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藍 宇江魚
2021年8月21日 23:25
徳兵衛、蛻吉ともに9歳。 あさり、7歳。 三人、夏の午後に山中の廃寺にて。 あさりが泣いている。「あさり。どうした?」 彼女を慰める徳兵衛。 蛻吉は無表情で二人を見つめている。「虹色の蟲魂。逃がしたぁ」「虹色?」「うん」「よし。俺が獲って来てやる」「徳ちゃん。ほんとう?」「まかせとけ。蛻吉。行くぞッ」 徳兵衛、蛻吉の手を引っ張って山へ向かった。 廃寺の前。 草む
2021年8月30日 17:00
お勢は、夕餉を食する徳兵衛をジッと見つめている。 箸を口へ運ぶ手を休めて徳兵衛は、お勢の顔をみると微笑んで言った。「お勢。この煮つけ。とても美味しいよ」 お勢はちょっとがっかりした顔つきとなる。「どうしたんだい?」「…」「蛻吉にも食べて貰いたかったんだね?」 お勢、頷く。「仕事でね。蛻吉の奴。しばらく戻れないかもしれないねぇ」 お勢、更に深く項垂れ。「心配しなくてもお勢の気持
2021年9月7日 23:38
「まだ、屋敷から出て居らぬ筈じゃ。くまなく探せッ」 殺気だった伊予守の家臣数人が、繁みに身を潜めるあたりと横嶋の方の前を駆け去っていった。「やれやれ」 あさり、呟き。 肩の力を抜くとあさりは、背中にしがみつく横嶋の方を自分から引き剥がして言った。「気持ちは解るけど、しがみつかないで」 横嶋の方はガタガタ震えている。 …厄介なことになっちゃったなぁ… 半刻ほど前。 伊織とはぐれて
2021年9月17日 01:07
* 備中国、川嶋の庄。 その歳、備中国を旱魃が襲い町や村は大飢饉となった。「大刀自様。この先の村は飢饉で村人が死に絶えたそうに御座います。間もなく日が沈む刻限となります。近頃、この辺りに野盗の輩も横行しております故、お一人での出立は見合わせれては如何で御座いましょう」 旅籠の主は、草鞋の紐を結んでいる大刀自の出立を止めようと懸命に説得した。 紐を結び終えた大刀