vol.5 自炊で自分を幸せにする才能がある(塩釜 麦穂・13歳)

塩釜 麦穂(しおがま・むぎほ)13歳、中学生

小学校5年くらいの頃から、あまり親が帰ってこなくなりやがった。パパもママもいっしょのタイミングで出て行って、いっしょに帰ってくるから、ふたりでどっか同じ場所に行ってんだろうな。どこ行ってた?って聞いたら、「おしごと」つって。まあくわしくは知らない。ぼくは幼い頃から、「おしごとに関することを人に聞くのは失礼なこと」だっていうシツケを受けているから、それは家族でも例外じゃねえと思ってる。(というのは建前で、前にパパに仕事のこと聞いたとき、怒られてタバコの火を押し当てられたし。二の腕の痕が消えねーの。ほんとクソだ)

ママの作るごはんは、もうかなり食ってない。忘れた。でも、おかげで、ぼくは自炊ができるようになったのだ。どう?いつもテレビのリモコンの下に1万円が2枚置いてあって、「ムギ これで何か食べてね」って書かれたふせんが貼ってある。いつも一字一句おなじだ。クソが。「ムギ これで何か食べてね」それで最初はコンビニのお弁当やパン、駅前のチェーンのお店をローテして食ってた。でもひととおり巡ったら、飽きちまった。学校では部活もやってねーから、時間ならあるし、なにかつくってみることにしたんだ。

今日は、冷蔵庫を開けると…たまごがある。鳥もも肉も。こいつらが揃えば、できる料理は一択。

一口大にバラした鳥もも肉を、めんつゆとケチャップとウスターソースで煮る。おっと、この和洋折衷がポイントなんだぜ。その間に別のフライパンで丸ーい薄焼き卵を用意しとく。鳥もも肉に火が通ってソースたちもある程度に詰まったら、あとは盛り付け。
小さめのどんぶりにご飯をよそって、薄焼き卵をそっと載せる。そこにさっきの鶏モモをソースごとドーン!!

「オムライス丼」の完成!
タレがご飯に染み込んで、たまんねーんだ。

夢?夢なんてねえなー。でも、こうやって自分の作った食べ物で誰かを幸せにできるんなら一生幸せになれる気もすんだよな。それが誰かはわかんねーけどさ。うん、だから、将来は、料理をつくる人になりたい。ぼくは今、自炊がマジクソ本当に楽しいんだよ。でも自炊と料理は違う。料理をつくって、だれかに食べてもらえて、毎日そうやって生きていける。なんてサイコーな毎日だよ、おい。
明日は何をつくろうかいなーっと。


塩釜 麦穂 死因:急性アルコール中毒 享年13

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