「JINSだけがおいしい思いをしたくない」ジャージ姿の本部長が、DCとコンタクトで変革を起こす #03
「将来は洋服屋をやりたくて」
文化服飾学院卒業後、総合スーパーの衣料品部門で働き、現在は3社目であるJINSのオンラインショップとコンタクト事業を手がける、異端児 向殿文雄。
#03 は、 その出立ちから、威厳(と、若干のやんちゃさ)を感じずにはいられなかった“あの人”に、話しを聞きました。
「ジャージがユニフォーム」である向殿が眉間にシワを寄せながら考えるのは、メガネ業界とメガネユーザーみんなの幸せだった。
「ECで100億円売ります」この言葉でJINSに入社したものの...
向殿が所属するのは、「グローバルOMO戦略本部」と「コンタクト事業本部」。
「今年2月から、部署名にグローバルがつきましたが、英語は全然話せません。今勉強中で、関係代名詞まで終わったところです。ようやく、中学3年生の範囲まで」
その風貌に似つかず(?)、意外と面白いことも言うタイプのようだ。
いや本人は真面目に話してるが、なんか面白い。
そんな向殿は、これまでアパレル畑一筋のキャリアを歩んできた。文化服飾学院卒業後、一社目は大手総合スーパーの衣料品部門で「マーチャンダイザー(MD)」(=商品の開発から販売戦略までを一貫して行う仕事)として8年ほど勤務。担当部門の業績は良かったものの、会社全体の経営が傾き、そのもどかしさからレディースのアパレル企業に転職した。
その後、親会社である某有名アパレル企業に吸収されるという話が出てきた際、「それならばもっと規模の小さい組織で、自分が思い描いたビジネスをデザインしたい」と、再び転職を決意。3社目でJINSにジョインし、今年で11年目を迎える。
「アパレルの世界ではMDもやったし、2社目は日本最初のSPA(自社製品を自前の小売店で販売する、製造小売業)と言われている会社でした。EC(インターネット通販)の立ち上げも携わったし、手広くいろんなことやってきたかなと」。
そんな経歴に、JINSの田中CEOが引っかかった。
「面接を受ける前にネットを見ていたら、田中が『メガネを1000億円売り上げたい』というようなことを言っていたんです。11年前、まだECに進出する会社は少なくて、メガネなんてなおさら。だから、面接の時に『僕がJINSでECサイトをやったら、100億くらい売りたいです』と言ったら案の定引っかかって、入れてもらえました」
向殿は苦笑いをしながら、こう続けた。
「でも、この言葉が自分を苦しめることになりました。100億円という数字は未だに達成できていないので、挑戦しているところです」
「ネットだけの情報でメガネ買うなんて、ありえない」
入社後、最初の業務として任されたのは、志望していたEC事業。しかし、この10年間、メガネ会社ならではの苦悩に直面してきたそうだ。
「そもそも、メガネをECで買うって難しいんですよね。JINSの本社メンバーが集まる機会があって、200〜300人に聞いてみたんです。『この中で、JINSのメガネを使っていて、オンラインで購入した人ってどれくらいいますか?』と聞いたら、60人くらい。さらに『その中で、現物を見ることなくネットだけで購入完結した人は?』と聞いたら、5人くらいだったんです。『ネットだけの情報でメガネ買うなんて、ありえない』って言われました(笑)」
確かにそうだ。筆者もJINSのメガネ(ポケモンコラボのお気に入り!)を使っているが、ネットでバリエーションやデザインをチェックしてから、実際に店舗で試着をして、購入に至った。
「普通、そうですよね」と向殿。
「アパレルと違って、メガネのカスタマージャーニーは少し特殊。JINS全体の購入体験の中にECが入り込んで、結果、店舗なのかECなのか、どこかで買ってくれよ、ということなんです。それが分かってから、デジタルに関与した率を上げたり、お客さんに満足してもらえる体験を提供する、という戦法戦略に2017年から切り替えました」
戦法戦略を切り替えるタイミングで、「EC(Electronic Commerce)」と呼んでいた事業を、「DC(Digital Commerce)」に切り替えた。ECが新規サービス/業務を意味するのに対し、DCは既存サービス/業務の変革を指す。3年経った今、コロナ禍でオンラインショッピングのユーザーが増えたこともあり、ようやくJINSでもDCの定着を感じているという。
アプリ、オンラインでの利便性だけじゃなくて、ニュースを発信していくこと、他社との差別化も重要だ。その一つとして、最近では、サイト上でバーチャル試着ができる仕組みや、メガネの“お似合い度”をAIが教えてくれるシステムも導入している。
筆者も、JINS店舗で何度も利用したことがあるAI診断。実際、「似合っている」目安のスコアは?と聞いてみると...
「目安は80点以上。ちなみに僕は、ことごとく60点以下なんですけどね。なかなか似合うものがないんですよ」とのこと。(若干、反応に困ったのは言うまでもない。)皆さんも、ぜひご参考に。
メガネ会社が、コンタクトを販売する意味
向殿が兼務しているのが、「コンタクト事業部」。2016年頃、たった3人でプロジェクトを立ち上げ、ローンチから3年目を迎えるJINSのコンタクトは広告も話題になったが、「メガネ会社がコンタクト?」と思った人も少なくないだろう。
その疑問を、向殿にぶつけてみた。
「メガネとコンタクトは、併用してる方がたくさんいる。ユーザーがかぶるだろうなという仮説を最初に立てたんです。さらに市場規模で言うと、メガネが7000万人のユーザーで4000億円。コンタクトは2000万人で、3000億円。意外かもしれませんが、ユーザーの数が全然違うんですよ。JINSは、“視力に悩む人”のデータを日本で一番持っている会社なので、コンタクトの販売にも生かせるのでは、と考えました」
確かに、私自身も日中はコンタクトを使っているが、帰宅後や休日はメガネで過ごすことが多い。このように“併用”しているユーザーがほとんどだろう。
JINSメガネユーザーのデータを、コンタクト事業に活用する一方で、コンタクトを入り口に、新規ユーザー獲得も目指しているという。
「みなさん、自分のメガネの度数わかります?...知らないですよね。でも、コンタクトの度数は分かるんです。ネットで買うときに度数を記入するし、購入頻度が高いので自覚しやすい。コンタクトは、ユーザーエンゲージメントの高いグッズと言えます。コンタクトを入り口に、メガネの新規ユーザーを獲得するルートもあるな、と考えているんです」
JINSが目指すのは、業界全体の成長とユーザーの幸せ
メガネの市場規模「4000億円」は、実はここ10年ほど変化していないそうだ。向殿は「この市場の中でずっとシェアを伸ばし続けることは、限界があると思っています。JINSのシェアが伸びるということは、どこかが疲弊しているということ。業界全体に活気があるかというと必ずしもそうではなく、JINSだけが良い思いをするというのは、あまり健全ではないと思うんです」
JINSの成長のため、そしてメガネ業界とメガネユーザーみんなの幸せのために。向殿が目指すのは、メガネ市場の拡大だ。
「メガネの平均単価は12000〜13000円で、実は、靴も同じくらいなんです。でも、靴の市場規模って1兆4000億円なんです。何が違うかと言うと、メガネやサングラスって1人2、3本だと思うんですけど、靴って7、8足とか持つじゃないですか。市場拡大のためにも、メガネを複数本持つことを当たり前にしたいんです。
そのためには魅力的なプロダクトや買い方が必要で、僕は後者から変革を起こしていかないと。
これは、JINS一社でやっても仕方ないと思っているんです。JINSが持つ、4000万人分のデータを使って、メガネ業界全体のDXみたいなものをJINSを起点に巻き起こせたらうれしいですよね。そうすることで、業界のデータやアイデアが集まるプラットフォームが作れて、業界全体に還元できるし、お客様にもより良い購入体験を提供できると考えています」
良い話でインタビューが終わるのかと思いきや、向殿は、しっかりオチをつけた。
「この話、実はメガネの展示会でしたことがあって。手前味噌ながら、すげー評判よかったんですよ。その時も、今日とほとんど同じ格好で、ジャージでしたけど」
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メガネだけでなく、アパレル、DC…「業界の成長」「ユーザーの幸せ」に携わる仕事がしたい人は、ぜひJINSの門を叩いてみてほしい。企業の枠を超えた、「業界の変革」に挑戦できる出会いが、環境がここにはある。
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