカンがまあまあグレーな仕事をしているのを聞いたのは高1のとき。なんでもない日に、彼女が打ち明け話のように教えてくれた。私はどう答えたらいいかわからなくて、とりあえず「話してくれてありがとう」と言ったけど、その答えで正しかったのかは今もわからない。ていうか、雪とは小学校からの付き合いだけど、雪のオカンとは一回も会ったことがない。ぶっちゃけ実在するかもわからない。でも、ここはそういう街だ。確かなものが

          vol.2 ズッ友(川端 みなも・17歳)

          vol.1 水の記憶(布施 雪・17歳)

          布施 雪(ふせ・ゆき)17歳、高校生 あたしのいちばん古い記憶は、この家の玄関で失禁したこと。おそらく3歳頃だったと思う。もう漏れそうなのにそのことを言い出せなくて、トイレに間に合わなかったのだ。尿が脚をつたっていく嫌な感覚は今も鮮明に思い出せる。それより幼い頃のことは覚えていない。ママいわく、あたしは生まれも育ちもまごうことなく神通川だ。だけど多分、この街に骨を埋めることはしないと思う。理由はわからないけどそう思う。 浴室から水の音がする。お風呂にお湯をためている音

          vol.1 水の記憶(布施 雪・17歳)

          神通川.jpについて

          「神通川.jp」は、神通川という架空の街で亡くなった人たちの話です。 神通川【じんずうがわ】 日本・東京近郊のX県に存在した都市。 人口の95%がとある宗教を信仰していた。 2020年に起きた事故により、以降はゴーストタウンとなった。 vol.1 布施 雪 vol.2 川端 みなも vol.3 ヒドラ・ラム vol.4 埋火 ほむら vol.5 塩釜 麦穂 ※この物語に登場する人物、場所、出来事はすべてフィクションです。もし現実と何らかの一致があっても、それは

          神通川.jpについて